「検査では異常なし」と言われた背中の痛みで、こんなことでお困りではありませんか?
- 疲れがたまると、背中がじわっと張って重くなる
- 背中の痛みにくわえて、動悸や息苦しさ、めまいが出ることがある
- 季節の変わり目やストレスが続くと、また同じ場所が痛くなってくる
このように、長引く背中の痛みや背部の違和感に、疲労感や自律神経の症状が重なっている場合、自律神経のバランスの乱れが関わっている可能性があります。
一方で、背中の痛みの中には、心筋梗塞や大動脈解離、胆石や膵炎など、命に関わる重大な病気が隠れているケースもあります。まずは病院で、問診や診察を通して「危険な病気が隠れていないか」を確認してもらうことが、安全な治療の第一歩だと腰痛診療ガイドラインでも示されています。
医師の診察によって重篤な疾患が除外されたうえで、「自律神経のバランスの乱れ」と「慢性的な痛み」の両方に対応する専門的なケア(鍼灸など)を検討していくことが大切です。この記事では、自律神経と背中の痛みの関係、日常生活でできる対策、そして鍼灸を含めた専門的ケアの役割について、現在の知見に基づいて分かりやすくお話しします。
自律神経と背中の痛みの関係
まずは、心拍変動(HRV)といった客観的な指標も交えながら、自律神経と慢性的な背中・腰の痛みの関係について紹介します。
慢性の背中・腰の痛みと自律神経のアンバランス(HRVの視点から)
背中の痛みが3ヶ月以上続くようになると、「慢性疼痛」と呼ばれます。こうした慢性の背中・腰の痛みを抱える人では、自律神経の働き方が乱れていることが、さまざまな研究で報告されています。
自律神経のバランスは、心臓の鼓動のわずかなゆらぎを測る「心拍変動(HRV:heart rate variability)」という指標で評価されることがあります。HRVが大きいほど、副交感神経(体を休ませる神経)が状況に応じて適切に働けていると考えられているのですが、慢性腰痛のある人は、痛みのない人と比べてHRVが低い=副交感神経の働きが弱くなっている傾向があると言われています。
とはいえ、「自律神経の乱れのせいで痛みが生じるのか」「痛みが続いた結果として自律神経が乱れるのか」という因果については、まだはっきりしていません。現在分かっているのは、「痛みが続くことで自律神経が乱れ、自律神経が乱れることでさらに痛みが長引きやすくなる可能性が高い」という点です。
ストレスや緊張が交感神経を優位にし背中を痛くするメカニズム
自律神経はおおまかに、「活動モードにする交感神経」と「休息モードにする副交感神経」の2つから成り立っています。仕事や人間関係などのストレスが続いたり、痛みそのものがストレスとして積み重なったりすると、体は「いつでも戦闘モード」のような状態になり、交感神経が優位な時間が長くなります。
交感神経が優位になると、心拍数や血圧が上がったり、筋肉が固まりやすくなったり、細い血管がキュッと締まって筋肉への血流が減ったりといった変化が起こります。その結果、背中や肩、首の筋肉に酸素や栄養が届きにくくなり、疲労物質や炎症物質がたまりやすくなる状態、つまり、コリや痛みが出やすい状態になります。
ストレス・緊張 → 交感神経優位が続く → 筋肉の緊張・血流低下 → 背中の張り・痛み
このような流れが、慢性的な背中の痛みの土台として働いていると考えられています。
背中の痛み以外にも現れる自律神経失調症の主な症状とは
自律神経の乱れは、背中の痛みだけでなく、動悸、息苦しさ、めまい、消化不良、胃もたれ、便秘や下痢、頭痛、朝からずっと続くようなだるさ(倦怠感)などのような、「検査では異常が見つからないのにつらい症状」として現れることがあります。
また、全身の慢性疼痛疾患である「線維筋痛症(fibromyalgia)」では、広い範囲の痛み、睡眠障害、頭痛、過敏性腸症候群のような消化器症状などが一緒に出ることが知られており、「痛み」と「自律神経・睡眠・内臓の不調」が絡み合っていることが分かります。
