不妊治療中に「DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)」という言葉を見かけて、気になった方も多いと思います。一方で、DHEAは“ホルモンの材料(プロホルモン)”のような扱いをされて、海外サプリとしてフィットネス分野(筋トレ界隈)でも話題になった経緯があります。
そして最近は、DHEAではなく 「7-Keto DHEA」 という似た名前のサプリが、「脂肪減少」「代謝アップ」目的で流通しています。
そうしたなかで、

DHEAが手に入らないなら、7-Keto DHEAで代わりになる?
という発想に行き着くケースがあります。
しかし、この2つのサプリメント。名前が似ているだけで、狙っている作用は全くの別物なのです。
今回は、不妊治療に関する話題を主軸にしつつ、「ふたつのサプリメントは何がどう違うのか」を、いつもより少し肩の力を抜いて紹介します。
不妊に対するDHEA研究の背景
DHEAは体内のステロイドの一種で、副腎由来が多く、必要に応じて標的組織でテストステロンやDHTに変換され、アンドロゲンとして働くとされています。
研究者が注目したのが、この「アンドロゲンの材料」とでも言うべき性質です。



卵巣刺激(FSH)を行っても卵胞が育ちにくいタイプの患者さんにDHEAを投与することで、卵巣のアンドロゲン環境が整って卵胞が刺激(FSH)に反応しやすくなるかも
そう考えて研究が進められました。
実際、動物研究ではDHEA補充により、顆粒膜細胞(卵胞を支える細胞)の増殖が促され、FSH反応性が増幅され、前胞状卵胞や胞状卵胞の「動員されやすさ(recruitability)」が上がる可能性が述べられています。言い換えるなら、排卵に向けた「卵子オーディション」への参加者が増えるかもしれないといった具合です。
不妊治療でのDHEAの位置づけ
ESHRE(欧州生殖医学会)のガイドライン(2019)では、研究で用いられてきたDHEAの投与例として、1日75mgを基本に、卵巣刺激の開始より6〜12週前(多くは12週前)から始め、卵巣刺激中も継続する、といった運用が示されています。
とはいえ、DHEA投与が「良さそうに見える」データもあれば、「そうでもない」データもあり、効果についてはっきり有効とは言えない状況です。実際、同ガイドラインでは、メタアナリシスでDHEAの前治療が出生率や継続妊娠率を改善したように見える結果が報告されている一方で、バイアスが高い試験(DHEAを飲んでいるかどうかが本人や周囲に分かる試験)を除外すると、有意差が消えることも記載されています。
そのため、最終的な推奨度は高くありません。ESHREは、卵巣刺激に反応しにくいタイプの患者さん(poor responder)に対して、DHEAは「おそらく推奨されない」としています。根拠として、エビデンスが一貫していないこと、投与期間や安全性に関するデータが十分ではないこと、そして大規模なランダム化比較試験が必要であることを挙げています。
つまりDHEAは、「やれば確実に良くなるサプリ」という位置づけではなく、研究は重ねられてきたものの、未だ決め手に欠ける存在として扱われています。
筋トレ界隈におけるDHEAの「理想」と「現実」
DHEAは、副腎で作られるホルモンの一種です。体の中で代謝され、テストステロンやエストロゲンなどの性ホルモンを作る前駆体(材料)として働きます。
この性質があるため、筋トレ界隈では一時期、DHEAは「プロホルモン(ホルモン前駆体)」のような扱いで注目されました。要するに、「飲めば体内の男性ホルモンが増えて、筋肉がつきやすくなるのでは?」という期待が先に立ったわけです。有名YouTuberが“激推し”していたり、「論文で証明された」などと発信している場面に覚えのある方もいるやもしれません。
しかし、得てして期待と現実とは一致しないものです。
実際、スポーツや筋力トレーニングの観点からDHEAを見た研究では、少なくとも「健康な若い男性が、筋肥大やパフォーマンスアップを狙って飲む」という目的では、メリットがはっきりしない、あるいは“期待ほどではないという見方が優勢です。
たとえば、若い競技者(サッカー選手)にDHEAを一定期間投与した試験では、ホルモン値の変化は起きても、体組成(筋肉量・体脂肪など)の改善につながらなかったとの報告があります。また、「DHEAで運動能力が上がる」というイメージ自体についても、レビュー(研究全体を見渡して評価する論文)では、“神話に近い”という厳しめの結論が示されています。
一方で、「DHEAが効きやすいかもしれない層」も存在します。
それは、加齢などで体内のDHEAが低下している人たち。
このような人たちに対してDHEAを補うことで、筋肉や体組成がわずかに変化する可能性が検討された研究もあります。ただしこの分野も、筋力や身体機能への効果は一貫せず、明確な結論には至っていないとされています。
つまりDHEAは、「体内で男性ホルモンに変わるやつ!」と、筋トレ界隈で注目されはしたものの、研究ベースで見てみると、筋肥大やパフォーマンスアップに対する効果は総じて“期待薄”だったというのが現実なのです。
そしてもう一つ、DHEAが話題になりやすかった背景として、アンチドーピングの話があります。DHEAは、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の禁止表でも「禁止物質」として扱われており、競技スポーツの世界では使用が問題となります。



