論文でわかった!鍼灸が不妊治療に与える影響とそのメカニズム

「鍼灸で妊娠率が上がる」その理由は?
 この記事では、最新の医学論文をもとに、鍼灸が不妊治療に与える影響とそのメカニズムを紐解いていきます。不妊治療に取り組む中で、「できることはすべてやっておきたい」「納得のいく治療を選びたい」と願う方に向けて、エビデンスに基づいた視点から鍼灸の可能性をお伝えできればと存じます。

【研究デザインの種類とその意味】
■ ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)
「ランダム化比較試験」とは、ある治療法(たとえば鍼灸)が本当に効果があるかを調べるために、参加者を無作為(ランダム)に2つ以上のグループに分けて比較する方法です。一方は鍼灸を受け、もう一方は偽の治療(または標準治療)を受けます。このようにして、思い込みや個人差の影響を最小限にし、公平に効果を測ることができます。
■ システマティックレビュー(Systematic Review)
「システマティックレビュー」は、すでに行われた多数の研究を集めて、一定の基準に従って厳密に評価・分析し、全体としてどんな結論が導けるかを検討する研究手法です。信頼できる研究だけを選んで統合するため、個別の研究よりも全体像を把握するのに適しています。
■ メタアナリシス(Meta-Analysis)
「メタアナリシス」は、システマティックレビューの一種で、複数の研究結果を統計的にまとめて「どれくらい効果があるか」を数値で示す分析手法です。たとえば、「妊娠率が何%高くなるか」といった具体的な効果の大きさ(効果量)を明らかにできます。

三重県津市の鍼灸院「じねん堂はり灸治療院」では、不妊に対する鍼灸施術について【こちらのページ】で詳しくご案内しています。

目次

なぜ「鍼灸」に注目が集まっているのか

 体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)といった高度生殖医療が普及した現在においても、なかなか結果に結びつかないことに悩む方は少なくありません。そんな中、「鍼灸を併用したところ採卵数が増えた」「移植の判定が陽性になった」という声がSNSや口コミで広がりつつあります。とはいえ、SNSの口コミだけでは、「怪しげな東洋の民間療法」に身体を預けることに躊躇してしまうのも無理のないことです。しかし、こうした体験談の裏づけとなる“科学的メカニズム”が明らかになってきたと知ればどうでしょう。
「単なる民間療法」ではなく「信頼できる補完医療」としての価値を見出すことができるはずです。
 まずは5つの視点から、鍼灸が妊娠率にどう関わるのかを読み解いていきます。

鍼灸による血流改善(骨盤内・卵巣)

 不妊治療において、卵巣や子宮への血流は非常に重要です。十分な血流があることで、卵胞の成長や子宮内膜の厚さ、ホルモンの循環など、妊娠に関わる多くのプロセスが最適化されます。
 複数の研究で、鍼灸が骨盤内の血流を改善することが示されています。たとえば、Dieterleら(2006)のランダム化比較試験では、胚移植の前に鍼治療を受けたグループで妊娠率が向上し、特に子宮動脈の血流抵抗指数(PI)が有意に低下したと報告されています。この変化は、血流の改善を意味し、胚が着床しやすい環境を整えると考えられます。
 また、卵巣への血流改善も注目されています。卵巣は毛細血管が密集する部位であり、血流の状態は卵子の質や排卵のタイミングに大きく影響します。鍼灸刺激は交感神経活動を抑制し、血管拡張を促すことで、卵巣周囲の血流を改善するとされています。

自律神経とホルモンバランスへの調整作用

 妊活中の多くの女性が悩むのが、ストレスによるホルモンバランスの乱れです。特に不妊治療を続けていると、精神的なプレッシャーや治療への不安が強くなり、自律神経のバランスが崩れやすくなります。
 鍼灸はこのような自律神経系へのアプローチでも注目されています。ストレス反応を調整する視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸の機能を整えることで、コルチゾール(ストレスホルモン)の過剰分泌を抑え、ホルモン全体のバランスを整える可能性があります。
 たとえば、Paulusら(2002)の研究では、胚移植の当日に鍼治療を受けたグループで、受精卵の着床率が高くなったことが報告されています。この研究はホルモン数値の直接測定までは行っていませんが、自律神経の安定が間接的にホルモン分泌や子宮の反応性に良い影響を及ぼすことが示唆されています。さらに、黄体形成ホルモン(LH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)のバランスを整える可能性も、動物実験などで報告されています。これにより、月経周期の安定や排卵の改善が期待されます。

