病院で内視鏡検査を受けても「きれいですね」「異常はありません」と言われる。
それなのに、食後の胃もたれがつらい、少し食べただけですぐ満腹になる、あるいはみぞおちが痛む。
こうした状態は、機能性ディスペプシア(FD)と呼ばれることがあります。FDは、胃・十二指腸あたりの慢性的な症状があるにもかかわらず、全身疾患・器質疾患・代謝性疾患が見つからない状態として定義されます。
またFDは主症状により、食後愁訴症候群(PDS:食後のもたれ、早期満腹感)と心窩部痛症候群(EPS:みぞおちの痛み、焼けるような感じ)との2タイプに分けられます。
鍼灸は、消化器の症状に対して古くから用いられている代替療法のひとつです。しかし、これまでの研究が、単一の鍼の手法と従来薬の比較に留まりがちだったため、「どの症状」に対して「どの手法(鍼のみとか、電気針とか、お灸とか)」が最適であるかという明確な指針はありませんでした。※一部の流派が、「我らの手法こそ最適である」と、根拠のない主張をすることは“ものすごく”一般的です
この問いに答えるべく、Liaoらは2024年に、FDの症状ごとに複数の手法や併用療法を比べることで、「望ましい結果が出やすいランキング(順位確率)」を示しました。
今回は、Liaoらによる「ランキング」を、分かりやすく紹介します。
◆ 順位確率について
本研究では、複数の臨床試験のデータを統合したうえで、コンピュータで何万回ものシミュレーション(試算)をくり返し、治療法ごとの効果を数学的に推定しています。そして、シミュレーションの1回ごとに「どの治療が1位か(よい結果が出やすいか)」を判定し、1位になった回数を数えて割合にしたものが「順位確率」です。つまり、ここから紹介する「ランキング1位」は、シミュレーションの中で1位になった割合が最も高かった治療法という意味です。
なお、「順位確率」という言葉は、今回の記事を書くための“翻訳語”であり、日本の一般的な統計学用語ではありません。論文では rank probability と表記されています。
FDの症状別治療法ランキング
この研究は、FDに対するランダム化比較試験(RCT)を集め、合計34試験・2950人のデータを解析しています。そして主要な症状として、早期満腹感・食後のもたれ(食後膨満感)・上腹部(みぞおち)痛・灼熱感を扱い、加えて副次項目として胃腸の運動を亢進するホルモンであるモチリンも評価しています。
ここでは、論文に示された「ランキングトップ3」を、症状ごとに見ていきます。
食後愁訴症候群(PDS)
PDSの症状である「早期満腹感」も「食後のもたれ」も、1位は“通常西洋薬+手技鍼”でした。

研究内では、早期満腹感の解析に16試験・1193人・11介入(治療法の種類)が用いられています。また、食後のもたれに関しては、24試験・2021人・13介入(治療法の種類)という、より大きなデータで比較されています。
心窩部痛症候群(EPS)
EPSでは症状によって異なる結果となりました。

上腹部(みぞおち)の痛みに対しては、“手技鍼+灸”の組み合わせが1位となりました。この解析は23試験・2006人・11介入(治療法の種類)で評価されています。一方、灼熱感では、“手技鍼”が1位となりました。こちらの解析は、13試験・1064人・8介入(治療法の種類)で評価されています。
同じEPSでも、「痛み」と「灼熱感」とでトップが違うところが、今回の研究の興味深い点と言えます。
モチリン
この研究では、症状スコアに加えてモチリンを副次項目として扱っています。モチリンは症状ではなく、胃腸の動きと関連して研究される指標の一つとして、血中レベルなどが評価されます(この研究では“motilin levels”として評価)。

解析の結果、“温鍼”が1位となりました。
モチリンの解析は、16試験・1618人・10介入(治療法の種類)で行われています。症状ランキングとは別軸で、「体内指標」のランキングが提示されているのも、この論文の特徴と言えます。
鍼灸の安全性について
Liaoらはランキングとは別に、鍼灸の安全性についてもまとめています。
多くの研究が有害事象を詳細に報告していなかった一方で、報告があったものは皮下出血、局所の腫れや痛み、頭痛、軽い口渇など比較的軽微な内容でした。また、重篤な有害事象は起こりませんでした。
そして、鍼は侵襲を伴うため、適切な訓練・滅菌・安全手順が重要であるとも明記されています。
まとめ
Liao らの研究は、FDに対する鍼灸を「効く/効かない」で終わらせず、症状ごとに「どの方法が良い結果をもたらしやすいか」のランキングを示した点が特徴です。「早期満腹感」「食後のもたれ」では 薬+手技鍼が1位となり、「みぞおちの痛み」では 手技鍼+お灸、「灼熱感(焼ける感じ)」では手技鍼が1位となりました。
FDは単一要因ではなく、内臓知覚の過敏、運動障害、粘膜透過性、腸管神経・自律神経の乱れなど、複数の要因が関係し得ると、論文では述べられています。また、鍼灸の作用についても、胃腸運動や胃排出に関わる、あるいは感覚の伝わり方や神経活動に関わるといったことが示唆されています。
症状によって“上位に来る方法が入れ替わる”という結果は、FDの性質をよく表していると言えます。この研究の成果は、鍼灸師が施術法を選択する際の指針となり得るかもしれません。
とはいえ、どんな研究にも“限界”があります。今回の解析の対象となった研究には、研究が行われた地域の偏りや、治療プロトコル(使用するツボ、治療期間、頻度、患者の条件)のばらつきがあります。さらに、研究の世界では、良い結果が出たものほど発表されやすいという偏り(公開バイアス)が起こることがあります。そのため、「ランキング1位=誰にでも必ず効く」と断定することはできません。
また、論文内で使用された西洋薬に、日本においてFDの治療薬として処方されているアコチアミド(アコファイド) が含まれていないことにも注意が必要です。日本で同じ検証を行うと、“薬+鍼”の順位が変動する可能性もあり得ます。
それでも、このランキングは、たくさんの研究結果をまとめたときに、良い結果につながりやすい順を見える形にしてくれています。日本にける承認薬が解析に含まれていないとしても、「薬物療法と鍼治療の併用がランキング上位に来やすい」という参考になります。
じねん堂では、医療機関での診断や治療を土台にしながら、鍼灸にできることを考えています。ランキング上位に入った方法も考慮しつつ、中国以外の文献や四半世紀の臨床経験を基に、あなたの症状に合わせて施術を組み立てていきます。
食後のもたれや早期満腹感、みぞおちの痛みなどにお悩みでしたら、一度ご相談ください。
【参考文献】
Liao X, Tian Y, Zhang Y, Bian Z, Wang P, Li P, Fang J, Shao X. Acupuncture for functional dyspepsia: Bayesian meta-analysis. Complement Ther Med. 2024 Jun;82:103051.

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