とはいえ、こうした症状は、心臓や肺、脳、神経、消化器などの大きな病気のサインになっている場合もあります。「この前の検査では何もないと言われたから、全部自律神経のせいだろう」と、自己判断してしまうのは危険です。これらの症状が続いたり、今までと違う強さ・出方をしたりするときは、必ず医師の診察を受けてください。
背中の痛みと筋肉・姿勢・腰椎との関係を徹底解説
背中の痛みの多くは、自律神経だけでなく、筋肉の使い方や姿勢、背骨(脊椎)の状態とも深く結びついています。ここからは、日常の姿勢や筋肉のコリが、自律神経の乱れと重なりながらどのように背中の痛みを長引かせるのかをお示しします。
猫背や不良姿勢が自律神経と背中・腰の痛みに及ぼす影響
長時間のデスクワークやスマートフォンの操作を続けることで、猫背や巻き肩、頭を前に突き出した姿勢などが癖になっている方は少なくありません。このような姿勢が続くと、背中や肩甲骨まわり、腰の筋肉に常に余計な負担がかかります。
頭はボーリングの球ほどの重さがあります。その頭がほんの数センチ前に出るだけで、首や肩、背中の筋肉は何倍もの力で支え続けなければならなくなります。これが続くと、背中の張りやコリが慢性化し、痛みにつながりやすくなるのです。さらに、猫背になると胸(胸郭)の動きが邪魔されて呼吸が浅くなりがちです。浅い呼吸は、副交感神経の働きを妨げ、「交感神経優位=緊張状態」が続きやすい状態になってしまいます。
慢性的な首・肩の痛みを持つ女性を対象とした研究では、僧帽筋(首から肩・背中に広がる筋肉)に負荷をかけたときの筋肉の酸素状態や交感神経の活動の変化が報告されており、姿勢・筋肉・自律神経のつながりが示唆されています。
筋肉の緊張やコリ(トリガーポイント)が背中・肩・首・腰の痛みを悪化させる仕組み
しつこいコリや、押すと「そこそこ!」と感じる強い痛みのあるポイントは、トリガーポイントと呼ばれることがあります。トリガーポイントは、筋肉や筋膜(筋肉を包む膜)の中にできる小さな「しこり」で、そこを押すと強い痛みを感じたり(圧痛)、ときには離れた場所(関連痛)にも痛みが広がったりする、といった特徴があります。
トリガーポイントの存在は、筋筋膜性疼痛症候群(筋・筋膜のトラブルが関わる痛みの状態)でよく見られる変化のひとつで、診断の手がかりとされています。その背景には、日常生活での使いすぎや反復動作、不良姿勢、ストレス、疲労などが関わっていると考えられており、こうした負荷が積み重なることで、筋肉がこわばりやすくなると考えられます。
このように、日常生活での負担が続くことで筋肉や筋膜にトリガーポイントが生じ、背中・肩・首・腰の痛みや重だるさを長引かせてしまうことがあります。「筋肉そのものの状態を整える」ことが、慢性的な背中の痛みの改善において重要なポイントになります。
筋・骨格と自律神経の“悪循環”と、鍼灸を含む集学的治療の役割
痛みが長引くと、からだの中では何が起きているのでしょうか。
長期間続く痛みでは、脳や脊髄の「痛みを感じる回路」が敏感になり、本来なら気にならない程度の刺激でも痛みとして感じやすくなる状態(中枢感作)が生じると考えられています。
そこに、次のような要因。
- 「少しでも動いたら悪くなるのでは」という恐怖回避信念
- 「この痛みは一生治らないのでは」という破局化思考
- 仕事・家庭・経済的な不安といった社会的なストレス
これらが重なることで、痛みがさらに強く、長く続きやすくなります。
ここまでお示ししてきたように、「痛みの悪循環」は、以下の3つの要因が組み合わさって作られます。
- 筋肉や関節への負担(筋・骨格の問題)
- 自律神経のアンバランス
- 不安やストレスなどの心理社会的要因。
