病院で検査しても異常がないのに、腰の痛みが続く……
もしあなたが慢性的な腰痛(CLBP:3ヶ月以上続く、または再発を繰り返す腰の痛み)に悩んでいるなら、その原因は単なる筋肉や骨の問題ではなく、あなたの体の奥深くにある「自律神経の乱れ」も関係しているかもしれません。
今回は、2025年に発表された最新の研究に基づいて「なぜ腰痛が長引くのか」を解説し、その回復に鍼灸がどのように関わり得るのかを紹介します。
科学が解き明かした慢性腰痛の「見えない原因」
まずは、Fernándezら(2025)の「慢性腰痛のある成人とない成人の心拍変動による自律神経バランスの違い(和訳)」という研究を紹介します。
ストレスと「体の興奮スイッチ」の関係
慢性腰痛(CLBP:3ヶ月以上続く、または再発を繰り返す腰の痛み)は、世界中で障害の主要な原因の一つとされています。痛みそのものだけでなく、不安や落ち込み、睡眠の質の低下など、心と体の両方に影響が出やすい、複雑な状態です。
2025年に発表された Fernández らの研究では、慢性腰痛がある成人(CLBPグループ)と、腰痛のない健康な成人を比較し、心拍変動(HRV)を指標として、自律神経の働き方を詳しく調べました。
その結果、CLBPグループでは、健康な成人に比べて次のような違いがあると分かりました。
- 副交感神経の働きを反映する指標(rMSSD、SD1)が低い
- ストレスの高さや交感神経優位を反映する指標(SS や S:PS 比)が高い
これらの結果は偶然ではなく、統計学的な有意差が認めらるものでした。つまり、慢性腰痛のある人では、健康な人に比べて自律神経のバランスに変化が生じていることが示唆されたのです。
つまり、慢性腰痛のある人では交感神経と副交感神経との切り替えがうまくいかず、
- 交感神経優位の状態(闘争・逃走モード)が続きやすい
- 副交感神経による休息・回復モードへの移行がうまく働きにくい
という傾向がみられると考えられます。
本来なら一時的であるはずの防御反応が長く続いてしまうと、筋肉のこわばりや血流の変化、痛みへの過敏さなどが慢性的になり、「痛みが続きやすい体の状態」が形作られていきます。このように、体を守るための自動的な防御反応が強く出たまま切れにくくなっている状態が、自律神経のアンバランスとしてあらわれ、慢性腰痛を長引かせる一因になっていると考えられるのです。
この研究は、慢性腰痛が腰の筋肉や骨だけの問題ではなく、自律神経の調節能力やストレスへの反応の仕方が大きく関わっていることを、客観的なデータで裏づける一つの証拠と言えます。
ここから先は、この「自律神経のアンバランス」に対して、鍼灸がどのように働きかけ得るのかをお示しできればと思います。
鍼灸にできること
慢性腰痛からの真の回復を目指すためには、交感神経優位の悪循環を断ち切り、副交感神経による「回復力」を取り戻していくことが大切です。
鍼灸は、体表面からの刺激を通じて、自律神経系や血流、炎症反応に働きかける可能性がある治療法であり、こうした作用を支持する研究報告が少しずつ蓄積してきています。
一般的には「鍼=痛みを和らげる治療」と捉えられることが多く、実際に、局所の筋緊張や血流を整えることに加えて、脳や脊髄の働きに影響し、痛みの信号の伝わり方や感じ方が過剰になりすぎないよう調整する働きがあるとされているのですが、さらに、自律神経のバランスを整える方向にも作用する可能性があることも分かっています。
自律神経のバランスを整えることは、痛みが生じ続ける「背景の状態」そのものに働きかけることであり、これが慢性痛の改善に寄与しうると考えられているのです。
迷走神経の賦活による「回復スイッチ」の再起動
鍼治療は、副交感神経の主役である迷走神経(脳から内臓まで広く分布し、心拍の調整や炎症の抑制など、体を「休めて回復させる働き」を担う神経)に影響を与える可能性が報告されています。
心拍変動を用いた研究の中には、鍼治療の後でLFやLF/HF比(交感神経活動の強さを反映する指標)が低下し、場合によっては心拍数も下がるといった変化がみられたものがあります。特に、特定のツボ(内関穴など)を用いた試験で、ストレス負荷のある被験者や不眠症の方に対して、LF/HF 比の低下や心拍数の減少が報告されています。一方で、同じような条件でも明確な変化がみられなかった研究もあり、結果はまだ一貫しているとは言えません。
