新聞記事や研究・論文を引用して自院を宣伝する鍼灸院が散見されます。
- 鍼灸の有効性が証明されました。
- 鍼灸の効果がマスコミで取り上げられました。
- 鍼灸はこんなに効くのです。
あなたはその宣伝を受けて、「新聞に載ったり論文があったりするくらいだから、きっと自分の症状には鍼灸が効くのだろう。この鍼灸院で治療をしてもらおう!」と、判断するかもしれません。
しかし、それは早計ではないですか?
その鍼灸院で行われる手法は研究で使われている手法と同じものなのでしょうか。
研究で行われている手法が「現代医学的な見地から、一定のポイントに太い鍼を深く刺して刺激を行う方法」であるにもかかわらず、そこの鍼灸院の施術法が「痛くない鍼と熱くないお灸で行う東洋医学的な鍼灸」のみだとしたら、研究にあるような効果は望むべくもないでしょう。
もしあなたの掛ろうとしている鍼灸院が、新聞記事や他者の論文を引用して鍼灸の効果を謳っているのであれば、
この研究と同じ治療をしているのですか?
と、聞いてみる必要があるかもしれません。
場合によっては、
全く同じではありませんが、これに準じたことを行っています。
このような答えが返ってくるかもしれません。そのようなときは、“準じた方法” がどのようなものなのか聞き、あとは論文を手に入れたり、論文の著者の所属する施術所や養成機関・研究施設のホームページなどから研究で使われた手法を調べたりして、件の鍼灸院の言う “準じた方法” がどの程度研究の内容に近いのか判断してください。
なかなか一般の方にはなかなかわかりにくいとは思いますが、鍼灸院はどこでも同じというわけではないのです。病院で受ける医療のように、標準的な方法というものが存在しない世界なのです。
ですから、鍼灸院のホームページや広告に書かれていることを鵜呑みにしないで、内容の裏付けを取るという行為を心掛けなければなりません。
自分のことは自分で守るという気概。
面倒であり、残念でもありますが、鍼灸院を選ぶ際に備えておいていただきたく存じます。
【実例】
愛知の明生鍼灸院と竹内病院トヨタ不妊センターとの共同研究である「子宮内膜形状不良患者に高度生殖医療と鍼灸治療を併用した57症例」では、ホルモン剤を併用しても子宮内膜が厚くならない方に対して鍼灸を併用した結果、約6割に子宮内膜の改善がみられ、改善例のうち約5割が妊娠に至った報告されています。
この研究で用いられた鍼灸の手法は中リョウ穴施鍼といって、骨盤の仙骨部分にある中リョウというツボから鍼を深く刺して骨の表面にある結合組織の中に入れ、手動でバイブレーションを加えるというものです。刺激としてはかなり強い手法です。
研究の概要が新聞記事にもなっているため、単に研究を引用するだけでなく、件の新聞記事のコピーをホームページに張り付けて、「不妊に鍼灸は有効」と宣伝する鍼灸院が実際にあるのですが、その鍼灸院が中リョウ穴施鍼を行っているかどうかは分かりません。
研究で効果が確認されたのは、あくまでも「骨盤の仙骨部分にある中リョウというツボから鍼を深く刺して骨の表面にある結合組織の中に入れ、手動でバイブレーションを加える方法」です。同じツボを使って、“準じた方法” と主張しても、必要な刺激をしていなかった(浅い鍼・低周波を流す)場合、研究と同じ効果の得られる可能性は極めて低いと言えます。