そのため、慢性の背中・腰の痛みの治療では、ひとつの治療だけで何とかしようとするのではなく、運動療法(有酸素運動・筋力トレーニングなど)、姿勢・体の使い方に関する指導、痛みの仕組みを理解するための患者教育、認知行動療法(CBT)やマインドフルネスなどの心理的アプローチ、必要に応じた薬物療法、鍼灸などの非薬物療法など、複数の方法を組み合わせることが大切だとされています。
このように複数の方法を組み合わせる治療は、集学的治療(マルチモーダルアプローチ)と呼ばれ、慢性疼痛の治療アプローチとして推奨されています。
内臓疾患や血流低下が背中の痛みに繋がる場合もある
ここまでは「自律神経」と「筋・骨格」の視点から背中の痛みを見てきましたが、忘れてはいけないのが内臓の病気や血流の問題です。ここからは、「自律神経のせい」と決めつけてしまう前に知っておきたい、内科的・整形外科的な注意点をまとめます。
背中の痛みの裏に隠れる内臓障害や慢性疾患の可能性
背中の痛みは、筋肉や自律神経だけでは説明できない場合もあります。たとえば、次のような病気では、背中や肩甲骨の間の痛みとして症状が出ることがあります。
- 心臓の病気
心筋梗塞・狭心症(胸の痛みだけでなく、背中や顎に痛みが広がることも) - 大動脈の病気
大動脈解離・大動脈瘤 - 消化器の病気
胆石・胆嚢炎(右肩から背中にかけての痛み)、膵炎(みぞおちから背中への放散痛) - 泌尿器の病気
腎盂腎炎、尿路結石(腰背部の強い痛み)
痛みの場所や性質(締め付けられるような痛み、波のように強くなる痛みなど)、発熱や吐き気・冷や汗といった随伴症状によって、疑われる病気は変わってきます。
痛みが長引く場合に疑うべき病気と早期相談の重要性(レッドフラッグ)
長引く背中の痛みを、「自律神経の乱れ」や「筋肉のコリ」のせいだと決めつけてしまうのは危険です。特に、次のようなレッドフラッグ(危険なサイン)がある場合、先ずは医療機関を受診しましょう。
- がんの既往がある
- 原因不明の体重減少が続いている
- 発熱を伴う、または夜間に痛みが強くなる
- 交通事故などの大きな外傷を受けた後の痛み
- ステロイド薬を長期間服用している
- 尿や便が出にくい・漏れてしまう、股のあたり(会陰部)のしびれなど、馬尾症候群を疑う症状がある
これらのサインは、骨折、感染、腫瘍、重篤な神経障害などと関係している可能性があります。「様子をみよう」と自己判断で放置せず、整形外科や内科などで早めに相談しましょう。
『自律神経のせい』と思い込む前にチェックしたいポイント(診断トリアージ)
背中や腰の痛みの多くは、レントゲンやMRIなどの画像検査をしても、はっきりした異常が見つからない「非特異的な痛み」として扱われます。原因が特定できなくても、日常生活には大きな支障をきたすことがあるため、病院ではまず「危険な病気が隠れていないか」を丁寧に確認していきます。
診察では、一般的に次のような順番で原因を絞り込んでいきます。
- 命に関わる重い病気がないかをチェックする
骨折・感染症・がん・大動脈解離・心筋梗塞などのサインがないかを、問診や診察、必要に応じた血液検査・画像検査で見ていきます。 - 心臓や内臓、神経の圧迫など「はっきり原因が分かる痛み」が疑われないかを調べる
しびれや筋力低下、排尿・排便の異常などがないかを確認し、必要であれば整形外科、循環器内科、消化器内科などの専門科に紹介されます。 - それらが否定された場合、「非特異的な背部・腰の痛み」と考え、保存的な治療を続けていく
薬、リハビリ、運動療法、生活習慣の調整などを組み合わせて、経過をみていきます。
内臓の病気や重大な疾患の可能性が少しでも疑われる場合は、まず内科・循環器内科・消化器内科・整形外科などに相談することが最優先です。
そのうえで、「命に関わる重い病気はなさそうです」「画像には大きな異常は映っていません」と、医師から説明を受けた背中の痛みであれば、自律神経のバランスや、筋肉・姿勢の問題に目を向けていく段階に入っていきます。
