アトピー性皮膚炎の鍼灸施術について

アトピー性皮膚炎に「鍼灸」という選択枝

 鍼灸は古くから様々な皮膚疾患に対して使用されてきました。「気の流れを整える」や「自然治癒力を高める」など、非科学的で曖昧な表現をされることも多い東洋医学の施術法ですが、近年ではアトピー性皮膚炎に対する有効性の研究がすすめられ、その効果が明らかになりつつあります。
 つまり鍼灸は、たとえ東洋医学的な観点から施術を行ったとしても、科学的に解明可能な、理にかなった変化を身体に引き起こしているのだと言えます。薬物治療以外の治療法を試したい方、または現在の治療に満足していない方にとって、鍼灸は症状改善のための選択肢となり得ます。

アトピー性皮膚炎とは

 アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis: AD)は、慢性かつ再発性の炎症性皮膚疾患であり、強い痒みと湿疹が特徴的です。この疾患は、皮膚のバリア機能の低下や免疫システムの異常が主な原因とされ、それらが複雑に絡み合って症状を引き起こします。アトピー性皮膚炎は乳児期から発症することが多いですが、子どもから大人まで幅広い年齢層で見られ、特に湿疹が長引き、慢性化する傾向が強いことから、日常生活や睡眠に大きな影響を与えることがあります。
 アトピー性皮膚炎の発症には、複数の要因が関与しています。遺伝的素因に加え、環境要因(例えば、ハウスダスト、花粉、ダニなどのアレルゲン)、気候、食事、ストレスなどがその一因となります。また、皮膚のバリア機能が弱いため、外部からの刺激や病原菌の侵入を受けやすく、これが炎症を引き起こしやすい状態を作り出します。

アトピー性皮膚炎の一般的な治療法

 アトピー性皮膚炎の症状は多様で、軽度の乾燥から重度の湿疹、痒みに至るまでさまざまです。湿疹は、特に顔や首、肘の内側、膝の裏側などに出現しやすく、炎症が進行すると皮膚が赤くなり、湿潤やかさぶたができることもあります。また、強い痒みにより掻きむしることで、さらに皮膚がダメージを受け、悪化するという悪循環に陥りがちです。特に夜間に痒みが強くなり、これが睡眠不足を引き起こし、さらなるストレスを生み出すことも少なくありません。その治療は、症状の軽減と再発の防止を目的としています。一般的には薬物療法が中心となりますが、生活習慣の改善も重要な治療法の一つです。以下は、主な治療法の概要です。

  • 保湿ケア
    皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を補強するために、保湿剤の使用は欠かせません。皮膚をしっかりと保湿することで、外部からの刺激を遮断し、皮膚の炎症を抑える効果があります。保湿剤は、特に入浴後や乾燥しやすい季節には、頻繁に使用することが推奨されます。
  • ステロイド外用薬
    炎症を抑えるために、ステロイド外用薬がよく使用されます。ステロイドは強力な抗炎症作用を持ち、短期間で湿疹を改善する効果がありますが、長期的な使用によって皮膚が薄くなるなどの副作用が生じることがあるため、医師の指導のもとで使用する必要があります。
  • 免疫抑制剤
    アトピー性皮膚炎の症状が重度である場合、免疫抑制剤が処方されることがあります。免疫系の過剰反応を抑制することで炎症の軽減を図ります。これらの薬は、長期間の使用を避け、定期的なチェックを行いながら投与されることが一般的です。
  • 抗ヒスタミン薬
    痒みのコントロールには、抗ヒスタミン薬が用いられることがあります。抗ヒスタミン薬は、アレルギー反応を抑える作用があり、特に夜間の痒みを軽減するために使用されます。
  • モノクローナル抗体薬
    モノクロナール抗体とは、特定の抗原(病原体や体内の分子など)の特定部位にのみ結合するように人工的に作られた抗体です。近年、デュピルマブをはじめとするモノクローナル抗体薬がアトピー性皮膚炎の治療において注目されています。炎症や痒みの軽減、皮膚のバリア機能の回復を目的に使用され、特に中等度から重度の患者に対して効果が期待されています​。
  • 生活習慣の改善
    アトピー性皮膚炎の治療には生活習慣の見直しも重要です。食生活やアレルゲンの回避、ストレスの管理など、日常生活の中での改善が症状のコントロールに大きく寄与します。特に食事に関しては、アレルゲンとなる可能性のある食品を避けることが勧められます。また、衣服の選択や住環境の改善も重要です。

