子どものチックに戸惑い、自らを責めてしまう保護者の方は少なくありません。残念ながら今でも、「本人がわざとやっているのでは」「育て方が悪いのでは」という誤解や偏見が残っているのが現実です。そして、こうした誤解は当事者や家族を不要に傷つけ、“悪循環”を招く結果ともなり得ます。
今回は、このような現実も踏まえつつ、医学的にわかっていることを整理し、日々の支え方と治療の選択肢を整理してお伝えします。
チックの「本当の原因」について
まず大前提として、チックの原因は「本人の性格」でも「育て方」でもありません。チックに対する一般の理解が十分でないこと、誤った見方が残っていることは各種レビューでも指摘されており、そのため医療では、必要な情報を過不足なく共有し、家族と医療者が同じ前提に立つことが治療の出発点であるとされています。
チックは、脳の「運動の開始と抑制をコントロールする経路」の働き方に関わる神経発達症で、意思とは別に素早い反復的な動きや発声が起こる現象というのが、現在の医学的理解です。専門的には、皮質-線条体-視床-皮質(CSTC)回路の機能異常やドパミン系との関連が論じられており、これは育て方や性格で説明できるものではありません。
また、家庭集積性(ある疾患や特性が、特定の家族内で集まって見られる傾向)はありますが、「父方か母方か」といった単純な遺伝ではありません。多くの遺伝因子が少しずつ影響し、環境要因と重なってリスクが形づくられる「多因子的(ポリジェニック)」なものという説明が妥当です。 つまり、「誰かのせい」ではないのです。
音声チック・複雑チックの特徴と悪化要因
チックは大きく単純チックと複雑チックに分類されます。単純チックは、1つ(または少数)の筋群が関わるごく短い動きや音で、たとえば「まばたき」「肩をすくめる」「咳払い」などが代表例です。複雑チックは、複数の筋群が連なって現れる一連の所作や、意味のある言語・ジェスチャーを含むパターンで、たとえば「飛び跳ねる」「触る」「定型的な語句の発声」「他人の言葉を繰り返す(反響言語:エコラリア)」「他人のしぐさをまねてしまう(反響動作:エコプラクシア)」などがこれに当たります。「汚言(コプロラリア)」は印象に残りやすい症状ですが、報告上は全体の一部に限られます。大規模なデータの分析では、症状はいくつかの“まとまり”として同時に出やすい傾向が示されています。たとえば、反響言語や反響動作が一つの群としてまとまることが報告されています。
多くの患者で、チック症の症状は日や週の単位で“波のように”増減(ワックス&ウェイン)します。ストレス・不安・疲労・睡眠不足・体調不良(感冒など)の場面では強まりやすい一方、楽器演奏やダンスのように、細かな動きに注意を向ける活動に没頭している時は目立ちにくく感じることもあります。こうした状況によるゆらぎはチック症の基本的な特徴です。
また、周囲からの強い指摘や「やめなさい」という直接の制止は、緊張や不安を高め、かえって症状を目立ちやすくすることがあります。叱責は“治療”ではない。この認識は、以後の支え方を考えるうえで大切な前提になります。
じねん堂の施術者は当事者(患児)でした。私の記憶が確かなら、鼻周りの単純運動チックだったと思います。目もあったかもしれません。そんな私に対して保護者が行ったのは、強い叱責と体罰でした。病院へ連れていくこともなく、ただただ我慢を強いたのでした。当時(1980年代)であればそれが普通だったのかもしれませんし、私自身、当時のつらさは覚えていませんが、今の子どもたちが誤解や偏見からくる誤った指導をされないことを強く願っています。
「我慢」はできる?──正しい理解とCBIT/ERP
結論から言えば、「短時間なら抑えられる子が多い」が、「無理な我慢の強要は逆効果」です。Conelea(2018)は、実験場面で多くの若年者が一定時間チックを抑制できる(個人差は大きい)ことを示し、抑制のしやすさには状況要因や併存症などが関与する可能性を指摘しています。
多くの子どもは、チックの直前に「ムズムズ」「モヤモヤ」といった不快な前駆感覚を自覚し、その不快感を解消するためにチックを繰り返してしまいます。そのため、まわりには「自分で出しているなら止められるのでは」と受け取られる場面がありますが、実際には抑えられるのは条件つきで、短時間に限られることが多いと言われています。
この“前駆感覚とチック”の結びつきを手がかりに、認知行動療法(CBT)では、前駆感覚への気づきを高めつつ、安全なやり方で抑制を練習する治療が推奨されています。具体的には、ERP(暴露反応妨害法)とCBIT(包括的行動介入)です。ERPは前駆衝動に“あえて留まり”、チック反応を起こさずにやり過ごす練習で「衝動と行動の結びつき」を弱めます。CBITの中心であるハビット・リバーサル(HRT)は、チックと両立しない拮抗反応を継続して行う訓練です。いずれも“感情的に我慢させる”こととは異なり、段階づけとコーチングのもとで、できる範囲の抑制をスキルとして伸ばす方法です。
なお、「抑えると後で反動で増えるのでは?」という心配について、Murphy(2013)は、抑制が後の“反跳”を必ずしも招くという一貫した証拠はないと述べています。