着床環境(子宮内膜)への影響

 受精卵が無事に着床するためには、子宮内膜の状態が重要です。厚みだけでなく、内膜の血流、受容体の状態、免疫環境など、複数の要素が関わっています。
 鍼灸は、子宮内膜の血流を改善することで、より受精卵が着床しやすい環境を作るとされています。実際に、Zhongら(2019)のシステマティックレビューでは、鍼灸治療によって子宮内膜の厚さが有意に増加し、受精卵の着床に適した環境が整う可能性があると報告されています。
 また、子宮内膜には「受容期」と呼ばれる、受精卵が着床しやすい期間が存在します。この時期に内膜の状態が最適化されていることが重要であり、鍼灸がこの受容期の質を高める可能性も考えられています。Zhengら(2022)のメタアナリシスでは、鍼灸治療が子宮内膜の厚みの改善に加え、LIF(白血病抑制因子)など受容性に関わる分子マーカーの発現にも影響を与えることが示されており、鍼灸が着床に適した子宮環境を整える一助となる可能性があると報告されています。

免疫系・炎症制御への作用

 不妊の背景には、免疫系の過剰反応や炎症の慢性化が関与していることがあります。とくに子宮内膜の免疫寛容(外部からの胚を“排除しない”状態)がうまく働かないと、着床が阻害されるリスクが高まります。
 鍼灸には、こうした免疫応答を穏やかに調整する作用があるとする研究があります。Xuら(2022)の報告によれば、鍼灸はT細胞のバランス(Th1/Th2、Treg細胞の活性)や、自然免疫に関わるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)の活動性を調整する可能性があり、これによって子宮内の炎症や免疫拒絶反応を緩和できると考えられています。また、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6など)を抑制し、子宮内膜の環境を安定化させることで、胚の着床に有利な状態を作る可能性も示唆されています。
 これらの作用は、単に「血流が良くなる」といった生理的な変化にとどまらず、より複雑な免疫・内分泌系への働きかけとして注目されています。

鍼灸による神経・ホルモン系への作用

 鍼灸の刺激は、脳の視床下部や下垂体を介して内分泌系に影響を与えることが示されています。Eshkevariら(2013)の動物実験では、冷ストレスによって活性化するHPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)の反応が、鍼刺激によって抑制されることが明らかにされており、ストレス性ホルモンであるコルチゾールの上昇が防がれる可能性が指摘されています。
 また、Liら(2022)の研究では、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)モデルラットに電気鍼を施したところ、視床下部における神経ペプチドY(NPY)およびグレリンの発現が調節され、内分泌の恒常性維持に寄与したことが示されています。これらの結果は、鍼灸が神経・内分泌系を通じて卵巣機能やホルモン環境を調整する可能性を示唆しています。
 とくに不妊治療中の女性においては、黄体形成ホルモン(LH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌バランスが重要であり、鍼灸がこれらのホルモン動態を調整することで、卵胞の発育や排卵のタイミングが整うと考えられています。

鍼灸に対する世界的な研究動向とガイドラインの動き

 鍼灸と生殖医療の関係については、近年世界各国の研究機関で注目が集まっており、多くのランダム化比較試験(RCT)や系統的レビュー、メタアナリシスが発表されています。特に、アメリカ生殖医学会(ASRM)やヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)では、補完医療としての鍼灸の立ち位置について議論が進められてきました。
 ASRMのガイドラインでは、鍼灸が胚移植前の緊張緩和に役立つ可能性や、血流改善・ストレス軽減を通じた間接的なサポートがあることが認められつつあります。一方で、研究の質のばらつきや症例数の限界を指摘する声も根強く、「積極的に推奨はしないが、選択肢として否定はしない」という慎重な立場がとられています。
 これは裏を返せば、「信頼性あるエビデンスが蓄積されれば、ガイドライン上の推奨も変化しうる段階」にあることを示しており、今後の研究展開に期待がかかっています。

鍼灸を受ける際の注意点

 鍼灸は多くの可能性を秘めていますが、すべての人に万能なわけではありません。特に体外受精など、繊細なホルモンバランスとスケジューリングの上に成り立つ治療においては、「いつ」「どのような刺激を」「どの部位に」与えるかが非常に重要です。
 最近の研究(Wang et al., 2024)では、鍼灸の施術回数やタイミングによって妊娠率に差が生じることが示されています。具体的には、「移植当日の単発施術」では有意な効果が認められなかった一方で、「採卵後〜胚移植前の期間に4〜9回施術を行ったグループ」では妊娠率の有意な向上が報告されました。逆に、1周期あたり10回を超える頻度で施術を行った場合には妊娠率が改善しなかったとされ、施術の“やりすぎ”が体への過度な刺激やストレスとして作用する可能性があることも示唆されています。「やれることは全部やらなきゃ」と焦るあまり、施術を詰め込みすぎてしまうケースでは、逆に体への負担が大きくなり、妊娠に向けた心身の準備が整わなくなることもあり得るのです。
 このため、鍼灸を取り入れる際は、施術者選びも重要な要素となります。不妊分野に詳しく、医学的知識と臨床経験を持った鍼灸師に相談することで、安全性と効果の両面での信頼性が高まるでしょう。

