【セルフケア】過敏性腸症候群(IBS)はお腹を温めると楽になる? 〜自宅でできるカイロ活用術〜

「病院で検査をしても異常はないと言われたけれど、お腹の張りや痛みが続いている」
「冷えるとお腹の調子が崩れやすい」

 それは「過敏性腸症候群(IBS)」かもしれません。

 IBSのつらさは、検査で大きな異常が見つからないにもかかわらず、腹痛や張り、便通の乱れが繰り返し起こる点にあります。近年は、薬や食事だけでなく、体表からの刺激(温める・触れるなど)が自律神経や胃腸の働きに影響し得ることも報告され、昔ながらの「お腹を温める」工夫がセルフケアの選択肢として見直されています。
 もちろん、温めることが、IBSを「治す方法」として確立されたわけではありません。しかしそれでも、冷えや緊張が重なる場面で症状がぶり返しやすいかたが、症状の波を小さくし、調子の良い日を増やすための工夫として役立つはずです。

 今回は、研究で議論されている考え方と、今日から試せるカイロの使い方を分かりやすくお伝えします。

 本記事は、すでに医療機関を受診して過敏性腸症候群(IBS)と説明を受けた方が、自宅でできるセルフケアを検討する際の参考となることを目的としています。
 便に血が混じる、原因不明の体重減少、夜間に腹痛で目が覚める、発熱がある、強い貧血を指摘された、といった症状がある場合は、IBS以外の病気が隠れている可能性があります。自己判断せず、必ず医療機関に相談してください。

目次

なぜ「検査で異常なし」でもお腹が痛むのか?

ストレスと腸の密接な関係

 私たちの脳と腸は、神経やホルモンなどを介して相互に影響し合っています(脳腸相関)。
 ストレスや緊張が続くと、自律神経のバランスが変化して腸の動きが乱れたり刺激に敏感になったりし、その結果、健康な人なら気になりにくいガスの張りや便の移動が、痛みや不快感として強く意識されるようになってしまうと言われています。

IBSは女性に多い

 IBSは女性に多いと、疫学研究で報告されています。実際に、月経周期に伴うホルモンの変化によって、腹痛や便通が悪化と軽快を繰り返す方もいます。とはいえ、個人差も大きく、「女性だから必ずこうなる」「これをすれば必ず良くなる」とまでは言えません。

「冷え」と「腸」の深い関係:温めることの科学的根拠

「お腹が冷えると調子が悪い」と感じる方は少なくありません。
 IBSそのものに対して「カイロで温めるとどの程度よくなるか」を直接検証した研究は多くありませんが、消化管は自律神経の影響を強く受けるため、体表からの刺激(触れる・圧する・温める)が、腸の動きや痛みの感じ方に影響し得るという見方は、生理学的にも理にかなっています。
 たとえば、刺激する部位や刺激の強さによって、自律神経の関与の仕方が変わり、胃腸の運動が促進したり抑制したりすること、そしてその反応が、「もともとの腸の状態」にも左右され得ることが、いくつかの研究の中で議論されています。

研究から見えてきた「温熱刺激」の位置づけ

 温熱刺激は、単に「気持ちが良い」だけでなく、体表からの入力を通じて自律神経反射に影響を及ぼすと考えられています。たとえば、腹部の刺激と下肢の刺激では、関わる反射経路(交感神経系・迷走神経系など)が異なる可能性が、研究で示されています。
 ここで気を付けたいのは、「温めて楽になるからIBSの原因は“冷え”だ」と断定できるものではないという点です。また、温熱刺激の強さや頻度、症状が出ている時期(急性の悪化中か、比較的落ち着いている時期か)などによって、同じ人でも反応が変わることがあるため、「温めれば必ず○○になる」と単純化しないことも重要です。
 症状緩和に向けたセルフケアとして、緊張や冷えをきっかけにした悪化を減らし、症状の波を小さくする目的で温めを実施するのが、現実的な取り組み方であると言えます。