鍼灸をはじめとした専門的なケアは、このような、「危険な病気は否定されたものの痛みや張りが続いている」という段階で、選択肢の一つとして検討するのが現実的で安全です。
背中の痛みを改善するための日常生活での具体的な方法
ここまでで、「原因の可能性」を一通り紹介しました。次に気になるのは「では、自分で何ができるのか」という点だと思います。ここからは、背中の痛みと自律神経の乱れに対して、日常生活の中で実践できる具体的な対策をお示しします。
ストレッチ・軽い運動・睡眠改善による自律神経のバランス調整
慢性の背中や腰の痛みの改善には、運動療法が非常に重要です。ウォーキングなどの有酸素運動、そして体幹や下肢の筋力トレーニングなどに代表される運動療法は、痛みを軽減し、日常生活動作(ADL)や体の動きやすさ(身体機能)、生活の質(QOL)を高めることが、さまざまな研究で示されています。
また、ヨガ、ピラティス、太極拳といったマインドボディエクササイズは、体を大きく動かしながら呼吸を整えることで、痛みや機能障害の改善に役立つだけでなく、自律神経のバランスを整える効果も期待できます。
睡眠についても、「寝れば何とかなる」ではなく、「睡眠の質を上げる工夫」が大切です。就寝前1〜2時間はスマホやPCの使用を控えたり、カフェインやアルコールの摂取タイミングを見直したり、寝る2〜3時間前までに入浴を済ませたりするなど、「睡眠衛生」を整えることで、自律神経のリズムが安定し、痛みの感じ方にも良い影響を与えると考えられています。
心身のリラックスやストレス発散で背中の痛みを軽減する方法
慢性疼痛では、「動くと悪くなるのでは」と怖くなって、動くこと自体を避けてしまう考え方(恐怖回避信念)や、「一生このままかもしれない」と最悪の状態ばかり想像してしまう考え方(破局化思考)が、痛みをさらに強く感じさせることが分かっています。
このため、心と体の両方を“ゆるめる”工夫が重要となります。
- 考え方や行動のクセに気づいて変えていく認知行動療法(CBT)
- 今この瞬間の体験に意識を向けるマインドフルネス
- 不快な感情を完全になくすのではなく、「あっても大丈夫なように生き方を調整していく」アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)
以上のような心理的介入が、慢性疼痛に対して有用だと報告されています。
大切なのは、ストレスを「ゼロにする」ことではなく、ストレスから回復する時間を、「意識してつくる」という視点です。短い深呼吸やストレッチ、好きなことに集中する時間、人に話を聞いてもらう時間など、小さな回復の時間を生活の中にちりばめていくことが、背中の痛みの悪循環を断ち切る手助けになります。
季節・天気と背中の痛み ― 気象病・天気痛とどう付き合うか
「雨が降る前は古傷が痛む」「低気圧が近づくと頭痛や腰痛がつらくなる」といった経験がある方も多いと思います。こうした、気象の変化と痛みの関係は、「気象関連疼痛」や「天気痛」として研究が進められています。
関節炎や慢性痛の患者さんを対象にした研究では、「気温や気圧の変化と痛みの強さに、ある程度の関係を認めた」ものもあれば、「ほとんど関係が見られない、あるいはあってもごくわずか」とするものもあったりと、結果はさまざまです。とはいえ、「全員が天気で痛くなる」とまでは言えませんが、気圧や気温の変化に敏感な人が一定数いることは事実であると言えます。
動物実験では、気圧を下げたときに、耳の奥の「気圧の変化を感じる部分」が強く反応し、自律神経やストレス反応が高まって痛み行動が増える、といった結果も報告されています。こうした結果から、次のような“流れ”が、一つの仮説として考えられています。
気圧や気温の変化 → 内耳や自律神経、ホルモンの変化 → 痛みの感じやすさの変化
ただし、この仮説が人間の慢性腰痛や背部痛でどの程度同じメカニズムが働いているかは、まだ研究途中です。また、「温度の変化に極端に弱い(温度不耐性)」ことと慢性痛の関係も指摘されており、冷え・寒暖差が痛みの増悪因子となる人もいます。
