突発性難聴は、ある日突然耳が聞こえにくくなり、耳鳴りやめまいを伴うこともある不安の大きな病気です。治療の成果は「いつ始めるか」に大きく左右されるとされ、病院で行われる標準治療では、発症から2週間以内に治療を開始することが重要と考えられています。では、鍼治療においても同じことが言えるのでしょうか。
2024年に北京中医薬大学の研究チームが発表した最新の臨床研究は、この疑問に答えようとしたものです。本記事では、件の研究論文を分かりやすく解説します。三重で突発性難聴の治療法を探している方にとって、治療を考える際の参考になれば幸いです。
研究の方法と対象
この研究では、2022年9月から2023年3月までに中国・北京中医薬大学附属病院に通院した突発性難聴の患者87名が対象となりました。1名が途中で脱落し、最終的に86名が解析対象となっています。
患者は鍼治療を始めた時期によって二つのグループに分けられました。ひとつは発症から14日以内に鍼治療を開始した「早期開始群」で43名、もうひとつは14日を過ぎてから鍼治療を始めた「遅延開始群」で43名です。
両群の患者背景(年齢や性別、持病、聴力低下の型など)には偏りがある可能性があるため、「傾向性スコアマッチング(PSM)」という統計手法を用いて、条件をそろえて公平に比較できるようにしました。その結果、最終的にそれぞれ30名ずつ、計60名の患者が解析の対象となりました。
全員が西洋医学による標準的な治療(血管拡張薬やステロイド、神経栄養薬など)を受けたうえで、追加的に鍼治療が行われました。鍼治療の方法は「頸部七線法」と呼ばれる技術で、週に3回、隔日で行い、合計12回が実施されました。
治療効果の評価方法
効果を判定するために二つの基準が用いられました。
ひとつは「耳鳴りハンディキャップ評価尺度(THI)」と呼ばれる国際的に使われている質問票で、耳鳴りが生活に与える影響を数値化するもの。もうひとつは純音聴力検査で、聴力の改善度に応じて「治癒」「著効」「有効」「無効」の四段階で評価されました。これらを総合して「総有効率」が算出されました。
得られた結果
まず、両群ともに治療後にはTHIスコアが下がり、耳鳴りの症状が改善したことが確認されましたが、早期開始群の方がその改善度は明らかに大きく、治療終了3か月後の追跡調査でも遅延開始群に比べて有意に低いスコアを示しました。
次に聴力の回復については、早期開始群の総有効率が80.0%(30名中24名)だったのに対し、遅延開始群では53.3%(30名中16名)にとどまりました。この差は統計的にも有意であり、鍼治療を早く始めるほど聴力が戻りやすいことが示されました。
また、突発性難聴の型や漢方薬の併用の有無は治療成績に独立した影響を与えないことも確認されました。
具体的な鍼治療:「頸部七線法」とは
研究では、主に「頸部七線法(けいぶしちせんほう)」と呼ばれる手法が用いられました。これは北京中医薬大学の白鵬教授が、古典理論と長年の臨床経験を組み合わせて考案した独自の選穴法で、突発性難聴や耳鳴りの治療に使われています。
東洋医学では、身体に「経絡(けいらく)」と呼ばれるエネルギーの通り道があると考えられています。その経絡は、首を経由して頭や耳にもつながっています。したがって、首の周囲で気血の流れが滞ると、耳の機能が損なわれると考えるのです。頸部七線法は、首の後ろを七本の縦のラインに分けてツボを取り、気血の流れを整えることを目的としています。
頸部七線法のライン構成
- 第1線(督脈:首の中央の正中線)
大椎穴、風府穴を取ります。 - 第2・第3線(頸夾脊線:正中の両脇0.5寸)
第3頸夾脊穴、第4頸夾脊穴を取ります。 - 第4・第5線(足太陽膀胱経一行線:正中の両脇1.5寸、僧帽筋の外側)
風池穴と供血穴(風池穴の1.5寸下)の中点の高さと、そのさらに下方1.5寸の位置を取ります。ここは後頭部から頸部にかけての血流改善を意図したポイントです。 - 第6・第7線(足少陽胆経:風池から垂直に下ろしたライン)