小児チック症診療ガイドライン(2024)には、“心理療法は、トゥレットを含めたチック症に対する治療として、複数のガイドラインで第一選択の治療と位置付けられており、臨床研究も盛んである。一方、我が国を含む東アジアからの報告は少なく、実臨床で実践できる場も少ない”と、あります。日本でCBTを受けることができる環境は限られているのが現状です。
一方、本邦のガイドラインで強く推奨されているのは「環境調整」です。
生活で実践できるヒントと治療の選択肢
まずは家庭と学校の環境調整から始めます。チックは波のように増減し、緊張・不安・疲労・睡眠不足などで強まりやすく、落ち着ける環境や見通しのある生活で和らぎやすい傾向があります。以下は、今日から取り入れやすい調整の例です。
- 家庭で整えること
-
- 睡眠と生活リズム
就寝・起床、食事、入浴、学習・余暇の順序と時間帯を一定にします。夜更かしや早朝の欠眠を避け、週末のリズムの乱れも最小限に。 - 刺激の量とタイミング
長時間のゲームや動画視聴は時間を決めて短くし、就寝前は刺激の強い活動を減らします。 - 切り替えの小休止
症状が強い時は、「いったん離れて深呼吸」「別室で数分静かにする」など短い“退避”の選択肢を家族で共有しておきます。 - 注意の向け方
チックそのものを直接指摘しないのが基本です。望ましい行動(約束を守れた・切り替えができた等)ができた時に短く肯定的な声かけをすることが推奨されます。
- 睡眠と生活リズム
- 学校と共有したいこと
-
- 理解と配慮
チックは故意ではなく、すぐ止められないことを担任・学年で共有してもらいます。からかい・指摘を避け、姿勢変更や一時的な退席などの選択肢を事前に決めておきます。 - 一貫した対応
家庭と学校で同じ前提と対応を取り、日中の様子(どの場面で増えるか/落ち着くか)を簡単に記録して情報を行き来させます。
じねん堂の施術者は患児保護者でもありました。
当時の三重県津市では保育園・小学校、そして行政が連携し、こちらが特別何かを要請せずとも様々な対応をしてくれました。保育園なら“お迎え”のとき、小学校なら連絡帳などを用いて子どもの様子をやり取りでき、安心につながりました。ここで“配慮”や“対応”について書くのがおこがましく思えるほどです。もちろん、地域差や担任個人の姿勢などの影響もあるかと存じますが、少なくとも私個人の印象としては、三重県津市はチック症患児の保護者にとって安心できる街であると言えます。
そして問題(?)の施術者の親はというと、やはり、施術者に対して「育て方が悪い」と叱責したのでした。驚くべきことに、彼らは保育士や教諭といった立場にあった人間です。世代的なものなのか、個人の資質なのかは分かりかねますが、彼らが津市の保育士や教員でなくてよかったと、心の底から感じます。 - 理解と配慮
- 治療の選択肢
-
- 心理療法
海外および国内ガイドラインでは、CBIT(包括的行動介入)やERP(暴露反応妨害法)などの行動療法が強く推奨されています。また、国内のガイドラインでは、心理教育、支持的心理療法が弱く推奨されています。とはいえ、いずれの心理療法も、日本における実施可能な医療機関の少なさが指摘されています。 - 薬物療法
併存症(ADHD・OCDなど)を含めて主治医との相談のうえ検討することになります。
- 心理療法
- 鍼灸(併用療法として)
-
鍼灸は、環境調整や医療と併用する補完的な選択肢です。小児チックに対する系統的レビュー/メタ解析では、重症度(YGTSS)や“総有効率”の改善、薬物より有害事象が少ない傾向が報告されています。鍼灸では、自律神経の過緊張を和らげ、睡眠の質・不安感・身体のこわばりなど増悪因子に関わる側面を整えることを目指します。また、頭皮鍼に関しては、脳血流の神経制御に関する基礎・臨床の報告が蓄積しつつあります。
まずは家庭と学校での調整を土台に、心理療法が受けられる場合は組み合わせ、その過程で鍼灸を併用して“日常の過ごしやすさ”を底上げしていく。この順番が現実的で続けやすい道筋かと存じます。
まとめ
- チックは短時間なら“我慢できる子が多い”が、無理な強要は逆効果。
- 原因は脳の回路機能に関わる神経発達症。育て方や性格のせいではない。
- 家庭集積性(ある疾患や特性が、特定の家族内で集まって見られる傾向)はあるが、単純な“父方/母方のせい”ではない。複数の遺伝要因と環境が関与し、ADHD/OCDなどと遺伝的に重なりうる。
- 悪化因子は、疲労・睡眠不足・体調不良・心理的ストレス・暑さ等。
- 叱責や罰は避ける。学校と家庭とで情報を共有し、現実的な配慮を行う。
- 多くは思春期にピークを迎え、その後は軽快しやすい。
- 治療は、環境調整が最も重要。CBIT/ERPも強く推奨されるが実施施設が少ない。必要に応じて薬物療法や鍼灸等の補完療法を併用。
チックは「わざと」ではありません。静かに寄り添いながら、できることを一つずつ積み重ねていく姿勢が、お子さまの安心と成長を支えます。
【参考文献】
チック症診療ガイドライン策定ワーキンググループ. 小児チック症診療ガイドライン. 診断と治療社, 2023.