「お腹の張り」と温熱刺激(お灸)

 IBSそのものの研究ではありませんが、同じく機能性消化管疾患に含まれる機能性ディスペプシア(FD)では、「ツボ刺激」と「温熱」を組み合わせた介入が複数の研究で検討されています。たとえば、Liaoら(2024)の研究では、多数のランダム化比較試験を統合し、手技鍼、電気鍼、温鍼、灸など複数の方法が比較されています。また、FDを対象にしたMaoら(2025)のランダム化臨床試験では、鍼治療と「軽いお灸(mild moxibustion)」を比較し、食後不快感(食後のもたれ・不快)や腹部膨満、げっぷなどに対しては、お灸のほうが良好な結果を示す傾向が報告されています。
 これらはFDの知見であり、IBSにそのまま当てはめることはできません。ただ、IBSでも「腹部の不快感」や「膨満感(お腹の張り)」を強く自覚する方がいる点は共通しています。したがって、FDの領域で報告された温熱(お灸)に関する知見は、IBSとFDに共通する症状に対してのセルフケア(カイロなどによる温め)を選択する際の参考となり得ます。

鍼灸師が教える! 効果的な「カイロ」の貼り方とツボ

 カイロは、灸や温鍼のような“鍼灸の治療技術”ではありませんが、体表から温熱刺激を加えるという点では同じ方向性の手法と言えます。セルフケアではこのカイロを用いて、冷えや緊張をきっかけにした悪化を減らし、症状の波を小さくしたり、調子の良い日を増やしたりすることを目指します。
 ここからは、研究で用いられるツボの考え方も参考にしながら、低温やけどを避けつつ安全に続けやすい温め方を説明します。

温める位置の目安

 機能性胃腸障害(FGIDs:IBS、FD、機能性便秘、機能性下痢など)を対象とした鍼治療の研究では、足三里穴や天枢穴、中脘穴、関元穴などが高頻度で用いられ、これらを核とする組み合わせが複数の疾患で共通して登場します。
 これらのツボをカイロで温める場合は「ツボにピンポイント」である必要はありません。ツボ周囲の皮膚をじんわり温める感覚で実施します。

おへその左右(天枢穴の周辺)

おへその左右(指2〜3本外側)あたりは、腹部の代表的な目安です。お腹の張りや違和感が気になるときは、この周辺を温める方法が候補になります。

みぞおち〜おへそ(中脘穴の周辺)

食後の不快感(もたれ、重さ、上腹部のつかえ)を自覚しやすい方では、みぞおち〜おへその周辺がこわばっていることがあります。食後の不快感が目立つ日は、この周辺を温める方法が選択肢となります。

下腿(足三里穴の周辺)

足三里は膝下の外側(膝のお皿から指4本分ほど下、お皿の外側のライン上)が目安です。腹部にカイロを貼るのが苦手な方や、仕事中など腹部を温めにくい場面では、下腿を温める方法を選ぶこともできます。

カイロを貼る際の注意事項

 カイロは心地よい反面、使い方によっては低温やけどが起こります。製品ごとに仕様が異なるため、まずは製品各々の注意事項をご確認ください。そのうえで、次にお示しする「安全に関する注意事項」を参考に、セルフケアを行ってください。

温度のめやす

 厳密な温度の決まりはありません。心地よく感じる温度で温めます。我慢が必要なほど熱くしないでください。
 カイロが熱いと感じる場合は、下着や肌着の上から貼ったり、薄手の布を1枚挟んだりして調節してください。また、カイロによる火傷は、「熱すぎるかどうか」だけで決まりません。温度がそれほど高くなくても、同じ場所に当て続けると皮膚の内部が傷むことがあります。たとえば、46℃前後でも30分〜1時間、50℃では2〜3分で低温やけどになると言われています。カイロは製品によって40℃以上が長時間続き、最高温度が60℃台に達するものもあります。さらに、肌着の上から張った時点では心地よい温度であっても、その上からきつい衣類やベルトで押し付けられると、熱がこもって温度が上がりすぎる可能性があります。