鍼灸がもたらす“心理的支え”としての意義

 不妊治療は、身体的な負担だけでなく精神的なストレスとの戦いでもあります。
「判定日までの時間がつらい」
「何度も陰性が続いて気持ちが折れそう」
 そうした声に触れるたびに、鍼灸が果たせるもう一つの役割に気づかされます。
 それは、心理的支えとしての役割です。
 実際に、鍼灸を継続して受けている患者の中には、「施術を受けると気持ちが落ち着く」「こころとからだが整う感覚がある」と語る方も少なくありません。このような“安心感”や“自分を整える時間”が、長期にわたる治療を前向きに続けるための土台となります。
 心理的側面への作用については、動物モデルにおける研究でも示唆されています。前出のEshkevariら(2013)の報告にあるように、鍼刺激は視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸の活性化を抑制し、ストレス反応を軽減する可能性があります。これは、ヒトにおいても鍼灸がストレス緩和に寄与する生理学的根拠を示すものであり、不妊治療における「こころのケア」の一助として期待されています。
 さらに、鍼灸院では「じっくり話を聞いてもらえる」「体調や気持ちの変化を丁寧に見守ってくれる」といった“対話の時間”が、患者にとって大きな癒しや安心感となることもあります。こうした実践的な支援については、質的研究や経験的な観察からの報告が主であるものの、患者の満足度向上や治療継続意欲の維持に寄与する重要な要素とされています。

さいごに

 メカニズムを知ることで、鍼灸は「なんとなく良さそう」から「選ぶべき治療法の一つ」へと変わります。科学的に裏付けられた効果を理解することは、治療への納得感や安心感にもつながります。少しでも妊娠の可能性を高めたいと願う方にとって、鍼灸は前向きな一歩となるかもしれません。 

【参考文献】
Dieterle S, Ying G, Hatzmann W, Neuer A. Effect of acupuncture on the outcome of in vitro fertilization and intracytoplasmic sperm injection: a randomized, prospective, controlled clinical study. Fertil Steril. 2006 May;85(5):1347-51.
Stener-Victorin E, Waldenström U, Andersson SA, Wikland M. Reduction of blood flow impedance in the uterine arteries of infertile women with electro-acupuncture. Hum Reprod. 1996 Jun;11(6):1314-7.
Paulus WE, Zhang M, Strehler E, El-Danasouri I, Sterzik K. Influence of acupuncture on the pregnancy rate in patients who undergo assisted reproduction therapy. Fertil Steril. 2002 Apr;77(4):721-4. doi: 10.1016/s0015-0282(01)03273-3.
Manni L, Lundeberg T, Holmäng A, Aloe L, Stener-Victorin E. Effect of electro-acupuncture on ovarian expression of alpha (1)- and beta (2)-adrenoceptors, and p75 neurotrophin receptors in rats with steroid-induced polycystic ovaries. Reprod Biol Endocrinol. 2005 Jun 7;3:21.
Zhong Y, Zeng F, Liu W, Ma J, Guan Y, Song Y. Acupuncture in improving endometrial receptivity: a systematic review and meta-analysis. BMC Complement Altern Med. 2019 Mar 13;19(1):61.
Zheng X, Yu S, Liu L, Yang H, Wang F, Yang H, Lv X, Yang J. The Dose-Related Efficacy of Acupuncture on Endometrial Receptivity in Infertile Women: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Public Health. 2022 Apr 28;10:858587.
Xu JY, Zhao AL, Xin P, Geng JZ, Wang BJ, Xia T. Acupuncture for Female Infertility: Discussion on Action Mechanism and Application. Evid Based Complement Alternat Med. 2022 Jul 4;2022:3854117.
Wang X, Xu HM, Wang QL, Zhu XY, Zeng YM, Huang L, Feng X, Chen S. The Timing and Dose Effect of Acupuncture on Pregnancy Outcomes for Infertile Women Undergoing In Vitro Fertilization and Embryo Transfer: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Integr Complement Med. 2024 Nov;30(11):1031-1046. doi: 10.1089/jicm.2023.0478. Epub 2024 May 29.
Eshkevari L, Permaul E, Mulroney SE. Acupuncture blocks cold stress-induced increases in the hypothalamus-pituitary-adrenal axis in the rat. J Endocrinol. 2013 Mar 15;217(1):95-104.


費用

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