現時点で言えるのは、気象変化が痛みに影響する人もいるが、その強さは人によって大きく違うことと、天気と痛みの関係が、シンプルな「○○だから必ず痛む」というものではないということです。
天気が崩れると体調も悪くなりやすいと感じている方は、「雨の前日は早めに体を温める」「気圧が下がる日は予定を少なめにする」など、自分なりのルールを決めておくと、体調管理がしやすくなります。
セルフケアと専門的ケア(鍼灸など)の役割分担
ここまで、「自分でできる工夫」を中心に見てきましたが、それでも残ってしまう痛みもあります。ここからは、セルフケアと専門的ケアの境目をどう考えるか、そして鍼灸がどの位置づけにあるのかを整理します。
いつ「専門的ケア」を考えるか
慢性疼痛とは、痛みが3ヶ月以上続く、または再発を繰り返す状態を指します。
ストレッチや軽い運動、生活習慣の見直しといったセルフケアや、湿布・内服薬といった標準的な保存療法だけでは改善が頭打ちになってきた場合、専門的なケアを追加することを考えるタイミングかもしれません。
アメリカの専門学会(米国内科学会など)の腰痛ガイドラインでは、慢性腰痛について、“まず薬に頼らない治療(非薬物療法)から始めること”を推奨しています。その中には、運動療法、心理的アプローチ、鍼治療などが含まれており、鍼治療は非薬物療法の一つとして位置づけられています。
研究の結果では、通常の保存療法に鍼治療を組み合わせることで、慢性腰痛の痛みや機能が臨床的に意味のあるレベルまで改善する人が一定数いることが報告されており、「慢性腰痛に対して現実的に有効な治療の一つ」と評価されています。

セルフケアを続けているが、背中の痛みが残っている
薬だけに頼るのが少し不安
このように感じるとき、鍼灸を含めた専門的ケアを検討してみることには十分な意味があります。
鍼治療がどこに働きうるのか(自律神経・血流・筋肉・脳)
鍼治療が「どこに働きうるのか」については、すべてが解明されているわけではありませんが、いくつかの研究から次のような可能性が示されています。
- 自律神経バランスへの影響:
心拍のわずかなゆらぎ(心拍変動:HRV)を用いて自律神経を評価した研究の一部では、鍼治療のあとに交感神経(緊張させる神経)の緊張がやや和らぎ、副交感神経(体を休ませる神経)の働きが高まるといった変化が報告されています。すべての研究が同じ結果を示しているわけではありませんが、鍼治療が、自律神経のバランスを整える方向に働く可能性があることが示唆されています。 - 局所の血流・組織の状態への影響:
アキレス腱の周囲を対象にした研究では、鍼治療中・治療後に腱周囲の血液量と酸素飽和度が変化したことが報告されており、鍼が局所の血流や組織の状態を変える可能性が考えられています。
これを背中の痛みにそのまま当てはめることはできませんが、こわばった筋肉や腱の周囲に鍼をすると、血流や組織環境を整える方向に働くと考えて差し支えないと思われます。 - 筋肉・トリガーポイントへの直接的アプローチ:
前述ように、日常生活での使いすぎや不良姿勢、ストレスなどが続くと、筋肉や筋膜に「トリガーポイント」と呼ばれるしこりが生じ、背中・肩・首・腰の痛みを長引かせることがあります。慢性の腰痛を対象にした研究では、トリガーポイントへの施術によって痛みの軽減や動きやすさの改善がみられたという報告があります。個人差はあると思われますが、日常生活の負荷などでこわばってしまった筋肉やトリガーポイントに直接アプローチし、緊張をゆるめていくことが、慢性的な背中・腰の痛みの改善に役立つ可能性が示唆されます。 - 「痛みをどう感じるか」という脳の仕組みへの影響の可能性:
脳の画像研究では、慢性腰痛の方に鍼治療を行った後、痛みを抑えるネットワーク(下行性疼痛抑制系)や報酬系と呼ばれる脳内ネットワークなど、痛みの感じ方や「つらさ」の評価に関わる領域の働き方が変化したことを示す報告もあります。