それでも、いくつかの試験結果は、鍼による刺激が交感神経の「アクセル」を少し緩め、迷走神経の「ブレーキ」が働きやすい状態へと傾ける可能性を示しています。鍼の代表的な作用である「痛みの感じ方を一時的に弱める・抑制する」ことだけでなく、体全体の興奮状態を落ち着かせ、自律神経のバランスを整える方向に作用する点が、慢性痛への長期的な影響という意味で重要であると言えます。
炎症とストレスの抑制
慢性腰痛の長期化には、ストレスと炎症が深く関わっていると考えられています。鍼灸は、神経系を通じてこれらの要因を中枢レベルから調整しようとするアプローチであると言えます。
- 抗炎症作用の活性化:
迷走神経を介した「コリン作動性抗炎症経路(CAP)」は、TNF-α など炎症性サイトカインの放出を抑える仕組みとして知られています。動物実験などの基礎研究では、鍼刺激がこの経路の活性化に関わっている可能性が報告されており、慢性疼痛の背景にある炎症反応のコントロールに、間接的に関与している可能性があります。 - ストレスホルモン(HPA軸)の調節:
足三里穴への電気鍼を行ったラットの研究では、慢性的な寒冷ストレスによって亢進した HPA軸(ストレス時にコルチゾールなどを分泌するシステム)の反応が抑えられたことが報告されています。これは、鍼が中枢レベルでストレス応答を和らげる可能性を示唆する結果です。ただし、これは動物実験の段階であり、人間の慢性腰痛にどの程度当てはまるかは、今後の臨床研究が必要です。
こうした作用は、ストレス反応や炎症といった、痛みを長引かせる土台に働きかけるという点で、鍼灸ならではの特徴と言えます。
腱や筋肉の血流改善への寄与
慢性的な痛みを持つ患者では、筋肉の血流や酸素化の低下が関与している可能性が指摘されています。
健康な成人を対象にした研究では、アキレス腱に鍼を行うと、「腱の血液量と酸素飽和度が増加し、その変化が心拍数(HR)の低下と負の相関を示した」という結果が報告されています。これは、鍼刺激が自律神経系を通じて血流を調整し、その結果として組織の回復環境を整える可能性を示唆するものです。ただし、この結果がそのまま慢性腰痛に一般化できるかどうかは、今後の検証が必要です。
局所の血流改善と、自律神経バランスの調整。
この二つの方向から作用することで、鍼灸は「痛い場所だけを狙う鎮痛」ではなく、体全体の状態を整えながら痛みの改善を目指す手法として位置づけることができます。
回復への一歩を踏み出すために
もしあなたが長引く腰痛によって、常に体が緊張し、疲労感が抜けない状態にあるなら、その背景には自律神経の働きのアンバランスが関わっているかもしれません。このアンバランスは、心拍変動(HRV)という指標によって客観的に評価することができます。
鍼灸は、この乱れたバランスを整え、交感神経と副交感神経の切り替えがスムーズに働くように作用する手法の一つです。局所の筋肉や関節に対する鎮痛的な作用に加えて、自律神経やストレス反応、血流といった全身的な仕組みに働きかけることで、痛みが治まりやすい体の状態づくりを目指すことができます。その効果は、HRV や血流、症状の変化などを通じて少しずつ検証が進められている段階にあります。
三重県津市のじねん堂はり灸治療院では、東洋医学的な考え方に基づきながらも、最新の科学的知見(自律神経調節、抗炎症経路の活性化、血流改善など)を踏まえて施術を組み立て、いちど損なわれた「回復力が働きやすい状態」を取り戻す手助けをしています。
慢性疼痛という複雑な問題に対して、体のシステム全体を見直し、自律神経の調和を整えていくための選択肢の一つとして、鍼灸治療を検討してみてください。必要な場合には医療機関とも連携しながら、あなたに合ったペースで回復への一歩をサポートする所存です。
【参考文献】
Fernández-Morales C, Espejo-Antúnez L, Albornoz-Cabello M, Yáñez-Álvarez ÁR, Cardero-Durán MLÁ. Autonomic Balance Differences Through Heart Rate Variability Between Adults with and Without Chronic Low Back Pain. Healthcare (Basel). 2025 Feb 26;13(5):509.
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