細胞実験と臨床研究から見えた可能性と限界
体外受精(IVF)を続けるなかで、思うような結果が出ず、「卵子の質を改善する方法はないか」「移植までに何かできることはないか」と模索される方は少なくありません。特に、採卵数が少ない、胚が育たない、ホルモンへの反応が弱いといった状態のうち、「卵巣反応不良(Poor Ovarian Response:POR)」と診断されるケースでは、ちょっとした改善の可能性が希望につながります。※PORは、「加齢」や「卵巣予備能の低下(例:AMHの低値、胞状卵胞数の減少)」など複数の要素をもとに診断されます。
そのような背景のなかで、ある漢方薬成分に注目が集まりはじめています。それが、タンポポ茶(ショウキT-1)の成分として知られる「タンポポ抽出物 DE-T1」です。
本記事では、2018年に発表された細胞実験と、2022年に行われた臨床研究の両方をもとに、「DE-T1が卵巣に与える影響」について紐解いていきます。
顆粒膜細胞について
卵巣の中には、月経周期に合わせて発育する「卵胞」と呼ばれる構造があります。この卵胞は、未成熟な卵子を中心にして、その周りを何層もの細胞が取り囲む構造をしています。その卵子のまわりを取り囲んでいる細胞のことを、卵巣顆粒膜細胞といいます。
顆粒膜細胞の役割
顆粒膜細胞は、単なる“卵子の付属物”ではありません。実は、以下のように卵胞・卵子の発育にとって不可欠な役割を果たしています。
- 卵子の栄養サポート
卵子には血管が通っていないため、顆粒膜細胞が周囲から栄養を取り込んで卵子に届けるという重要なパイプ役を担っています。 - エストロゲン(E2)の産生
顆粒膜細胞は、女性ホルモンであるエストロゲン(特にエストラジオール)を合成・分泌する中心的な細胞です。 - ホルモン受容体の発現
FSH(卵胞刺激ホルモン)などを受け取る受容体(FSHRなど)を発現し、卵胞の成長を促進します。 - 排卵と黄体化への準備
排卵直前には、黄体形成ホルモン(LH)に反応して黄体化し、プロゲステロン(子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態に整えるホルモン)を分泌する準備を整えます。
なぜ研究で「顆粒膜細胞」が注目されるのか
体外受精では、採卵と同時に卵子の周りにある顆粒膜細胞も回収できます。この細胞は、
- ホルモンへの感受性(FSHやLHの受容体が発現)
- エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンを作り出す能力
- 卵子の発育との連動性
といった点から、卵巣の機能を細胞レベルで評価できる指標として広く研究に使われています。
2018年に行われた実験
DE-T1の有効性に関して最初に注目されたのは、2018年に発表されたin vitro(試験管内)実験でした。この研究では、体外受精を受けた女性から採取された卵巣顆粒膜細胞(GCs)を用い、DE-T1の効果を詳細に検証しています。その結果、次のような好ましい変化が確認されました。
- 顆粒膜細胞の増殖促進
- ホルモン受容体やアロマターゼ(CYP19A1)のmRNA発現量が増加(※アロマターゼは、男性ホルモンを女性ホルモン(エストロゲン)に変換する酵素であり、エストロゲンの産生に不可欠)
- エストラジオール、プロゲステロン分泌が上昇
しかしながら、この研究結果をそのまま「ヒトの体に効く」と結論づけることはできないのが現実です。
それは、以下のような研究デザイン上の問題点と限界があるためです。
- in vitro研究であること
ヒト由来の細胞(GCs)を使用しているとはいえ、実際の体内環境(卵巣内の血流、ホルモンの複雑な相互作用、免疫細胞との関係など)を再現しているわけではありません。したがって、体内で同様の反応が起きるとは限らず、臨床的な有効性を推定するには限界があります。 - 顆粒膜細胞が「黄体化」していること
IVFにおいて採取されるGCsは、すでにhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)刺激後の「黄体化」状態にある細胞です。これは排卵に向けた終盤の状態であり、本来の卵胞期のGCsとは性質が異なります。すでにFSH受容体などの発現が変動している可能性があり、DE-T1の効果を正確に測定できていない可能性があります。 - DE-T1の用量設計が曖昧
実験では体積比で0.625%~10%の濃度に調整したDE-T1が使用されていますが、この濃度がヒト体内で再現可能かどうかは不明です。臨床で使用する際の実用量や最適濃度との対応関係が検討されておらず、用量の適正性は未解決です。 - 抽出物の標準化が不明
DE-T1が「どの成分にどのような作用があるか」については明確にされていません。たとえば「○○という分子がFSHR発現を増やす」といった成分の特定や標準化がされていないため、再現性や他施設での応用に課題があります。 - 臨床アウトカム(現場での成果)との関連が未検証
顆粒膜細胞の反応性が改善されることは、卵胞環境や卵子の成熟にとって重要な意義を持ちますが、その効果が受精や胚の発育、ひいては妊娠にどのように反映されるかは、細胞実験のみでは判断できません。臨床的な検証が不可欠です。
