「検査をしても異常がないのに、お腹が痛い」
「緊張するとすぐにトイレに行きたくなる」
このような症状でお悩みなら、それは「過敏性腸症候群(IBS)」かもしれません。
IBSは、腹痛や便通異常が続く一方で、内視鏡検査などで明らかな炎症や形の異常が見つからないことも多い病態です。そのため近年は、腸と脳が互いに影響し合う仕組みである「脳腸相関」の乱れが中心にあると考えられています。
この疾患は世界的に見ても一般的なものですが、特に女性は男性に比べて1.5倍~3倍も発症しやすいとされています。また女性:男性はおよそ2:1とも言われています。
じねん堂へも、こうした「お腹の不調」を抱える女性の方が来院されます。症状が続くのに「気のせい」「精神的なもの」と受け止められてしまい、納得できるケアにたどり着けず困っている方も少なくありません。
今回は、本稿では、2025年に発表されたレビュー論文『Irritable Bowel Syndrome: A Hallmark of Psychological Distress in Women?(Marano et al., 2025)』をもとに、女性にIBSが多い背景と、非薬物の選択肢として言及されている治療法について紹介します。
なぜ女性に「お腹の不調」が多いのか?
最新の研究では、IBSは単なる消化器の病気ではなく、脳と腸が密接に関係する「脳腸相関」のトラブルであることが強調されています。ここで言う脳腸相関とは、脳と腸とが自律神経などの神経系、ホルモンの反応、免疫の反応などを介して情報をやり取りすることで、腸の動きや痛みの感じ方、ストレス反応が相互に影響し合う状態を指します。脳がストレスを感じると腸が反応し、腸の不調が続くことで脳の不安が強まることもあります。こうした相互作用が重なることで、症状が長引く悪循環が生じます。
IBSの患者では、腸のわずかな刺激が強い痛みとして脳に伝わってしまいがちな「内臓知覚過敏」が関与すると考えられています。脳腸相関の乱れが続くと、脳側の痛みの処理が過敏になる傾向があり、その結果、腸への刺激が痛みや不快感として強く意識されるようになるのです。
また、脳腸相関に関わる要素として腸内細菌叢(腸内フローラ)も注目されています。腸内環境の変化が腸の働きやストレス反応と影響し合い、症状の変動に関係する可能性が示されています。
特に女性の場合、この脳と腸の対話に「ホルモン変動」が深く関わります。月経周期や閉経に伴うエストロゲンやプロゲステロンの変動は、腸の動きや痛みの感じやすさに影響すると考えられており、症状が月経周期に合わせて強くなったり弱くなったりする方がいるのは、この現象で説明がつきます。
さらに、女性は社会的役割や環境要因からストレスを内面に溜め込みやすい傾向があると報告されています。こうした負担が不安や抑うつといった精神的苦痛にまで進むと、IBSの症状悪化につながる可能性があると指摘されています。
加えて、一部の患者では免疫の活性化や自己抗体の関与が示唆されており、IBSが単一の要因だけで説明しにくいことも述べられています。
鍼治療の作用はどのように捉えられているか
IBS治療の中心は、薬物療法や食事療法です。一方、レビューでは、従来治療の限界や患者さんのニーズを踏まえ、補完代替医療への関心が高まっていることも述べられています。
補完代替医療は、エビデンスの質や研究の蓄積に限界がある点から、今後も検証が続く領域として位置づけられていますが、その中の選択肢の一部として、鍼治療や漢方などの東洋医学も取り上げられています。
レビューでは、鍼刺激の作用として「痛み信号」「グリア細胞」「ストレス反応(HPA軸)」に関する3点が挙げられています。
- 過剰な痛み信号を抑える
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IBSでは、腸からの刺激を脳が痛みとして受け取りやすい状態になっています。レビューによれば、鍼刺激は脳や脊髄における痛み信号の過剰な興奮を抑える働きをする可能性があると示されています。痛みが強いほど不安が増し、不安が増すほど痛みが気になるという連鎖に対して、鍼は「痛みの経路」という角度から介入し得るわけです。
- 痛みの感じ方に影響する
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痛みは刺激の強さだけで決まりません。脳がどのように処理するかによって、つらさは大きく変わります。レビューでは、鍼刺激がグリア細胞に作用し、内臓知覚過敏に伴う痛みの知覚や認知に影響することが示唆されています。ここで言う認知は、痛みをどれほど不快に感じるか、どれほど注意が向いてしまうかといった側面も含みます。レビューでは、鍼刺激がこうした過程に関与し得ると論じられています。
- ストレス反応に関与する
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ストレスがかかると、視床下部・下垂体・副腎系(HPA軸)を中心としたホルモンの反応が起きます。IBSにおいて、このストレス反応が症状の増悪と関わる可能性が示唆されています。
レビューでは、鍼刺激が脳の関連領域を介して、HPA軸関連ホルモンや神経伝達物質に影響し、情動面に関与する枠組みが示されています。端的に申せば、「鍼がストレス反応を緩和する可能性がある」ということです。ストレスが強い時期に症状が揺れやすい方にとって、重要な観点と言えます。
心と体の“両面”を見据えたケアへ(統合的アプローチ)
レビューには、IBSの管理において、腹痛や便通異常といった消化器症状だけに囚われない視点が重要だと述べられています。ストレス反応や心理的負担、生活リズムの乱れが症状に関与する場合もあり、「脳腸相関」のトラブルによる悪循環に目を向けることも、改善の手がかりとなるのです。
また、レビューでは、食事療法、運動療法、心理療法に加えて、補完代替医療も含めた多角的な選択肢についても論じられています。食事面では低FODMAP食が代表的な選択肢として挙げられています。運動については、腸内環境や気分面との関連も含めて言及されています。心理療法では、認知行動療法(CBT)や腸管指向性の催眠療法(gut-directed hypnotherapy)が取り上げられています。加えて、迷走神経への刺激など、神経の働きに着目した治療法についても研究が進められています。
鍼治療は、こうした非薬物療法の選択肢の一つとして位置づけられています。薬物療法や食事療法などの標準的な対応を基本にしながら、個々の状況に応じて鍼治療が検討されるというわけです。
じねん堂では、まず医療機関での診断・評価を前提に、必要に応じて医療と並行しながら、鍼治療を含むケアを提案しています。症状だけでなく、月経周期や更年期の影響、睡眠、ストレス負荷、生活リズムも含めた状況を丁寧なカウンセリングで把握し、鍼のどの手法が適しているのか、併せて行うケアの候補は何かを検討します。IBSあるいはIBSと思しき症状が気になる方は、現状を言葉にするところからでも構いませんので、ぜひ一度ご相談ください。
【参考文献】
Marano G, Traversi G, Pola R, Gasbarrini A, Gaetani E, Mazza M. Irritable Bowel Syndrome: A Hallmark of Psychological Distress in Women? Life (Basel). 2025 Feb 11;15(2):277.

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