皮膚の状態や体調、属性

 温度そのものではなく「温感」を頼りに温める都合上、皮膚に傷・湿疹・かぶれがある場所、感覚が鈍い状態(糖尿病で感覚が低下している、強い疲労時など)、小児・高齢者では火傷のリスクが上がります。該当する場合はカイロを当てても良いか医療者に相談してください。

タイミング

 入浴後はすでに体が温まっており、熱さに気づきにくくなります。また、温熱刺激に対する体の反応も読み取りにくくなるため、貼付は避けます。
 また、眠っている間は熱さに気づきにくく、低温やけどのリスクが上がります。セルフケアは布団に入る前に済ませましょう。強い疲労がある日や飲酒後も同様です。

時間のめやす

 温熱刺激は「長く当てれば当てるほど比例して反応が増える」とは限りません。皮膚血流の反応などでは、一定の温度刺激を30分程度続けると反応がプラトー(頭打ち)になっていくことが、いくつかの研究で示されています。今回参考にしたFDに対するお灸を用いた研究でも、施灸時間が30分前後に設定されています。また、反復刺激で“慣れ”が起きて自律神経の反応が小さくなることも知られています。
 そのため、「温度のめやす」の項でお示しした「低温やけどになる温度と時間の関係」からも、初回は10〜15分でいったん外し、赤み・ヒリつき・かゆみが残らないかを確認するのが安全です。そして、問題がなければ次回以降に少しずつ延ばし、連続して使用する場合でも、同じ部位への連続貼付は30分程度を目安にしてください。
 セルフケアの目的が、「お腹を温かい状態に保ち続けること」ではなく、温熱刺激による「自律神経の反射から繋がる胃腸の反応」であることを念頭に、カイロを当てる時間を調整してください。

汗冷えに注意

 意外と見落とされがちなのが「汗冷え」の問題です。汗をかくほど温めてしまうと、汗で湿った衣服の影響で体が冷えやすくなります(汗そのものの冷たさや気化熱)。汗をかいた場合は乾いた衣類に替えるなどの対策を講じてください。

「あたため」以外にも自分でできること

 温めるセルフケアは、あくまで「症状の波を小さくするための工夫」の一つです。IBSでは、食事・運動・睡眠・ストレスなど日常の要素が、良い日/悪い日の差に影響を与えます。ガイドラインや近年のレビューで示されている観点を踏まえて、「あたため」以外にできることを簡単に紹介します。

食事(低FODMAP食など)

 食事については、近年の系統的レビュー/ネットワークメタアナリシスで、低FODMAP食や伝統的な食事指導が症状の軽減に寄与すると示されています。ただし、介入の種類が多く研究間のばらつきもあるため、確実性には幅がある点も指摘されています。
 低FODMAP食は「自己流で長期に続ける」よりも、「一定期間試して反応を確認し、必要に応じて専門家と調整する」方が、思うような結果につながらなさそうな場合の判断をスムーズにします。食事制限で体重減少や栄養の偏りが出る場合は、早めに医師・管理栄養士へ相談してください。

運動とその他の生活習慣

 生活指導の中で、IBS診療ガイドライン(2020)が「有用」と位置づけているのは運動療法です。一方、運動以外の生活習慣(喫煙、飲酒、睡眠など)については、症状への影響を一律に結論づけにくい、という見方が示されています。
 とはいえ、「エビデンスがはっきりしない=やらない方がよい」という意味ではありません。睡眠不足や過労は、自律神経のバランスを崩しやすく、腹部の緊張や痛みの感じ方が増える方もいます。温めるセルフケアと同様に、症状が揺れにくい状態を作るための土台づくりとして、無理のない範囲で生活習慣を整えましょう。

