PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とは
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、女性におけるホルモンの不均衡と卵巣機能の異常が引き起こす複雑な内分泌障害です。診断基準によっていくらか差がありますが、女性の6〜10%が罹患していると考えられています。月経不順、不正出血、無月経が主な症状であり、多毛や肥満、耐糖能異常(血糖値が通常より高い状態)を呈することもあります。また、PCOS患者は自律神経の交感神経が興奮しやすい状態にあることが分かっています。
鍼灸はPCOSの治療法として注目されており、多数の臨床研究において有効であったとの報告が為されています。じねん堂でも、いくつかの鍼灸の手法と物理療法(スーパーライザー)とを用いて施術に当っています。
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の特徴
PCOSはさまざまな症状を引き起こし、その症状は女性ごとに異なることも多いですが、次にお示しする3つの特徴的な症状で知られています。
- 月経異常や無排卵
PCOSでは卵巣に多数の未成熟な卵胞が形成され、排卵が起こりにくくなったり完全に起こらなくなったりします。これにより、月経周期が不規則になり、無月経(数カ月間月経が来ない)や過多月経(出血が多い)などの症状が現れます。 - 高アンドロゲン血症
アンドロゲン(男性ホルモン)の過剰分泌により男性型の体毛が増える多毛症や、顔、胸、背中にできるニキビ、脱毛(男性型脱毛症)が見られることがあります。これらの症状は、見た目の変化だけでなく、女性にとって心理的なストレスの要因にもなります。 - 卵巣の嚢胞
超音波検査により、卵巣に多数の小さな嚢胞(未成熟な卵胞)が確認されることが多いです。これが「多嚢胞性」という名称の由来です。嚢胞自体は良性であることが多いですが、卵巣の機能を妨げ、排卵障害を引き起こす原因となります。
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の原因
PCOSの正確な原因は未解明ですが、以下の要因が関与していると考えられています。
- ホルモンの不均衡
高アンドロゲンレベルに加えて、LH(黄体形成ホルモン)の過剰分泌やFSH(卵胞刺激ホルモン)の不足が排卵障害に影響していると考えられています。 - インスリン抵抗性
PCOS患者の多くがインスリン抵抗性(体がインスリンを効果的に利用できない状態)を持っているとされています。インスリン抵抗性による高インスリン血症は、卵巣からのアンドロゲン産生を増加させ、結果、卵巣機能に悪影響を及ぼします。また、インスリン抵抗性は肥満や2型糖尿病のリスクも高めます。 - 遺伝的要因
PCOSは遺伝的な側面があるとされ、家族歴がある女性に発症するリスクが高いことが知られています。特定の遺伝子が関与している可能性がありますが、詳細は未解明です。
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の診断基準
日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会(2024)によるPCOSの診断基準では、以下の3つの条件すべてを満たすものがPCOSと診断されます。
- 月経周期異常
月経不順(無月経や希発月経)が見られる場合。排卵が不規則または無排卵のため、月経周期に異常が生じます。 - 多囊胞卵巣 または AMH(抗ミュラー管ホルモン)高値
多囊胞卵巣:超音波検査で、卵巣に多数の未成熟な卵胞(小嚢胞)が確認されること。
AMH(抗ミュラー管ホルモン)高値:AMHは卵巣内で産生されるホルモンで、卵胞の数を反映します。PCOSではAMHが高値を示すことが多く、卵巣に大量の未成熟卵胞が存在することを示しています。 - アンドロゲン過剰症 または LH(黄体形成ホルモン)高値
アンドロゲン過剰症:アンドロゲン(男性ホルモン)の過剰分泌により、多毛症やニキビ、脱毛といった男性ホルモンの影響が身体に現れる症状。
LH高値:LH(黄体形成ホルモン)は排卵を促進するホルモンですが、PCOS患者では異常に高い値を示すことがあります。これによりホルモンバランスが崩れ、排卵障害が起こります。
合併症とリスク
PCOSは単なる生殖器系の問題にとどまらず、長期的な健康に影響を与える可能性があります。合併症として次のようなものが挙げられます。
- 子宮内膜の病変
月経不順や無月経を治療せずに長期間放置すると、排卵が起こらないことにより子宮内膜が長期間エストロゲンにさらされるため、子宮内膜増殖症や子宮体癌(高分化型)の発生するリスクとなります。 - 不妊症
排卵が不規則であるため、妊娠するのが難しくなる場合が多いです。PCOSは女性不妊の主要な原因の一つとして挙げられます。 - 代謝異常
PCOS患者の多くはインスリン抵抗性を有しているため、肥満、2型糖尿病、高血圧などの代謝異常を引き起こすリスクが高くなります。 - 心血管疾患
長期間にわたるホルモンバランスの乱れやインスリン抵抗性は、動脈硬化や心臓病のリスクを高めます。
鍼灸とPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)
鍼灸はPCOSに対する治療法として注目されており、これまでに発表された臨床研究をまとめると、おおよそ以下の点において鍼灸の有効性が示されています。
- ホルモンバランスの改善
鍼灸はPCOSに関連するホルモンの不均衡を整える効果があるとされています。鍼によってβエンドルフィンの生成が促され、これがGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)の分泌に影響を与えることで、排卵が促進されると考えられています。具体的には、LH(黄体形成ホルモン)の減少や、アンドロゲンレベルの調整が期待され、排卵の規則性が改善される可能性があります。 - 自律神経系の調整
