円形脱毛症と鍼灸:免疫とストレスへの作用

 円形脱毛症(AA)は、髪の毛を作る毛包が自身の免疫細胞に攻撃されてしまう自己免疫疾患です。その症状は円形の脱毛斑から始まり、時には頭部全体や全身に広がることもあります。この病気の進行には精神的なストレスが深く関与していると考えられており、患者さんの生活の質(QoL)にも大きな影響を与えることが知られています。

 このような円形脱毛症に対して、鍼灸がどのように役立つ可能性があるのかを、免疫系の調整と視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸を介した抗ストレス作用という二つの側面から見ていきます。

目次

鍼灸は免疫にどう働く?

 円形脱毛症では、体の免疫システムが過剰に働き、自分の毛包(髪の毛を作る組織)を誤って攻撃してしまうと考えられています。特に「T細胞」と呼ばれる免疫細胞が活性化し、インターフェロンγ(IFN-γ)などの物質を出すことで、炎症が起こりやすくなります。こうした物質は「炎症性サイトカイン」と呼ばれ、免疫細胞が他の細胞と情報をやりとりするためのメッセンジャーとして働きますが、過剰に産生されると組織にダメージを与えてしまうこともあります。

 鍼灸には、このような免疫バランスの乱れを整える作用があるとされており、研究でもその可能性が示されています。

神経を介した「炎症のブレーキ」

 炎症は「起こす仕組み」だけで進むわけではなく、行き過ぎを抑える“ブレーキ側”の仕組みも同時に働きます。迷走神経を介した抗炎症経路は、この“ブレーキ側”の代表例として説明されています。

 鍼や灸で皮膚を刺激すると、痛みや熱といった軽い刺激として体に認識され、神経を通じて免疫システムに影響を与えることが知られています。体内の免疫を司る器官(脾臓やリンパ節など)は自律神経のネットワークとつながっており、免疫細胞も神経の信号を受け取るための「受容体(センサーのようなもの)」を持っています。
 迷走神経とは、脳から内臓まで伸びる長い神経で、身体のリラックスを司る「副交感神経」の一部です。炎症が体で起こると、その情報が脳幹に伝わり、迷走神経を通じて脾臓へと信号が送られます。すると脾臓の免疫細胞が「アセチルコリン」を放出し、それが他の免疫細胞にある「α7ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)」に結びつきます。これにより、TNF-αなどの炎症を起こすサイトカインの分泌が抑えられ、炎症が静まっていく仕組みが働く、と説明されています。

 この神経を介した調整の具体例として、足のすねにある「足三里」への刺激が取り上げられます。動物実験では、足三里穴への鍼刺激が迷走神経を通じて脾臓の炎症を抑える効果を持つことが報告されており、特にTNF-αという炎症物質の血中濃度が低下することが分かっています。また、この効果は迷走神経を切断すると消失するため、神経を介した作用であると考えられています。

炎症性因子(サイトカイン・免疫細胞)の調整

 円形脱毛症では、TNF-αやIL-17などのサイトカインが多くなっており、これが症状の悪化に関係していると考えられます。鍼灸には、こうしたサイトカインの産生を調整し、炎症のバランスを整える可能性があると報告されています。具体的には、IL-1β、IL-6、IFN-α、IL-15などの調整に関与するとされています。

 さらに、鍼の刺激は、ウイルスなどを攻撃する「NK細胞」や、体の免疫記憶に関わる「リンパ球」、抗体を作る機能にも影響を与えることが報告されています。また、皮膚に存在する神経から「サブスタンスP」や「CGRP」といった物質が分泌され、免疫をつかさどるランゲルハンス細胞などに働きかけて、炎症を和らげる可能性があると考えられています。

インターフェロンγ(IFN-γ)は円形脱毛症の炎症悪化に関与する一方、免疫調節の役割も持っています。鍼灸によってこの物質が増えても、全体のバランスが整っていれば悪影響にはつながらないと考えられます。

ストレスと円形脱毛症 ~HPA軸と鍼灸~

 円形脱毛症の発症・再発には、精神的ストレスが深く関わっているといわれています。こうしたストレス反応を調整するのが「HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)」と「交感神経系」です。

HPA軸への調節作用

 HPA軸とは、脳の視床下部から下垂体、副腎へと指令を出して、ストレスに対抗するホルモン(主にコルチゾール)を出すシステムです。動物実験では、足三里穴への電気鍼によって、ストレスによって活性化したHPA軸の働きが抑えられ、ホルモンの分泌が抑制されたという報告があります。

交感神経系への影響

 交感神経は「戦う・逃げる」といった緊張モードを担う神経で、ストレス時にアドレナリンやドーパミンなどが放出されます。足三里穴への鍼刺激は、このような神経伝達物質の働きにも影響を与え、免疫バランスの改善を助ける可能性が指摘されています。