鍼灸を検討するタイミング

 セルフケアだけでは症状の波が大きい、あるいは日常生活の支障が続く場合には、医師の治療と並行して、鍼灸を選択肢として検討する方法もあります。IBS診療ガイドライン(2020)でも、標準治療で十分な反応が得られない場合に、鍼治療が代替療法として位置づけられています
 じねん堂では、症状の出方(腹痛・張り・便通の乱れ、冷えの自覚など)やストレスなどの“背景”を丁寧なカウンセリングで確認し、科学的知見や長年の経験を基に施術方法を提案しています。お腹の症状でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。

【参考文献】
Liao X, Tian Y, Zhang Y, Bian Z, Wang P, Li P, Fang J, Shao X. Acupuncture for functional dyspepsia: Bayesian meta-analysis. Complement Ther Med. 2024 Jun;82:103051.
Mao Y, Zhang P, He Z, Teng Y, Tian Z, Yang S, Fang K, Zhang W, Wang Y, Yin T, Zeng F. Effects of acupuncture versus moxibustion on functional dyspepsia: a randomized clinical trial. Chin Med. 2025 Aug 22;20(1):131.
Li H, Gao Y, Zuo G, Chen H, Zheng X, Li X, Zhang X, Wang Y, Zheng X, Fan X, She Y. Acupoints Compatibility Rules of Acupuncture for Functional Gastrointestinal Disorders Based on Data Mining Technology: A Systematic Review. Iran J Public Health. 2025 Aug;54(8):1591-1607.
Yang NN, Xie XX, Yan WL, Liu YD, Wang HX, Yang LX, Liu CZ. The Autonomic Nervous System in Acupuncture for Gastrointestinal Dysmotility: From Anatomical Insights to Clinical Medicine. Int J Med Sci. 2025 May 20;22(11):2620-2636.
「低温やけど」の事故防止について(注意喚起). 独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE). 更新2009/11/26. https://www.nite.go.jp/jiko/chuikanki/press/2009fy/091126.html, 参照2025/12/25
ゆたんぽを安全に正しく使用しましょう!-低温やけど、過熱-. 消費者庁. 更新2017/12/6. https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/consumer_safety_release_171206_0001.pdf, 参照2025/12/25.
桐灰カイロ はる. 小林製薬 製品情報サイト. 更新日不明. https://www.kobayashi.co.jp/seihin/kk_h/, 参照2025/12/25.

Cuffe MS, Staudacher HM, Aziz I, Adame EC, Krieger-Grubel C, Madrid AM, Ohlsson B, Black CJ, Ford AC. Efficacy of dietary interventions in irritable bowel syndrome: a systematic review and network meta-analysis. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025 Jun;10(6):520-536.
日本消化器病学会. 機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS) (改訂第2版). 南江堂, 2020.


費用

会員施術料 4,950円
一般施術料 6,600円
初回料別途 2,200円

その他オプション・割引あり
初回60~90分程度
2回目以降45分程度

さらに詳しく

予約

059-256-5110
営業電話は固くお断りします

月~金 9時ー21時
 土  9時ー15時
日曜休業・祝祭日不定休

ウェブ予約
予約ページは新しいタブで開きます
免責事項にご同意のうえ、ご予約ください

同業者(療術業を含む)の予約はお受けできかねます

免責事項

 鍼による施術は痛みや出血を伴う場合があります。また、以下のような場合、施術による変化が現れにくかったり、症状の“もどり”が早かったり、施術期間が⻑期に及んだり、施術することをお断りしたりすることがあります。鍼にはネガティブな側⾯があり、万能でもないことをご承知おきください。

構造上の問題による痛み
重篤な疾患による痛み
強⼒なあるいは多種の薬剤服⽤
⾼齢・衰弱による⽣理機能の低下
取り除けない物理的刺激要因
各種⼼理的要因

さらに詳しく

アクセス

〒514-1105 三重県津市久居北口町15-7
近鉄久居駅より徒歩15分/伊勢自動車道久居ICより車で5分
駐車スペース常時2台分あり
※看板がありませんのでご注意ください

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次