アトピー性皮膚炎と鍼灸

 このページの冒頭で、鍼灸のアトピー性皮膚炎に対する有効性の研究がすすめられ、その効果が明らかになりつつあると述べました。では、実際にどのような効果が鍼灸に期待できるのでしょうか。そして、鍼灸を受けるメリットはあるのでしょうか。ここからは、鍼灸に期待される効果や鍼灸を受けるメリットについて紹介します。

鍼灸に期待される効果

 鍼灸はアトピー性皮膚炎に対して次のような効果を期待できると、様々な研究によって明らかにされています。

痒みの軽減

 複数の研究において、鍼灸がかゆみの強度を著しく減少させることが報告されています。例えば、あるランダム化比較試験では、鍼灸治療を受けたアトピー性皮膚炎患者の多くが、かゆみの軽減と皮膚症状の改善を実感したとされています​。また、炎症を引き起こすサイトカインという物質の分泌を抑制する作用があることが動物実験でも確認されています​。
 特定の経穴(つぼ)に鍼を刺すことで、神経系や免疫系に影響を与え、炎症反応を抑えるとともに、痒みを感じる信号を抑制することで痒みを抑えるのです。

ランダム化比較試験:治療法の効果を確かめるために行われる信頼性の高い試験で、研究の対象者を2つ以上のグループに無作為(ランダム)に分けて効果が検証されます。

皮膚のバリア機能の回復

 アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能が低下することで外的な刺激に過敏になる病気なのですが、鍼灸には皮膚のバリア機能を回復させる効果が期待されています。これは、鍼が皮膚の血流を改善し、細胞の再生を促進することによって達成されます。鍼による刺激が皮膚の再生を助けることで、湿疹や乾燥による損傷を和らげるとの報告があります。

ストレス軽減と免疫調整

 アトピー性皮膚炎は、心理的なストレスが原因で悪化することが知られています。鍼灸はストレスを軽減する作用も持ち合わせています。ストレスが軽減されることで免疫系の機能が整い、結果的にアトピー性皮膚炎の症状も軽減すると報告されています。さらに、鍼灸は副交感神経を刺激してリラックス効果を高めるので、患者のQOL(生活の質)の向上にも寄与します。

随伴症状への対応

 アトピー性皮膚炎には、肩こりや冷え、過食、イライラ、便秘、不眠など、全身性の症状を伴うことが多いです。多くは自律神経の不調によるものと考えられます。これらの症状に対応し、全身状態を改善することも、鍼灸に期待される効果の一つです。

鍼灸を受けるメリット

 鍼灸は現代医学的な薬物治療と異なり、大きな副作用が無いことが特徴です。これにより長期的な改善を目指すことができ、受療を続けることで再発防止効果も期待できます。また、随伴症状にも対応することで、全身の健康状態の改善が期待されます。これらは鍼灸を受療する大きなメリットと言えます。

鍼灸を選択する前に!
 アトピー性皮膚炎に対する薬物療法は近年おおきな進展を見せています。過去に病院での治療で思ったような結果が出なかったりステロイドに忌避感があったりして、病院での治療を受けていなかったり自己判断で中断していたりするのであれば、もう一度病院で診察を受けることをお勧めします。アトピー性皮膚炎に苦しむかたが、過去の治療経験やインターネットなどの情報から東洋医学や自然療法に期待を抱いてしまう気持ちは察するに余りあることですが、アトピー性皮膚炎の治療で第一に優先されるのは病院で行われる治療であり、それが最先端で最善です。鍼灸を含む東洋医学や自然療法は、あくまでも補完・代替的な役割であることをご承知ください。逆に申せば、病院での治療を否定して東洋医学や自然療法を推してくるような施術所に掛かることは絶対に避けるべきなのです。