このように、2018年の研究では細胞レベルでの良好な変化が確認されつつも、それが実際の不妊治療における成果、とくに胚の育ちや妊娠に結びつくかは、あくまで仮説の段階にとどまっていました。
そうしたなか、2022年には、DE-T1の臨床的有効性を検討する後ろ向きコホート研究(retrospective cohort study)が実施され、細胞実験の知見が現実の治療成績とどのように関わるかが検証されました。
2022年の研究は「IVF施行予定の女性」が対象
2018年の細胞実験に続き、2022年には日本国内で「タンポポ抽出物DE-T1」の臨床的な有効性を検証する研究が実施されました。
研究の概要
この研究では、体外受精に臨む女性を対象に、以下のような条件で臨床データの比較が行われました。
- 対象: IVF施行予定の女性
- 介入: 参加者を、参加者自身の選択によってDE-T1摂取群と対照群とに分け、
- DE-T1群には、採卵周期の前からDE-T1(蒲公英抽出物)を毎日服用
- 対照群にはDE-T1を投与せず、通常の治療を継続
- 評価項目:
- 採卵数
- 受精率
- 胚盤胞形成率(胚が着床可能な段階=胚盤胞まで育つ割合)
- 良好胚率(形態的に良好な胚の割合)
- 妊娠率(移植後の着床確認)
主な結果
この研究で明らかになったのは、DE-T1群において「胚の育ち」に関する指標が有意に改善していたということです。
- 胚盤胞形成率と良好胚率は有意に上昇
- 妊娠率はやや上昇したが有意差なし
とくに、「胚盤胞が得られた患者の中で、良好胚率が高かった」ことは、DE-T1が卵子や胚の数を単に増やすのではなく、育つ力をもつ胚をより良好な形で育てるという質的な作用を発揮していること示唆しています。すなわち、DE-T1は「数」ではなく「質」に働きかける補完戦略としての可能性を持つと考えられます。
このような作用は、ホルモン受容体の発現増加を通じて、卵巣のホルモン感受性を高めるというメカニズムに支えられており、細胞実験と臨床の双方で共通して示唆されています。
2018年と2022年の研究成果からわかること
2つの研究から得られた知見を総合的に見ると、DE-T1は卵巣顆粒膜細胞の分子的機能(受容体発現、ホルモン分泌、細胞増殖など)を高めることで、卵胞発育や胚の質的改善に寄与する可能性があります。特に、胚盤胞到達率や良好胚率の向上という臨床的成果が、細胞実験での生物学的作用とよく対応しており、分子→組織→臨床という一貫した作用経路が推察されます。
さらに、FSHR、IGF-1R、LHRといったホルモン受容体の感受性を高めることによって、FSHやLH、IGF-1といった生理的刺激に対する卵巣の応答性が改善されるというメカニズムは、特に卵巣反応不良(POR)例において重要です。
DE-T1の利用は、卵子の数を直接的に増やす治療というよりも、「ホルモンに反応する力」や「育ちうる胚を支える力」をサポートする戦略として位置づけられると思われます。
おわりに
不妊治療を続けてもなかなか結果が出ないとき、「他に何かできることはないか」と、焦りに似た感情を抱く方も多いかと存じます。DE-T1は、卵子の数そのものを増やすわけではありませんが、ホルモンに対する卵巣の感受性を高めることで、「育つ力を持つ卵胞」や「発育しうる胚」を下支えする可能性があります。もちろん、すべての方に同じような結果が出るとは限りません。しかし、科学的にも一定の裏づけが得られつつある今、体外受精に取り組むなかで「自分に合った補完療法を選ぶ」という視点から、こうした選択肢を検討してみる価値はあると思われます。
気になる方は、まず信頼できる医師や専門家と相談し、ご自身の状況に照らして判断されることをおすすめします。
【参考文献】
Hui Shao, Yoji Yamaguchi, Toshiaki Nozaki, Li Bai, Xi Dong, Dongzi Yang, Shuang Jiao, Junko Otsuki, Shoji Kokeguchi, Masahide Shiotani. DE-T1 on the Blastocyst obtained Rate and Live Births Rates in
Women Receiving IVF-ET Treatment. J Women’s Health Dev 2022; 5 (1): 069-080.
Wang T, Xue B, Shao H, Wang SY, Bai L, Yin CH, Zhao HY, Qi YC, Cui LL, He X, Ma YM. Effect of Dandelion Extracts on the Proliferation of Ovarian Granulosa Cells and Expression of Hormone Receptors. Chin Med J (Engl). 2018 Jul 20;131(14):1694-1701. doi: 10.4103/0366-6999.235864. Erratum in: Chin Med J (Engl). 2018 Aug 5;131(15):1890.
じねん堂は、タンポポ茶(ショウキT-1)の正規取扱店です。

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