風池穴と供血穴を取ります。供血穴は耳や脳へ血液を送る椎骨脳底動脈の循環改善を目的とした重要なツボとされています。

その他のツボの併用
耳のまわりでは、聴宮穴、翳風穴なども取穴され、さらに患者の体質や症状に合わせて、外関穴、合谷穴、太衝穴、足三里穴などのツボが補助的に組み合わせられました。
鍼は直径0.25mm、長さ40mmの使い捨て鍼を用い、ツボに15〜33mmほど刺入されました。
鍼を身体の中に刺し入れた際に、「得気(とっき)」や「響き」と呼ばれる鍼特有の感覚が生じることがあります。これはツーンとしたり、ズーンと重い感じがしたりといった感覚として感じられることが多く、鍼が適切に作用しているサインとされています。
研究では、この感覚を確認した後、20分間ほど鍼を留め置く手法(置鍼)が行われました。
研究から見えてきたこと
この研究は、突発性難聴に対する鍼治療が効果的であるだけでなく、施術開始のタイミングが極めて重要であることを示しました。
発症から2週間以内、特にできるだけ早期に鍼治療を始めることで、耳鳴りによる生活への支障を軽減し、聴力回復の可能性を高められると考えられます。これは西洋医学のガイドラインが強調する「14日以内の治療介入」と一致しており、鍼治療でも同じ時間的要素が大きな意味を持つことを裏付けています。
また、鍼治療の効果の背景として、内耳の血流改善、細胞修復の促進、免疫機能の調整、脳の可塑性への影響、炎症反応の抑制など複数の作用が考えられます。さらに耳鳴りによる不安や抑うつなど心理的な側面にも良い影響を与える可能性があり、症状と心の悪循環を断ち切る助けとなることも示唆されています。
限界と今後の課題
もちろん、この研究にも限界があります。対象となった患者数は比較的少なく、追跡調査でもすべての患者からデータを得られたわけではありません。また一部の患者は研究参加前にすでに西洋医学的治療を受けていた可能性があり、その影響を完全に除外できたわけではありません。研究チームは、今後はより大規模で長期的な研究が必要であるとしています。
さいごに
突発性難聴は、発症後の対応の早さが回復に直結する病気です。今回の研究は、鍼治療においても「できるだけ早く始めること」が効果を大きく左右することを明確に示しました。耳鼻科での標準治療を受けるとともに、鍼治療を補完的に組み合わせることは有力な選択肢となり得ます。もし突発性難聴を発症された場合には、時間を置かずに主治医や信頼できる鍼灸師に相談されることを強くお勧めします。
【参考文献】
Shi AN, Li Y, Zhang JJ, Xing Y, Hong YY, Bai P. Effect of acupuncture intervention time on the therapeutic effect in patients with sudden hearing loss. Zhen Ci Yan Jiu. 2024 Jun 25;49(6):618-624.

予約
059-256-5110
営業電話は固くお断りします
月~金 9時ー21時
土 9時ー15時
日曜休業・祝祭日不定休
ウェブ予約
予約ページは新しいタブで開きます
免責事項にご同意のうえ、ご予約ください
同業者(療術業を含む)の予約はお受けできかねます
免責事項
鍼による施術は痛みや出血を伴う場合があります。また、以下のような場合、施術による変化が現れにくかったり、症状の“もどり”が早かったり、施術期間が⻑期に及んだり、施術することをお断りしたりすることがあります。鍼にはネガティブな側⾯があり、万能でもないことをご承知おきください。
構造上の問題による痛み
重篤な疾患による痛み
強⼒なあるいは多種の薬剤服⽤
⾼齢・衰弱による⽣理機能の低下
取り除けない物理的刺激要因
各種⼼理的要因
アクセス
〒514-1105 三重県津市久居北口町15-7
近鉄久居駅より徒歩15分/伊勢自動車道久居ICより車で5分
駐車スペース常時2台分あり
※看板がありませんのでご注意ください