精神面のサポートとQoL

 円形脱毛症の患者さんは、外見の変化による心理的ショックや不安を抱えることが少なくありません。鍼灸はストレスや緊張の緩和にも働きかけることから、症状の悪化防止や生活の質(QoL)の向上に役立つと考えられています。

臨床研究でみる鍼灸の効果

 これまで見てきた基礎研究では、鍼灸が自律神経を介して免疫やストレス反応に調整的な影響を及ぼすことが示されていました。では臨床研究等では、円形脱毛症に対する鍼灸についてどのように述べられているのでしょうか。

臨床例・文献レビュー

 Li(2022)の文献レビューでは、鍼灸や電気鍼、薬鍼、微細針療法、光線療法などが円形脱毛症に対して使用され、症状の改善がみられたとの報告が複数存在します。鍼灸単独あるいは他の治療法との併用で、発毛が確認された例もあります。

 Leem(2021)による韓国医学の文献レビューでも、複数の治療法が「効果あり」と評価され、副作用は軽微(かゆみ、めまい、だるさなど)との記述が多く見られます。中でも、電気鍼とビタミンB12注射の併用による臨床報告では、94.3%という高い有効率(TER:総有効率)が得られた例も報告されています(対照群は77.1%)。

 日本では、梶間(1992)が鍼灸と漢方を併用した症例で、毛髪の発育や頭皮の温度変化、皮膚の反応を観察しており、実際に毛髪再生を確認した例を報告しています。

現行ガイドラインでの位置づけ

「円形脱毛症診療ガイドライン2024」では、鍼灸についての記載は明示されていません。これは、効果が否定されたわけではなく、科学的に信頼できる大規模な臨床研究(特に無作為化比較試験:RCT)の蓄積が不十分であるため、現在のところ治療法としての評価が定まっていないという意味と捉えるべきです。

まとめ

 鍼灸は、現代医学で注目される「神経‐免疫‐内分泌」の三者連関に働きかける数少ない治療選択肢のひとつです。

  • 免疫系への働きかけによる炎症の抑制
  • HPA軸や交感神経を通じたストレスの軽減
  • 精神的ストレスへの対処と生活の質(QoL)の改善

 以上のようなアプローチを通じて、円形脱毛症の改善に寄与する可能性が示されています。

 また、鍼灸の免疫以外への作用として、頭皮局所の血流改善も注目されています。山口(2002)の研究では、鍼刺激や鍼通電刺激によって皮膚表面および深部の微小循環が増加することが報告されており、この効果は刺激を与えた部位に限局して現れることが示されています。さらに、前出の梶間(1992)は、円形脱毛症の患者における頭皮の冷感や循環不全に着目し、鍼刺激による頭皮血流の改善が治療効果の一因である可能性を指摘しています。これらの循環促進作用は、毛包周囲の代謝環境を整え、炎症の収束や栄養供給といった点において、円形脱毛症の回復に寄与すると考えられます。
 鍼灸の血流改善作用は、「神経‐免疫‐内分泌」の三者連関にあわせ、多角的に回復を支える要因となるでしょう。

一方で、現時点では大規模で質の高いRCT(ランダム化比較試験)が不足しているため、標準治療としての位置づけには至っていません。今後、科学的な裏付けを伴う臨床研究の蓄積により、鍼灸の可能性がさらに明確になることが期待されます。

【参考文献】
塚本 紀之, 花田 雄二. 鍼灸刺激による免疫調節. 九州看護福祉大学紀要. 2019;20(1):45-52
Eshkevari L, Permaul E, Mulroney SE. Acupuncture blocks cold stress-induced increases in the hypothalamus-pituitary-adrenal axis in the rat. J Endocrinol. 2013 Mar 15;217(1):95-104. 
Li AR, Andrews L, Hilts A, Valdebran M. Efficacy of Acupuncture and Moxibustion in Alopecia: A Narrative Review. Front Med (Lausanne). 2022 Jun 9;9:868079.
Leem SW, Kim MK, Ko SL, Jeong HI, Kim KH. Literature Review on Korean Medicine Treatment for Alopecia. J Pharmacopuncture. 2021 Sep 30;24(3):93-106.
梶間育郎, 森和, 矢野忠, 国安則光, 原田拡. 脱毛症の鍼灸治療に関する基礎的, 臨床的研究 (I) 頭皮, 全身所見の調査に基づく脱毛症の成因と鍼灸治療の可能性に関する考察. 全日本鍼灸学会雑誌. 1992;42(4):308-318.
山口真二郎, 大島宣雄. 鍼刺激および鍼通電刺激による末梢循環および微小循環の反応. 全日本鍼灸学会雑誌. 2002;52(2):103-114.
円形脱毛症診療ガイドライン策定委員会. 円形脱毛症診療ガイドライン 2024. 日本皮膚科学会雑誌. 2024;134(10):2491-2526.


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