アレルギーには鍼(はり)が効く? ─ 免疫細胞「マクロファージ」が担う重要な役割 ─

 アレルギー疾患とは、本来は無害であるはずの花粉や食物などに対して、免疫システムが過剰に反応してしまうことで起こる病気の総称です。くしゃみ、鼻水、皮膚のかゆみ、咳などの症状が見られますが、これらはすべて体の免疫反応によって引き起こされています。

 このアレルギー反応には、多くの免疫細胞が関与しています。たとえば「Th2細胞」という細胞がサイトカイン(免疫細胞同士が情報をやりとりするための物質)を放出し、それによって「IgE抗体」というアレルギー特有の抗体が作られます。IgE抗体はマスト細胞と結合し、次に同じアレルゲンに触れたときにヒスタミンなどの炎症物質を放出して、アレルギー症状が起こるのです。

 こうしたプロセスのなかで、注目されているのが「マクロファージ」という免疫細胞です。
 今回は、2025年5月に発表された最新のレビューを基に、鍼灸治療とマクロファージについて紹介します。

目次

体の「門番」マクロファージとその二面性

 マクロファージは、体のあらゆる組織に存在する重要な免疫細胞で、異物を取り込んで処理したり、ほかの免疫細胞を活性化させたりする役割を持っています。その働き方には大きく2つのタイプがあります。

M1型マクロファージ
M2型マクロファージ
  • 炎症を促進する
  • TNF-αやIL-6といった炎症性サイトカインを分泌し、アレルギー反応の悪化に関与
  • 炎症を抑える
  • IL-10やTGF-βといった抗炎症性サイトカインを分泌し、損傷組織の修復や炎症の沈静化に働く

 このM1とM2のバランスが崩れると、アレルギーの悪化や慢性化につながることが分かってきました。マクロファージはまさに免疫の「門番」として、アレルギーの進行に深く関わっているのです。

鍼治療がマクロファージに与える影響とは?

 鍼治療がこのマクロファージの機能に作用することが、さまざまな研究で示唆されています。とくに、以下のような作用が報告されています。

1. マクロファージの分極(M1からM2へ)の調整

 鍼刺激によって、炎症性のM1型マクロファージが減少し、抗炎症性のM2型マクロファージが増加する現象が確認されています。これは細胞内のNF-κBやMAPKなどの炎症関連シグナル伝達経路を抑制することで実現されると考えられています。

MAPK(マップケー)経路:細胞の成長や炎症、ストレス応答などに関わるタンパク質の信号伝達ネットワーク。

2. サイトカインの分泌調節

 鍼治療は、マクロファージからの抗炎症性サイトカイン(IL-10、TGF-βなど)の分泌を促進し、同時に炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1βなど)の分泌を抑制します。これにより、局所の炎症やアレルギー症状が緩和される可能性があります。

3. 神経と免疫の相互作用による影響

 鍼刺激は、迷走神経やHPA(視床下部-下垂体-副腎)軸を活性化することが分かっています。これらはストレス応答や免疫調整に深く関わっており、結果としてマクロファージの働きにも間接的な影響を与えます。特にHPA軸から放出されるホルモンは、免疫細胞内の炎症遺伝子の発現を抑える効果があるとされています。

アレルギー疾患における鍼治療の具体例

 Qu(2025)の論文では、鍼治療がさまざまなアレルギー疾患においてどのように作用するか、研究成果が紹介されています。

◆ 喘息

 主に使用された経穴は、大椎・風門・肺兪・足三里などで、手法としては手技による鍼刺激や電気鍼が用いられました。施術頻度は「隔日で20〜30分」や「週3回」など様々です。
 鍼刺激により、気道炎症を引き起こすIL-4、IL-5、IL-13、IL-17、IL-25などの炎症性サイトカインが低下し、IFN-γやIL-10などの免疫調整性サイトカインが増加しました。さらに、オートファジー関連タンパク(ATG5、Beclin-1など)やMAPK経路の抑制も観察されました。

オートファジー関連タンパク:細胞の自己防御機構である「オートファジー(自食作用)」に関与するタンパク質群で、炎症の制御にも関わります。

◆ アレルギー性鼻炎

 よく使われた経穴は、肺兪・腎兪・大椎・迎香・内迎香などで、灸頭鍼やintranasal acupuncture(鼻腔内鍼:鼻の中に鍼をする方法)など多様な手法が使われています。
 鍼治療は鼻詰まり・くしゃみなどの鼻症状の軽減に加えて、IgE、IL-4、IL-6、IL-8、TNF-αなどの炎症マーカーの低下を引き起こし、TLR4/MyD88/NF-κB経路やTh1/Th2バランス、Treg/Th17バランスの調整作用が報告されています。

鼻腔内鍼

Th1/Th2バランス:免疫応答のタイプを決定づけるT細胞(ヘルパーT細胞)のバランス。アレルギーではTh2優位になりやすく、これを抑えることが治療上重要です。
Treg/Th17バランス:免疫抑制性T細胞(Treg)と炎症促進性T細胞(Th17)のバランス。免疫の過剰反応を制御する鍵となります。

◆ アレルギー性皮膚疾患(アトピー性皮膚炎・蕁麻疹など)

 主な経穴は、曲池・血海・足三里・三陰交などで、電気鍼やacupoint autohemotherapy(患者自身の静脈血を採取し、それを特定のツボに注射する治療法)などが用いられました。
 これらの刺激により、IgE、IL-4、IL-8、TNF-α、IL-1βなどの炎症性サイトカインが減少し、皮膚症状(かゆみ・発赤など)が改善されることが確認されています。また、MAPK経路(p38、JNK、ERK1/2)の抑制作用も観察され、炎症の軽減と組織修復への貢献が示唆されています。

今後の展望と課題

 鍼治療がマクロファージの働きを調節し、アレルギー反応の制御に関与する可能性があることは、今後のアレルギー治療に新たな選択肢をもたらすものです。

 とはいえ、Qu(2025)でも指摘されているように、研究間での設計の差や評価基準の不統一、動物モデルの多さと臨床応用とのギャップ、そして個体差や疾患の進行度による影響などの課題があり、鍼治療の効果を確実なものとして示すには、今後の大規模かつ高品質な臨床試験が必要です。

     それでも、マクロファージのような免疫の鍵となる存在に焦点を当てた鍼治療の研究は、アレルギー疾患に対する「根本へのアプローチ」として期待されており、今後の発展が注目されます。

    じねん堂では鼻腔内鍼を提供していません。

    【参考文献】
    Qu Y, Gu Y, Zhang X, Wang Y, Xing X. Acupuncture’s Immunomodulatory Effects on Macrophages in Allergic Disorders: A Systematic Review. J Asthma Allergy. 2025 May 22;18:801-815. 
    Li Y, Wang Y, Liang Y, Si X, Li Z, Wang Y. Intranasal acupuncture for allergic rhinitis: A systematic review and meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2024 Nov 8;103(45):e40305.


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