食後すぐにお腹が張る、トイレに行ってもすっきりしない、下痢や便秘が繰り返される……。
検査では異常がないと言われたけれど、日常生活には支障がある。そんな不調に心当たりはありませんか?
過敏性腸症候群(IBS)や慢性便秘、機能性ディスペプシア(FD)など、「内臓がうまく動かない」ことで起こる症状は、多くの方が長く付き合っている問題です。こうした症状に対し、「薬だけでは十分な改善が見られなかった」「副作用が気になる」と感じている方が、鍼灸を改善への選択肢とすることは珍しくありません。
しかし、本当に改善が見込めるのでしょうか?
本記事では、最新の研究レビュー(Yangら、2025)をもとに、鍼治療がどのように作用し、どのような症状に対して改善が期待できるのかを、箇条書きでわかりやすくご紹介します。
なぜ鍼治療が消化管に作用するのか? ── 自律神経との深い関係
過敏性腸症候群や慢性便秘、FDなどの消化管運動障害では、胃や腸が適切なリズムで動かなくなるために、腹部の張り、不快感、排便異常といった症状が起こります。
このような消化器症状の背後には、自律神経の乱れがあることがわかってきました。
特に、「胃腸の動きは迷走神経(副交感神経)によって促進され、交感神経によって抑制される」という仕組みが関係しており、ストレスや生活習慣の乱れによってこのバランスが崩れると、胃腸がうまく働かなくなります。
鍼灸は、こうした自律神経の働きにアプローチする治療法のひとつです。
刺激を与えることで迷走神経を活性化させ、交感神経の緊張を緩めることで、消化管の運動機能を調整すると考えられています。
過敏性腸症候群(IBS)と鍼灸 ── 薬との比較で見えた可能性
IBSは、腹痛や腹部膨満感、便通異常(下痢・便秘・交互型)を特徴とする疾患で、多くの人が長期間悩まされます。薬で症状が改善するケースもありますが、効果が限定的だったり副作用が出ることもあります。
一方で、鍼治療により症状が改善したという報告も複数あり、代替的または補完的な選択肢として注目されています。
- 鍼治療は排便回数や腹部の不快感スコアの改善において、薬物療法より効果的だったという研究報告がある
- ある試験では、鍼を受けた84%の人が症状の軽減を実感した一方、薬物療法群では63%だった
- 鍼治療の効果は治療後3か月時点でも確認され、その後6~12か月にわたり持続したケースも報告されている
- ただし、シャム鍼(偽の鍼)との比較では明確な差が出にくく、IBS特有のプラセボ効果の影響が課題となっている
慢性便秘にも鍼灸 ── 長く続く改善効果に注目
慢性的な便秘、特に「出にくい」「出ても残便感がある」といった症状に悩む人も少なくありません。
このうち、器質的異常が見られない「慢性機能性便秘(CFC)」に対して、鍼治療、特に電気鍼は以下のような効果が報告されています。
- 自然な排便の頻度(CSBM)を増やし、便通や腹部の不快感を改善する
- 薬物療法(プルカロプリドなど)と同等またはそれ以上の効果を示し、副作用の発生も少ない
- 1,075名を対象とした多施設共同研究では、8週間の治療で得られた改善効果が、12週間後まで維持されていたことが確認された
鍼が消化管運動障害を改善する3つの作用メカニズム
Yangら(2025)のレビューによると、鍼治療が消化管運動障害を改善するメカニズムには、主に以下の3つが考えられるようです。
- 1. 自律神経の調整作用
-
- 鍼刺激により迷走神経の活動が促され、交感神経の緊張が和らぐ
- 足三里穴や内関穴への鍼刺激では、心拍変動(HRV)を通じて自律神経への影響が確認されている
- 糖尿病ラットや犬の実験では、迷走神経を介した胃の運動改善が示された
- 2. 炎症反応の抑制
-
- 消化管の軽度な炎症が運動障害を引き起こす要因となる場合がある
- 鍼は迷走神経を活性化し、コリン作動性抗炎症経路(CAIP)を通じて、TNF-αやIL-6といった炎症性サイトカインを抑制する
- 術後イレウスモデル(POIモデル:術後に腸の動きが一時的に止まる状態を再現した動物実験モデル)では、JAK2/STAT3シグナルの活性化とマクロファージ抑制により、消化管運動が促進される
- 3. 消化管ホルモンの調整
-
- 鍼刺激は、胃の運動を促すグレリン、モチリン、ガストリンの分泌を促進する
- 一方で、抑制的に働くホルモン(CCK、GLP-1、PYY)の過剰な分泌を抑え、バランスを整える
- 中脘や胃兪などのツボ刺激により、脳幹や視床下部を介したホルモン分泌調整も報告されている
効果を高める鍼治療の「コツ」──ツボ選び、刺激の強さ・頻度
「どのツボを使うか」「どのような刺激を与えるか」「どのくらいの頻度で行うか」といった施術の設計によって、作用する神経経路や治療成績が影響を受けると、近年の研究で明らかになってきています。
ツボの選び方
消化管運動障害の治療では、天枢穴や中脘穴などの腹部ツボ、足三里穴や三陰交穴などの下肢ツボが頻用されます。
一般的に、下肢のツボは迷走神経を介した促進作用、腹部のツボは交感神経を介した抑制作用があるとされてきましたが、最新研究では必ずしも明確に分かれるものではなく、ツボの選択とその効果は個々の状態に依存するとされています。たとえば、胃不全麻痺には足三里穴と中脘穴、便秘には天枢穴と腹結穴、IBS-Dには大腸兪穴と上巨虚穴など、病態に応じた組み合わせが検討されています。