これは、鍼治療が筋肉だけでなく、「痛みをどう感じるか」「どのくらいつらいと受け取るか」という脳の仕組みにも影響を与え得る可能性を示しています。
「鍼だけで完結」ではなく、組み合わせて使う
ここまで見ると、鍼治療は筋肉やトリガーポイント、局所の血流・組織環境、自律神経のバランス、脳の痛みのネットワークなど、様々なレベルに働き得る治療法のひとつであると考えられます。
とはいえ、鍼だけですべてが解決するわけではありません。慢性疼痛の治療では、運動療法、患者教育(痛みの仕組みを知ること)、心理的アプローチ(CBT やマインドフルネスなど)、必要に応じた薬物療法、鍼灸などの非薬物療法などを組み合わせる集学的治療(マルチモーダルアプローチ)が推奨されています。
鍼治療は、その中の一つの手段として、「こわばった筋肉とトリガーポイント」「自律神経のアンバランス」
「痛みの感じ方そのもの」などに、多面的に働きかける役割を担います。セルフケアをがんばっても、どうしても取り切れない背中の痛みがあるときや、薬だけに頼らず、体質や自律神経から整えていきたい場合に、他の治療法と協力しながら使っていくのが現実的な位置づけと考えていただければと思います。
医師や専門院へ相談が必要な背中の痛みの見極め方
セルフケアや鍼灸などの選択肢を知っても、「結局いつ病院に行けばいいのか」「どのタイミングで専門院に相談すべきか」が分からないと不安が残ります。この章では、受診の目安と、医療機関・鍼灸院それぞれの役割を整理します。繰り返しになる部分もありますが、極めて重要なことなので改めてご案内します。
すぐに病院受診が必要な背中の痛み
次のような症状がある場合は、「様子を見る」のではなく、早めの受診が必要なサインです。
- 前述したレッドフラッグ(がんの既往、原因不明の体重減少、発熱、夜間痛、重い外傷歴、長期ステロイド内服、尿や便のトラブル、会陰部のしびれ など)
- 今まで経験したことのないような激しい痛み
- 胸の痛みや締めつけ感、冷や汗、吐き気を伴う背中の痛み
このような場合は、救急外来や整形外科、内科(循環器内科や消化器内科など)をためらわず受診してください。
鍼灸院に相談してもよい背中の痛み
鍼灸院に相談するタイミングとしては、次のような状況が目安となります。
- 医師による検査で、骨折・感染症・がん・内臓疾患などの重い病気は否定されている
- 痛みが3ヶ月以上続いている、または同じ場所の痛みを何度も繰り返している
- ストレスや季節の変わり目、ホルモンバランス(生理前後など)で痛みが変動しやすい
- 肩こり、頭痛、冷え、胃腸の不調など、自律神経の乱れを思わせる症状を併せ持っている
このような「自律神経タイプの背部痛」に対して、鍼治療は一つの有力な選択肢になり得ます。慢性腰痛や慢性疼痛を対象とした研究では、鍼治療が痛みの強さや動きやすさを改善する効果を持つことが示されており、国際的にも「現実的に有効」と評価されています。
ここで気を付けていただきたいのは、相談する鍼灸院の鍼灸師が、慢性疼痛や自律神経の乱れに関する知識を持っているか、そして医療機関との連携や情報共有に前向きかという点です。慢性疼痛や自律神経の乱れに対するアプローチができることはもちろんですが、施術経過中に「病院での再検査が必要」と思われる所見を見出した場合、速やかに患者に対して医療機関の受診を促す必要があるからです。
鍼灸院(鍼灸師)によっては、病院の治療を否定するような発言をしたり、病院で継続中の治療を中止させようとしたりすことがありますが、それは患者に大きな不利益を及ぼしかねない危険な行為であり、鍼灸院(鍼灸師)の業務上必要かつ相当な範囲を逸脱しています。(整骨院や整体・カイロプラクティック院も同じです)
不安な場合は、初回の相談の際に、これらについて質問してみるのも良いかと存じます。
