陰謀論自体は嫌いでないXファイル世代の鍼灸師、西出隆彦です。
さて、先日私は次のようなニュースを好意的に紹介しました。
日本産科婦人科学会が、望んでも妊娠できない期間が2年としていた不妊症の定義を「1年」に短縮する方針を決めた。
しかし、好意的にとらえていない者も一定数存在するようで、「不妊症患者を増やすつもりか」とか、「考えることは金儲けだけ!」とか、「医師会の陰謀だ」などのコメントがニュースサイト上に散見され、それを支持するサインも見受けられました。
いくら私が陰謀論を嫌いでないとはいえ、これらは例外としたいところです。
病院での医療による介入が無くては妊娠が不可能なカップルを、早い段階でスクリーニングすることのどこが金儲けなのでしょうか。妊娠を望むならいずれは受けなければならない検査と治療です。自然妊娠にチャレンジする期間をいくら伸ばしたところで、妊娠には至らないのですから。
あるいはこれまでなら2年間、効果の望めないサプリメントやら整体やらカイロやら鍼灸やらにお金を払い(批判されるべき金儲け主義はこちらでは?)、時間を浪費し、卵子のストックを減らし続けていたところが、お金も、時間も、卵子のストックも半分の浪費で済むようになるのです。
患者には益しかない。
病院での医療による介入が必要かもしれないしそうではないかもしれないけれど妊娠しにくいことは間違いないカップルの場合も同様です。各種検査を行い、例えば排卵誘発を行ったり、正確なタイミングを計ったりするところから始め、治療をステップアップしていくことになります。(私が知る範囲では)各種検査と排卵誘発の注射は数千円まで、タイミング法も1万円以内の負担金で行うことができます。
介入の少ない方法で一定期間妊娠を試み、効果が無ければ次の段階に進むわけですから、治療全体を通していくらかの期間が必要となります。やはり、検査を受けるのは早いに越したことがないと言えます。さらに付け加えるなら、徐々に治療をステップアップしていくということは、必要最少限の治療で妊娠することができるとも言えるのです。これも益が多い。
どうも金儲けだの陰謀だの発言している方は、不妊症と診断されれば即、高度生殖医療を受けなければならないと思っているのではないかと感じます。実際にはその前段階で妊娠に至ることも多いですから、これは明確に誤認であると言えます。
また、検査のタイミングを2年から1年に早めることで不妊症患者が増えるということはあり得ません。
ドイツで20~44歳の女性346 名(平均年齢29歳)を対象に行われた研究によると、最長29周期の観察中に310名が妊娠し、妊娠した事例の88%が6カ月以内、98%が1年以内、全体で見ても1年以内に81%が妊娠したとのことでした。このデータを見る限りでは、2年も待つ必要はないように思えます。
加齢によって妊娠率の低下と流産率の上昇が起こるのは良く知られていることです。年齢が高くなるほど、1年の遅れが大きなものとなり得ます。むしろ検査のタイミングが遅くなればなるほど不妊症患者は増えると言えるでしょう。
無知による誤認は、偏見や差別を生みます。
そのことが、妊娠を望むカップルの不妊検査・治療の障壁となることだけは避けねばなりません。