刺激の強さ・周波数・時間
鍼刺激は、強度や周波数によって活性化される求心性神経線維(Aβ、Aδ、C線維など)が異なり、それにより誘導される生理反応も変わります。
刺激強度
- 低強度(例:0.5mA):Aδ線維優位、迷走神経系の活性化、抗炎症作用や消化管運動促進
- 高強度(例:3.0mA):C線維も含めた広範な求心入力、交感神経系の調節、炎症抑制や排便促進に有効
刺激周波数
- 足三里穴を用いた術後イレウスモデルでは、10Hzまたは30Hzの電気鍼が腸管蠕動と抗炎症作用を最も高めたと報告されています
- 一方、2Hzや100Hzでは効果が弱かったため、中周波域(10–30Hz)が効果的と推定されます
- 過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)のモデルにおいても、足三里穴での10Hz刺激、中脘穴での10–30Hz刺激が胃腸機能に効果的とされています
施術時間
- 一般的な実験・臨床研究における電気鍼の1回あたりの施術時間は20〜30分程度
- CFCの患者を対象にした大規模なランダム化比較試験では、30分間の電気針を週3回、合計8週間実施
治療頻度と持続期間
頻度については、週3回の治療が週1回よりも明らかに効果が高かったという臨床研究が報告されています(FD患者に対するRCT)。また、慢性便秘に対するRCTでは、8週間の治療(週3回)で得られた効果が、その後12週間の追跡期間にも持続していました。これは、治療の積み重ねによって神経・免疫系の再調整が起きている可能性を示唆します。
疾患ごとの調整
FDでは好酸球増殖とアドレナリン受容体経路、POIではマクロファージとコリン作動性抗炎症経路が関与するなど、疾患ごとに関与する免疫細胞や受容体が異なります。
この違いを踏まえると、POIには、低周波・低強度(例:1Hz, 0.5mA)による足三里穴刺激が有効で、FDには、高強度・中~高周波(例:30Hz, 3mA)による足三里穴+腹部ツボ刺激が有効といったような疾患ごとの調整が可能となります
まとめ:施術は「効かせ方」で変わる
鍼治療の効果は、「どこを、どう刺激するか」「どのくらい続けるか」によって作用経路や効果の強さが変わることが示されています。
次のような設定が、多くの研究で効果的だった共通パターンとして見出されています。
- ツボ選択:天枢穴・足三里穴・中脘穴・三陰交穴などを、病態に応じて組み合わせる
- 刺激条件:10〜30Hz/0.5〜3mA/20〜30分
- 施術頻度:週2〜3回を8週間以上
個々の状態に応じた“カスタムメイドな施術設計”が、鍼治療の効果を最大限に引き出すカギとなります。
鍼治療を受けるときに知っておきたい注意点と今後の展望
鍼治療は比較的安全で、副作用の報告も少ない方法です。ただし、IBSやFDなど主観的な評価が中心となる疾患では、プラセボ効果が大きな影響を及ぼすこともあるため、効果判定には注意が必要です。
今後は、自律神経活動や炎症マーカー、消化管ホルモンなどの客観的指標を取り入れた臨床試験が進むことによる、信頼性の高いエビデンスの構築が期待されます。
まとめ──補完療法としての選択肢を冷静に考える
鍼治療は、消化管運動障害に対し、自律神経の調整、炎症の制御、ホルモン分泌の調整など多角的に作用することが研究で示されてきました。とくに、薬だけでは改善しづらい過敏性腸症候群や慢性便秘に対して、比較的副作用が少なく継続しやすい補完療法としての活用が期待されています。
症状が長引いている方や、薬の効果に限界を感じている方は、医師や鍼灸師と相談のうえ、ご自身に合った治療法の一つとして検討されることをおすすめします。
【参考文献】
Yang NN, Xie XX, Yan WL, Liu YD, Wang HX, Yang LX, Liu CZ. The Autonomic Nervous System in Acupuncture for Gastrointestinal Dysmotility: From Anatomical Insights to Clinical Medicine. Int J Med Sci. 2025 May 20;22(11):2620-2636.

予約
059-256-5110
営業電話は固くお断りします
月~金 9時ー21時
土 9時ー15時
日曜休業・祝祭日不定休
ウェブ予約
予約ページは新しいタブで開きます
免責事項にご同意のうえ、ご予約ください
同業者(療術業を含む)の予約はお受けできかねます
免責事項
鍼による施術は痛みや出血を伴う場合があります。また、以下のような場合、施術による変化が現れにくかったり、症状の“もどり”が早かったり、施術期間が⻑期に及んだり、施術することをお断りしたりすることがあります。鍼にはネガティブな側⾯があり、万能でもないことをご承知おきください。
構造上の問題による痛み
重篤な疾患による痛み
強⼒なあるいは多種の薬剤服⽤
⾼齢・衰弱による⽣理機能の低下
取り除けない物理的刺激要因
各種⼼理的要因
アクセス
〒514-1105 三重県津市久居北口町15-7
近鉄久居駅より徒歩15分/伊勢自動車道久居ICより車で5分
駐車スペース常時2台分あり
※看板がありませんのでご注意ください