アトピー性皮膚炎に対するじねん堂の施術

 じねん堂では、鍼灸に加える手法として物理療法やサプリメントなどを用い、アトピー性皮膚炎に対する施術を組み立てています。以下にその内容を紹介します。

鍼灸

 アトピー性皮膚炎に対する鍼灸の手法として、じねん堂では主に董氏楊氏奇穴を採用しています。
 董氏楊氏奇穴は、​董景晶(1975没)によって世に公開(73名の弟子に伝授)されるまで漢の時代から長きに亘って董家に伝わる一子相伝の奥義だった董氏奇穴を、弟子のひとりである楊維傑が中心となって体系付けしたものです。成立の古さや医家の秘伝であったことなどから、鍼灸の原典である黄帝内経で主に述べられている施術に近い手法だと考えられています。
 董氏楊氏奇穴の特徴として第一にあげられるのは、患部に鍼を刺入しない遠隔施術である点です。身体を巡る “気” の経路である経絡同士の関係や、740余の独自のツボ(奇穴)を利用して患部から離れたポイントを刺激することで、種々の生理反応を引き出します。症状によっては刺血・刺絡といって、皮膚に微小な傷をつけて血(けつ)の滞りを除去する手法も用います。また、董氏楊氏奇穴では、必要に応じて常用穴(一般的なツボ)も用います。もちろん、臨床研究でアトピー性皮膚炎に有効であると示唆された常用穴も、これに含まれます。

温灸療法について
 ポカポカと温かい刺激が特徴の温灸には、血流を促進する効果が期待されます。血流の促進は皮膚の再生に寄与するので、皮膚のバリア機能の改善につながりそうなものですが、いくつかの研究において、バリア機能が損なわれている皮膚への温熱刺激は痒み症状を悪化させるとの指摘がなされています。これは、ある種の物質が温熱刺激に反応することで引き起こされると考えられています。つまり、温灸による刺激はアトピー性皮膚炎の症状を悪化させる可能性があるのです。したがってじねん堂では、痒み症状のある(あるいは痒み症状の起こり得る)患部局所へは温灸療法を用いないことにしています。

物理療法(スーパーライザー)

 スーパーライザーとは、光近赤外線を照射する物理療法機器です。
 近赤外線は熱感を与えることなく、血流を改善したり炎症や神経の興奮を抑えたり、皮膚などの組織の活性を助けたりするなどの効果があるとされています。アトピー性皮膚炎の場合、喉の部分(星状神経節)や患部皮膚に照射します。

スーパーライザーによる近赤外線星状神経節近傍照射

サプリメント

 じねん堂では、漢方系のサプリメントを取り扱っています。
 アトピー性皮膚炎に対しては、状態に応じて、タンポポ茶(ショウキT-1)と松こぶエキス(松康泉)のどちらか、あるいは両方をお勧めしています。例えば、東洋医学的な見地からだと、ジュクジュクと湿ったタイプにはタンポポ茶(ショウキT-1)、長期化して黒ずんでしまったタイプには松こぶエキス(松康泉)。また、臨床研究から考えると、免疫への影響を期待してタンポポ茶(ショウキT-1)、自律神経や炎症への働きかけを図るべく松こぶエキス(松康泉)といった具合です。

推奨される施術頻度・期間

 アトピー性皮膚炎に対する鍼灸は長期間に亘る継続的な施術が必要な場合が多く、施術頻度や期間は症状の緩和や改善の度合いによって決まります。一般的には、以下のような頻度と期間が推奨されます。