Murphy TK, Lewin AB, Storch EA, Stock S; American Academy of Child and Adolescent Psychiatry (AACAP) Committee on Quality Issues (CQI). Practice parameter for the assessment and treatment of children and adolescents with tic disorders. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2013 Dec;52(12):1341-59.
Hirschtritt ME, Lee PC, Pauls DL, Dion Y, Grados MA, Illmann C, King RA, Sandor P, McMahon WM, Lyon GJ, Cath DC, Kurlan R, Robertson MM, Osiecki L, Scharf JM, Mathews CA; Tourette Syndrome Association International Consortium for Genetics. Lifetime prevalence, age of risk, and genetic relationships of comorbid psychiatric disorders in Tourette syndrome. JAMA Psychiatry. 2015 Apr;72(4):325-33.
Andrén P, Jakubovski E, Murphy TL, Woitecki K, Tarnok Z, Zimmerman-Brenner S, van de Griendt J, Debes NM, Viefhaus P, Robinson S, Roessner V, Ganos C, Szejko N, Müller-Vahl KR, Cath D, Hartmann A, Verdellen C. European clinical guidelines for Tourette syndrome and other tic disorders-version 2.0. Part II: psychological interventions. Eur Child Adolesc Psychiatry. 2022 Mar;31(3):403-423.
Conelea CA, Wellen B, Woods DW, Greene DJ, Black KJ, Specht M, Himle MB, Lee HJ, Capriotti M. Patterns and Predictors of Tic Suppressibility in Youth With Tic Disorders. Front Psychiatry. 2018 May 23;9:188.
Rizzo R, Pellico A, Silvestri PR, Chiarotti F, Cardona F. A Randomized Controlled Trial Comparing Behavioral, Educational, and Pharmacological Treatments in Youths With Chronic Tic Disorder or Tourette Syndrome. Front Psychiatry. 2018 Mar 27;9:100.
Lu C, Wu LQ, Hao H, Kimberly Leow X, Xu FW, Li PP, Wang DS. Clinical efficacy and safety of acupuncture treatment of TIC disorder in children: A systematic review and meta-analysis of 22 randomized controlled trials. Complement Ther Med. 2021 Jun;59:102734.
Yu J, Ye Y, Liu J, Wang Y, Peng W, Liu Z. Acupuncture for Tourette Syndrome: A Systematic Review. Evid Based Complement Alternat Med. 2016;2016:1834646.
Pu T, Liu Y, Wang J, Zhang J, Zhang J, Ran Z, Sheng Q, Yi Z, Ye J, Li Y, Wang X, Chi H, Luo W. Acupuncture and other traditional Chinese medicine therapies in the treatment of children’s tic syndrome: A network meta-analysis. Front Neurosci. 2023 Apr 17;17:1156308.
Jin GY, Jin LL, Jin BX, Zheng J, He BJ, Li SJ. Neural control of cerebral blood flow: scientific basis of scalp acupuncture in treating brain diseases. Front Neurosci. 2023 Aug 15;17:1210537.
予約
059-256-5110
営業電話は固くお断りします
月~金 9時ー21時
土 9時ー15時
日曜休業・祝祭日不定休
ウェブ予約
予約ページは新しいタブで開きます
免責事項にご同意のうえ、ご予約ください
同業者(療術業を含む)の予約はお受けできかねます
免責事項
鍼による施術は痛みや出血を伴う場合があります。また、以下のような場合、施術による変化が現れにくかったり、症状の“もどり”が早かったり、施術期間が⻑期に及んだり、施術することをお断りしたりすることがあります。鍼にはネガティブな側⾯があり、万能でもないことをご承知おきください。
構造上の問題による痛み
重篤な疾患による痛み
強⼒なあるいは多種の薬剤服⽤
⾼齢・衰弱による⽣理機能の低下
取り除けない物理的刺激要因
各種⼼理的要因
アクセス
〒514-1105 三重県津市久居北口町15-7
近鉄久居駅より徒歩15分/伊勢自動車道久居ICより車で5分
駐車スペース常時2台分あり
※看板がありませんのでご注意ください