鍼灸には自律神経のはたらきを調整する効果があり、特に交感神経の過剰な活動を抑えることで、ホルモンバランスや代謝機能の改善が図られます。これは、PCOS患者の多くに見られるインスリン抵抗性の軽減にもつながると考えられます。 - 代謝機能の向上
鍼灸がインスリン抵抗性を改善すると考えられています。特に低周波の電気鍼がPCOS患者のインスリン感受性を高め、血糖値のコントロールに役立つ可能性が示唆されています。これは、肥満や2型糖尿病などのリスク軽減に寄与すると思われます。
鍼灸はPCOS患者にとって、ホルモンの調整や代謝の改善に役立つ可能性がありますが、鍼灸の研究は現代医学に比べると量・質ともにいまだ発展段階にあるともいえます。今後、鍼灸の長期的な効果や他の治療法との比較などの研究が進み、より確かな施術指針が確立されることに期待が持たれます。
PCOS(あるいは現代ならPCOSと診断されたであろう病)に対しての鍼灸施術自体は古くから行われているものの、現段階では、PCOSに対する鍼灸は従来の治療法と併用することで症状改善の補助的な役割を担うと考えることができます。
じねん堂の施術
じねん堂ではPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)に対して次のような施術を行っています。
鍼灸
PCOSの鍼灸施術で一般的に使われる経穴(ツボ)に加え、董氏楊氏奇穴に独自の奇穴(ツボ)を用いて鍼灸を行っています。一般的な経穴、董氏楊氏奇穴の奇穴のいずれも、先にお示しした臨床研究の中で使用され、有効性を示唆された穴(けつ)であり、刺激方法もそれらに準拠しています。また、状態に応じて、不妊に対する鍼灸施術でも用いる陰部神経点鍼通電療法や、東洋医学的な考えに基づいて「瘀血(おけつ)」を除く刺絡鍼法を行うこともあります。
鍼灸に加える手法
- 物理療法
自律神経に対する影響(交感神経部の過剰な活動を抑えること)を期待して、スーパーライザーという物理療法機器を用いて喉の部分に近赤外線を照射します。 - サプリメント
漢方系のサプリメントであるタンポポ茶(ショウキT-1)をおすすめしています。タンポポ茶には、東洋医学的な観点からPCOSの要因として考えられる「痰湿」を改善する作用(利水作用)があります。


推奨される施術期間と頻度
PCOSに対する鍼灸の場合、通常、1回の施術で顕著な効果を得るのは難しく、8~12週間の定期的な受療が推奨されています。また、多くの研究では週に2~3回の施術を行い、ホルモンバランスや排卵機能の変化を評価していますが、じねん堂では経験上、5日~1週間に1回の施術をおすすめしています。
基本施術料 | 会員:4,950円 一般:6,600円 |
初回料 | 2,200円 |
【陰部神経点鍼通電療法】 卵巣機能の改善を目的に、陰部・下腹部の機能を支配する神経の近くに鍼を刺し入れ、低周波を流します。 【刺血・刺絡】 東洋医学の理論に基づき、生命の根源である「気」と「血」を動かすために特殊な鍼を用いて皮膚を切ります。少量の出血を伴います。いわゆる「瘀血性の痛み」に対して用います。 外科手術等の医行為を混同される方もいらっしゃいますが、法的にも認められた鍼の手法のひとつです。 | 特殊鍼法1回/1,100円 |
直線偏光近赤外線治療器であるスーパーライザーは、一般的な遠赤外線治療器よりも深部にエネルギーが届きます。頚部の星状神経節近傍に照射し、自律神経への働きかけを行います。 | スーパーライザー1回/550円 |
予約
059-256-5110
営業電話は固くお断りします
月~金 9時~21時
土 9時~15時
日曜休業・祝祭日不定休
ウェブ予約
予約ページは新しいタブで開きます
免責事項にご同意のうえ、ご予約ください
同業者(療術業)の予約はお受けできかねます
免責事項
鍼による施術は痛みや出血を伴う場合があります。また、以下のような場合、施術による変化が現れにくかったり、症状の“もどり”が早かったり、施術期間が⻑期に及んだり、施術することをお断りしたりすることがあります。鍼にはネガティブな側⾯があり、万能でもないことをご承知おきください。
構造上の問題による痛み
重篤な疾患による痛み
強⼒なあるいは多種の薬剤服⽤
⾼齢・衰弱による⽣理機能の低下
取り除けない物理的刺激要因
各種⼼理的要因
アクセス
〒514-1105 三重県津市久居北口町15-7
近鉄久居駅より徒歩15分/伊勢自動車道久居ICより車で5分
駐車スペース場常2台分あり
※看板がありませんのでご注意ください
【参考】
Dumesic DA, Oberfield SE, Stener-Victorin E, Marshall JC, Laven JS, Legro RS. Scientific Statement on the Diagnostic Criteria, Epidemiology, Pathophysiology, and Molecular Genetics of Polycystic Ovary Syndrome. Endocr Rev. 2015 Oct;36(5):487-525.
本邦における多囊胞性卵巣症候群の診断基準の検証に関する⼩委員会. 「多囊胞性卵巣症候群に関する全国症例調査の結果と本邦における新しい診断基準(2024)について」. 公益社団法人日本産婦人科学会. https://www.jsog.or.jp/news/pdf/PCOS1_20231204.pdf, (参照:2024-9-20)
Lim CED, Ng RWC, Cheng NCL, Zhang GS, Chen H. Acupuncture for polycystic ovarian syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2019 Jul 2;7(7):CD007689.
Cao Y, Zhang L, Zhao D, Liu Z. DONG’s extraordinary acupoints for the ovarian function of polycystic ovary syndrome: a randomized controlled pilot trial. Zhongguo zhenjiu, 2017, 37(7), 710-714