背中の痛みや自律神経失調に悩んだ時のまとめと適切な対策
ここまで、「原因の考え方」「セルフケア」「専門的ケア」「受診の目安」と、かなり多くの情報を見てきました。最後に、大事なポイントを整理しつつ、「我慢して放置しないための考え方」をまとめます。
「命の安全」「生活習慣」「専門的ケア」の3本柱で考える
長く続く痛みは、からだの問題だけでなく、こころの状態や生活環境も含めて考える「生物心理社会モデル」という視点でとらえることが大切だとされています。
背中の痛みや自律神経の不調に向き合うときは、次の3本柱で考えることをお勧めします。
- 命の安全の確保
レッドフラッグ(危険なサイン)を見逃さず、まずは医療機関を受診して、重い病気が隠れていないかを確認する。 - 生活習慣とストレスの見直し
有酸素運動やマインドボディエクササイズ、認知行動療法やACTの考え方を取り入れ、自律神経のバランスと日常生活のリズムを整えていく。 - 自律神経・慢性痛へのアプローチを得意とする施設の利用
セルフケアだけでは改善しない場合には、ガイドラインでも非薬物療法の一つとして位置づけられている鍼治療など、専門的なケアを受けることを検討する。
「我慢して放置しない」ために当院ができるサポート
痛みが続くと、「自分が弱いからだ」「気のせいかもしれない」と自分を責めてしまう方も少なくありません。しかし、慢性疼痛の研究によって、長く続く痛みは、決して「気のせい」でも「我慢が足りない」からでもないということが分かっています。不安や破局化思考などの心理的要因への対処が不可欠であり、専門家による心理教育や認知行動療法が推奨されているのも、そのためです。
三重県津市のじねん堂はり灸治療院では、丁寧な問診を通して患者さんの状態を把握し、からだ(筋・骨格・自律神経)・こころ・生活背景のそれぞれを患者さんと一緒に整理していきます。そのうえで、鍼治療やエクササイズ、生活の工夫を組み合わせながら、痛みの悪循環から少しずつ抜け出していくお手伝いをします。



検査では異常なしと言われたけれど、背中の痛みと自律神経の不調がつらい。このまま我慢し続けていいのか不安……
そんなときは、どうか一人で抱え込まず、いつでもご相談ください。あなたの痛みの背景にあるものを一緒に整理し、「がまんして放置する」以外の選択肢を探していきましょう。
【参考文献】
Benarroch E. What Is the Role of the Sympathetic System in Skeletal Muscle? Neurology. 2024 May 28;102(10):e209488.
Jun S, Ryosuke U, Kiyoteru M, Toshiyuki F, Yasuko O, Sayaka H, Mayumi T, NahoT. The epidemiological and clinical features of weather–related pain (TENKITSU) and development of prediction information service for the onset of pain. PAIN RESEARCH. 2021;36(2):75-80.
Shiro Y, Arai YC, Matsubara T, Isogai S, Ushida T. Effect of muscle load tasks with maximal isometric contractions on oxygenation of the trapezius muscle and sympathetic nervous activity in females with chronic neck and shoulder pain. BMC Musculoskelet Disord. 2012 Aug 13;13:146.