  • 初期集中期間
    最初の2~4週間は、中2日~3日程度の頻繁な施術を行い、症状の改善を目指します。
  • 維持治療
    症状が安定してきたら施術頻度を減らし、週1回から2週間に1回程度のペースとします。初療から数えて2か月~半年、場合によってはさらに長い期間が必要なこともあります。
  • 長期ケア
    アトピー性皮膚炎は再発しやすいため、予防的なケアとして月に1回程度の施術を継続します。

 ある研究によると、アトピー性皮膚炎に対する鍼灸施術の期間と回数は平均7,6か月(22日~3年1か月)と24回(10~110回)であり、施術回数を重ねたほうが症状の改善率が高い傾向にあったようです。また、アトピー性皮膚炎に対する鍼灸は、初期の施術を集中的に行い、その後はメンテナンス目的の施術を適切に行うことが理想です。とはいえ実際には、個々の状況に応じて施術の頻度や回数は変わります。施術計画は、施術に対する反応や個人の生活習慣に応じて柔軟に調整されます。

最後に

 アトピー性皮膚炎の改善には長期的な視点で取り組むことが重要です。鍼灸は、そのプロセスに寄与できる施術法の一つです。あくまで病院での治療が第一ではありますが、薬物治療以外の治療法を試したい方、または現在の治療に満足していない方は、ぜひ一度(一定期間)じねん堂の鍼灸を試してみてください。症状に合わせた最適な施術を提案し、生活の質向上を目指して全力でサポートいたします。


基本施術料会員:4,950円
一般:6,600円
※子供、学生割引あり
初回料2,200円
特殊鍼法
【刺血・刺絡】
 東洋医学の理論に基づき、生命の根源である「気」と「血」を動かすために特殊な鍼を用いて皮膚を切ります。少量の出血を伴います。いわゆる「瘀血の症状」に対して用います。外科手術等の医行為を混同される方もいらっしゃいますが、法的にも認められた鍼の手法のひとつです。 
1回/1,100円
スーパーライザー
 直線偏光近赤外線治療器であるスーパーライザーは、アトピー性皮膚炎の場合、全身・局所の血流改善や神経の緊張緩和、皮膚組織等の活性補助を目的として照射します。
1回/550円
詳細は費用のページをご高覧下さい。

予約

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営業電話は固くお断りします

月~金 9時~21時
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免責事項

 鍼による施術は痛みや出血を伴う場合があります。また、以下のような場合、施術による変化が現れにくかったり、症状の“もどり”が早かったり、施術期間が⻑期に及んだり、施術することをお断りしたりすることがあります。鍼にはネガティブな側⾯があり、万能でもないことをご承知おきください。

構造上の問題による痛み
重篤な疾患による痛み
強⼒なあるいは多種の薬剤服⽤
⾼齢・衰弱による⽣理機能の低下
取り除けない物理的刺激要因
各種⼼理的要因

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アクセス

〒514-1105 三重県津市久居北口町15-7
近鉄久居駅より徒歩15分/伊勢自動車道久居ICより車で5分
駐車スペース場常2台分あり
※看板がありませんのでご注意ください

【参考】
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021
石氏陽三. アトピー性皮膚炎診療に対する最近の考え方. 耳鼻咽喉科展望. 2019;62(6):280-290.
Li X, Liang L, Li S, Wang C, Cucco A, Du X, Zhang J, Wang S, Yuan W. Effect of acupuncture in eczema: An overview of systematic reviews. Complement Ther Med. 2023 May;73:102925.
Jiao R, Yang Z, Wang Y, Zhou J, Zeng Y, Liu Z. The effectiveness and safety of acupuncture for patients with atopic eczema: a systematic review and meta-analysis. Acupunct Med. 2020 Feb;38(1):3-14.
Li W, Zhang K, Wang D, Jiao R, Li S, Zhai X. Acupuncture and related therapies for atopic eczema: A protocol for systematic review and network meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2022 Dec 16;101(50):e31956.
江川雅人. 成人型アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の臨床的研究. 明治鍼灸医学. 2003;33:35-49.
Murota H, Katayama I. Evolving understanding on the aetiology of thermally provoked itch. Eur J Pain. 2016 Jan;20(1):47-50.

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