禁止されてるなら、効くんじゃね?
そんな空気感も、注目を強めた要因の一つだったかもしれません。
DHEAが「手に入りにくくなった」理由



DHEAって、ちょっと前から海外通販(個人輸入代行)で売ってなくね?
これは気のせいではありません。日本では2019年1月1日から、DHEAを含む製品の個人輸入が実質的に厳しくなっています。
厚生労働省の通知によれば、海外で販売されている脳機能の向上を謳った医薬品やサプリメント等の食品について調査した結果、医療用医薬品に使用されている成分を含むと表示されている商品が多数認められました。さらに、専門家の意見や審議会おける議論を踏まえ、対象となる成分は医師の処方や指示なしに自己判断で使うと、健康被害や乱用につながるおそれが高いと判断されたのです。
そのため、DHEAをはじめとした医療用医薬品を含んだ製品は、原則として、数量に関わらず、事前に薬監証明(いわゆる“輸入の許可”のような手続き)を取らなければ一般の個人輸入は認めないという扱いになりました。
これはなにも、「不妊治療中の人が購入するから危険視されている」わけではありません。当初筋トレ界隈では「不妊治療に携わる医師の利権を守るため」といった陰謀論めいた話も聞かれましたが、こちらの真偽も定かではありません。少なくとも公的な通知の文面から読み取れる理由は、自己判断で医薬品成分を含む製品を取り寄せて使用することに伴うリスク(健康被害・乱用)への対応です。
7-Keto DHEAとは?
DHEAが手に入りにくくなって以降、名前がよく似た「7-Keto DHEA」が目に入るようになりました。通販サイトなどで同じ並びに表示されることもあり、「名前が似ているなら、目的も近いのでは?」と考えて選ばれるケースがあります。
しかし結論から言うと、DHEAの代わりに7-Keto DHEAを選んでも、不妊治療で期待されるような卵巣の反応性や卵子の質の改善を図ることはできません。
というのも、この7-Keto DHEA。DHEAが体内で変化した「代謝物(別の形になったもの)」のひとつで、アンドロゲンにもエストロゲンにも変換されないとされているからです。
前述のとおり、不妊治療でDHEAが注目されたのは、体内で代謝されながら「卵巣の環境(いわゆるアンドロゲン環境)」に関わるかもしれないと考えられたからでした。つまり、名前こそDHEAに似ているものの、代替品として利用するのは難しい物質。それが7-Keto DHEAなのです。
では、7-Keto DHEAはどのような目的で用いられることが多いのでしょうか。
7-Keto DHEAは、不妊というよりも、「脂肪減少」「代謝亢進」といった目的で取り上げられることが多い成分です。論文でも、体重減少をうたうサプリとして販売されている背景が説明されています。
とはいえ、減量目的についての研究は多くありません。系統的レビューでは、条件を満たして採用された研究は4本だったとされ、結果も「良い方向の報告もあれば、はっきりしないものもある」という評価になっています。減量目的に使うとしても、研究は多くなくて、効くと断言できるほどの根拠はまだ揃っていないのが現状と言えます。
まとめ
- DHEAは医療用医薬品扱い
サプリメントとはいえ、DHEAは医療用医薬品扱いの成分です。現在は個人輸入のハードルが上がっており、そもそも一般の人が自己判断で手に入れて飲む前提のものではありません。
特に不妊治療中は、刺激法や併用薬、検査値など、治療計画との兼ね合いも重要になってきます。「手に入ったから試す」のではなく、目的と治療方針に合っているかを主治医に相談する必要があるでしょう。 - DHEAと7-Keto DHEAは別物
名前が似ていても、7-Keto DHEAはアンドロゲンにもエストロゲンにも変換されないとされており、DHEAの代用品として扱うのは難しいものです。
加えるなら、7-Keto DHEAは「脂肪減少」「代謝亢進」の文脈で語られることが多いものの、減量目的の研究は多くなく、結果も一様ではありません。採用された研究が限られるというレビューの状況を見ても、“効く”と言えるほどの証拠が揃っているわけではないというのが現状です。
不妊治療は、ただでさえ治療の選択肢が多く、情報もあふれています。治療を続けていくなかで、何か他にできることはないかと探した結果、自己判断でサプリを追加したくなるのは自然な心の動きと言えます。
とはいえ、もし、



卵が育ちにくいし、お医者さんからダイエットも指示されてるから、7-Keto DHEAを飲んだら良いかも。
そう考えてしまったとしたら。
それは、一番 “悪手” に近い選択肢かもしれません。
【参考文献】
ESHRE Reproductive Endocrinology Guideline Group. Ovarian stimulation for IVF/ICSI Guideline of the European Society of Human Reproduction and Embryology. 2019.
Zhang J, Jia H, Diao F, Ma X, Liu J, Cui Y. Efficacy of dehydroepiandrosterone priming in women with poor ovarian response undergoing IVF/ICSI: a meta-analysis. Front Endocrinol (Lausanne). 2023 Jun 9;14:1156280.
脳機能の向上等を標ぼうする医薬品等を個人輸入する場合の取扱いについて(薬生監麻発1126第3号). 厚生労働省. 2018. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3785&dataType=1&pageNo=1,(参照 2025-12-15).
Jeyaprakash N, Maeder S, Janka H, Stute P. A systematic review of the impact of 7-keto-DHEA on body weight. Arch Gynecol Obstet. 2023 Sep;308(3):777-785.

