妊娠初期の脉について思うこと②

 ここのところいわゆる妊娠脉、特に妊娠成立直後の脉の変化を捉えるために、不妊症や妊娠中の患者の脈を細かく診るようにしています。
 とはいえ、いくら細かく診るといったところで、ただただじっくり診るだけでは効率が悪すぎます。ですから妊娠初期に現れると言われているいくつかの特徴(妊娠脉)に絞って確認しています。ここは先人に感謝です。

 いわゆる妊娠脉の特徴には以下のものがあります。

数(さく)になる

 数(さく)とは、簡単に言えば脈が速くうっている状態です。通常70前後の脈拍数が、80程度まで増えるそうです。
 正味な話、これは妊娠初期に特異的な状態では無いです。高温期ならだれでも“数”なのですから。妊娠の初期は高温期が延長されている状態です。それは脈も速くなっていて当然です。
 私の狙いは妊娠成立直後の脉の変化をとらえることですから、これは当てになりません。排卵が起きた時点で妊娠と判断してしまうようなものです。

神門穴で脉をふれるようになる

 我々が脉診を行うときは、橈骨動脈という手首の親指側にある動脈を診ます。神門というツボは、それと反対側。手首のシワの最も小指側に位置します。ここで脉がふれるようになると言うのです。
 ところが、ここで脉をふれる事はそれほど特別なことではなさそうです。現に神門穴の部位で脉が触れたが妊娠には至っていなかった例を経験しましたし、わたし自身の神門穴でも脉を触れることができます。ただ、「普段よりもはっきりと触れるようになる」というのであれば、まだ検討の余地はありそうです。

寸関尺よりも長く伸びて脉が触れるようになる

 我々は人差し指、中指、薬指の3本の指で脉を診ます。人差し指を当てる部位を寸口、中指を当てる部位を関上、薬指を当てる部位を尺中と呼びます。手首から肘に向かうにつれて橈骨動脈の位置が深くなっていきますので、尺中よりも肘側ではなかなか脉が触れにくくなるのですが、これがはっきりと触れるようになるのだそうです。
 しかしこの “はっきり” というのが曲者で、いざ診てみると結構はっきり触れる方もいらっしゃるのです。神門穴の場合と同じような診方をせねばならないのかもしれません。これだと初検で見分けるのは無理ということになります。

右尺中、命門の脉が沈んで力強くなる

 右尺中というのは患者様の右手で、施術者の薬指が当たる部位のこと。生命力の強さを推しはかる部位だと考えられています。そこの脉が定位置よりも深くなり、力強く感じるようになるのだそうです。
 この変化はまだ未経験です。しかし、妊娠前から定位置よりの深いところに命門の脉がある人もいるのではないでしょうか。これも初検で見分けることは困難でしょう。

滑(かつ)になる

 指に触れる脉の形状を表したいくつかの表現の中の一つで、「玉が転がるような感じ」とか、「円滑で流れるよう」と言われています。悪阻の治療のために通っていらっしゃる患者様の脈は確かにこれでした。脉を診ている指一本一本に「ポルポルポル……」と当たる感じ。押さえると触れなくなるといったこともどこかで聞きましたが、そういう感じでは無かったです。
 とはいえ、妊娠していなくても「滑脉」の人は沢山います。病気でなくても滑脉になりますし、食べ過ぎや消化の悪いものを食べたことによる消化不良(消化する能力は正常)でも滑脉を呈すとされています。

 いかがでしょうか。
 一種類の脈を触れただけで「すわ、妊娠だ!」と断定するのはなかなか難しいことでと思いませんか?
 私には、幾つもの条件がひとそろえになって「お。妊娠しているのかな?」と、考える程度のものに思えます。普段から脉を診ている鍼灸師でも「なんだこれ?」となる位なので、患者が自分で脉を診て、その結果に一喜一憂して振り回される事だけは避けたいと感じています。
 施術者の勉学と自己満足と、あわよくば施術成績を向上させるために、妊娠脉の脉診は使うものなのです。

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