数字から紐解く、不妊の原因が冷えではない事実

 前回は「冷えが不妊の原因」と主張する施術者たちが使っているトンデモ理論を紹介し、解剖学的な見地からそれを否定しました。今回は医学文献等からデータを引用し、冷えと不妊の関係についてお示しできればと思います。

 さて、後山(2005)によると、女性3,124人(産婦人科外来受診女性、15歳以上)への調査の結果、冷えの自覚があったのは全体の52.0%だったそうです。文献から引用し作成した図から推察すると、不妊治療を受ける年代が含まれる25~44歳では25%弱と読み取れます。

産婦人科外来女性における冷えの自覚の比率(後山(2005)を基に作成)

 一方、不妊に悩むカップルが5組に1組と言われていることと、女性に原因のある不妊が全体の約70%であることから考えて、不妊女性の割合は、パートナーがいて妊娠を望んでいる女性全体の14%程度と考えられます

WHOの報告(1992)の図から作成

 この倍近い差はどこから生まれるのでしょうか?

 もっとも単純に解釈すれば、不妊の原因が冷えではないからでしょう。

 卵管の癒着や染色体異常、子宮の奇形など、明らかに冷え以外の原因が分かっている不妊もありますし、冷えの自覚は無いけれど原因不明の不妊である女性も存在するのですから。冷えが不妊の原因というのであれば、不妊女性の割合がもっと高くなっていてもおかしくないです。

株式会社リンナイが首都圏の20代~40代の男女計400名を対象に行った調査によると、女性の約80%に冷えの自覚があったそうです。「冬場の冷えと暖房事情」に関する意識調査(2017)


 ここまでで何となく、不妊の原因を冷えと断じることの怪しさをお分かりいただけたかと存じます。とはいえ、不妊患者の多くが冷えで悩んでいるということもまた事実です。じねん堂で不妊に対する鍼灸を受けていただいている方の約90%に冷えの自覚があります。
 となるとやはり、冷えが不妊の原因……とは、なりません。
 なぜなら、そもそも冷えは原因では無くて結果だからです。様々な要因によって組織血流量の低下とか、循環動態の悪化と言われる状態が複合的に働き、冷えの状態を形作るとされています。
 不妊の原因である冷えにも原因があるというのです。これが、冷えと不妊との関係を紐解く大きなヒントになります。 

 それは、冷えの原因と不妊の原因に共通したものがあるということ。

 冷えは不妊の原因ではないですが、並行して存在する“無視できない”問題のひとつとして、改善に取り組む必要があるとじねん堂は考えています。これに関してはまた次回、お示しできればと存じます。

【参考】
後山尚久: 冷え症の病態の臨床的解析と対応―冷え症は いかなる病態か,そして治療できるのか. 医学の歩み, 2005: 215(11): 925-929

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