Pontes-Silva A, Bassi-Dibai D, Fidelis-de-Paula-Gomes CA, Souza CDS, Pires FO, Mostarda CT, Dibai Filho AV. Comparison of the autonomic nervous system dysfunction between different chronic spine disorders: neck pain versus low back pain. Rev Assoc Med Bras (1992). 2022 Sep;68(9):1288-1296.
Kubo K, Iizuka Y, Yajima H, Takayama M, Takakura N. Changes in Blood Circulation of the Tendons and Heart Rate Variability During and After Acupuncture. Med Acupunct. 2020 Apr 1;32(2):99-107.
Chung JW, Yan VC, Zhang H. Effect of acupuncture on heart rate variability: a systematic review. Evid Based Complement Alternat Med. 2014;2014:819871.
若山 育郎. 腰痛診療ガイドラインにおける鍼治療:英米ガイドラインの比較. 日本東洋医学雑誌. 2021;72(3):302-306.
DeBar LL, Wellman RD, Justice M, Avins AL, Beyrouty M, Eng CM, Herman PM, Nielsen A, Pressman A, Stone KL, Teets RY, Cook AJ. Acupuncture for Chronic Low Back Pain in Older Adults: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2025 Sep 2;8(9):e2531348.
Feng Gao, Dongming Jia, Shengxia Xue, Comparative efficacy of acupuncture for chronic low back pain: A network meta-analysis. Heliyon. 2025;11(10):e43132.
Asano H, Plonka D, Weeger J. Effectiveness of Acupuncture for Nonspecific Chronic Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Med Acupunct. 2022 Apr 1;34(2):96-106.
Shirado O, Arai Y, Iguchi T, Imagama S, Kawakami M, Nikaido T, Ogata T, Orita S, Sakai D, Sato K, Takahata M, Takeshita K, Tsuji T; Structured abstract preparation team. Formulation of Japanese Orthopaedic Association (JOA) clinical practice guideline for the management of low back pain- the revised 2019 edition. J Orthop Sci. 2022 Jan;27(1):3-30.
慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ. 慢性疼痛診療ガイドライン. 真興交易医書出版部. 2022.
Qaseem A, Wilt TJ, McLean RM, Forciea MA; Clinical Guidelines Committee of the American College of Physicians; Denberg TD, Barry MJ, Boyd C, Chow RD, Fitterman N, Harris RP, Humphrey LL, Vijan S. Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Ann Intern Med. 2017 Apr 4;166(7):514-530.
Fernández-Morales C, Espejo-Antúnez L, Albornoz-Cabello M, Yáñez-Álvarez ÁR, Cardero-Durán MLÁ. Autonomic Balance Differences Through Heart Rate Variability Between Adults with and Without Chronic Low Back Pain. Healthcare (Basel). 2025 Feb 26;13(5):509.
佐藤 純. 痛みと気象. 治療学. 2005;39(8):13-16.




予約
059-256-5110
営業電話は固くお断りします
月~金 9時ー21時
土 9時ー15時
日曜休業・祝祭日不定休
ウェブ予約
予約ページは新しいタブで開きます
免責事項にご同意のうえ、ご予約ください
同業者(療術業)の予約はお受けできかねます
免責事項
鍼による施術は痛みや出血を伴う場合があります。また、以下のような場合、施術による変化が現れにくかったり、症状の“もどり”が早かったり、施術期間が⻑期に及んだり、施術することをお断りしたりすることがあります。鍼にはネガティブな側⾯があり、万能でもないことをご承知おきください。
構造上の問題による痛み
重篤な疾患による痛み
強⼒なあるいは多種の薬剤服⽤
⾼齢・衰弱による⽣理機能の低下
取り除けない物理的刺激要因
各種⼼理的要因
アクセス
〒514-1105 三重県津市久居北口町15-7
近鉄久居駅より徒歩15分/伊勢自動車道久居ICより車で5分
駐車スペース常時2台分あり
※看板がありませんのでご注意ください

