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不妊と鍼灸治療 ― 「40歳を超えても妊娠できるか」という質問に対する回答

 じねん堂は不妊症に対して鍼灸に期待できる効果を、自律神経の反射を介した血流の改善や、免疫に対する何らかの働きかけであると考えています。

 さて、いつだったか、ある施術所のホームページに

40歳を超えていても妊娠できますか?

昔の日本では、今の4倍以上も40歳以上の高齢出産が多かった
もともと人間のカラダにはそれだけの妊娠力が備わっている
だから諦めずに東洋医学で妊娠しやすい体質を取り戻しましょう!

といった旨の記述があったと、患者さんから伺いました。自分のことではないのだけれど、気になることがあるので本当なのかどうか知りたいのだとか。

 昔がいつの時代のことか分かりかねますし、“4倍以上” のデータの出どころも存じ上げないのですが、実際に「うち止めの留吉にしたのに、50前にもう一人できてしもてさ」などといった話を高齢の患者さんから聞いたことはあります。
 とはいえ、もし質問者が「初産」の年齢のことを言っているのなら、“昔の日本” の高齢出産件数を引き合いに出すのは適切ではないと感じました。

 それは、“昔の日本”が多産だったから。

 私(昭和50年生)の祖父母も7人とか5人の兄弟で、さらにその間に幼くして亡くなった者がいるとのことでした。働き手を確保する必要性と、乳幼児死亡率の高さ、そして避妊の知識の無さなどが多産につながっていたのだと思われます。
 ではなぜ、多産な時代と現在とを同列に比較できないのか。そしてもともと人間のカラダに備わっていたという妊娠力は取り戻すことができるのか。簡単ではありますが、私見も含めて論じていきたいと思います。

※施術者が自説を説くならば妊娠力ではなく妊孕性という言葉を使うべきかもしれませんが、元の発信者の意図(おそらく患者が読んだ時の分かりやすさ)を尊重し、このあとも方便として「妊娠力」を使用します

一般的に、高齢になると妊娠しにくくなる

 毎月1個の卵子を排卵するために、卵巣の中では数か月かけて数百~1千個の「卵のタマゴ」が参加するオーディションが行われます。A○B48のセンターを決めるようなものです。ただ、A○B48と違うのは、一生に一度きり。再エントリーできないオーディションであるということ。
 つまり、毎月1個の排卵に至るまでに、数百~1千個の「卵のタマゴ」が姿を消しているのです。
 しかも「卵のタマゴ」は無限ではありません。生殖可能な年齢になった時点で、お腹の中にストックされている「卵のタマゴ」は10万から数十万個と言われています。そこからは排卵を重ねる度に減っていくのみとなります。
 ストックが減ってくると、1回のオーディションに参加する個数も徐々に減っていくという現象が起きます。さらに、「卵のタマゴ」も母体と同じように年齢を重ねていくので、オーディション参加者の年齢も上がっていくのです。
 こうなると、オーディションの過程で振り落とされる人数も多いでしょうし、排卵までたどり着いたとしても妊娠する能力がない可能性が増えてきます。「売れる子」がなかなか出てこない。いわゆる卵子の質が落ちた状態になっていくのです。
 これが、高齢になると妊娠しにくくなる理由です。

多産だと高齢でも比較的妊娠しやすい

 オーディションが繰り返されると卵子のストックが減っていき、年月を経て質も落ち、妊娠しにくくなっていくわけですが、ある条件の下ではオーディションが中断されることが分かっています。

 それは妊娠です。

 妊娠している間は、排卵が起きません。出産後もしばらくは止まっています。するとその間、卵子のストックは減らずに済みます。したがって、妊娠の機会が多ければ多いほどオーディションの回数も少なく、「卵のタマゴ」のストックを減らさずに済み、オーディションへの参加者数を確保することができるのです。
 参加者自体の高齢化は避けれれないものの、参加者数が多ければ、「売れる子」が含まれている可能性も高くなります。
 だから多産だった“昔”は、高齢になるまで出産が続けられた(高齢でも妊娠しやすかった)と考えられます。1回目の妊娠のしやすさといった点でも、初産年齢が低い昔の方が有利と言えます。

妊娠力・妊娠しやすい体質は取り戻せるのか

 冒頭でも記しましたように、鍼灸では卵巣や子宮周りの血流を促したり、免疫系に何らかの働きかけが行われていると考えられています。採卵数や胚盤胞到達率、着床率が向上するという報告もあります。その状態を「妊娠しやすい体質」と呼ぶのであれば、鍼灸には不妊の体質を改善する力があると言えるかもしれません。妊娠しやすさを妊娠力と呼ぶのであれば、妊娠力も高まると言えるのでしょう。
 しかし、件の施術所の言う「もともと備わっていた妊娠力」というものが、昔の日本の高齢出産率のことを指しているのであれば、これから不妊鍼灸を受けようとしている妊娠経験のない40代の女性には取り戻せないものであると言えます。なぜなら、すでに排卵や排卵のオーディションの過程で消費してしまった「卵のタマゴ」を元に戻すことはできないからです。時間をさかのぼって妊娠することもできなければ、現在ストックしてある「卵のタマゴ」が増えることもありません。
 あるいは、「化学物質や加工食品からの汚染によって昔よりも妊娠力が落ちている」という考え方もあるかもしれません。たしかに環境ホルモンや残留性有機汚染物質(POPs)などの化学物質による妊孕性への影響については、以前から問題視されています。しかし東洋医学によって、汚染が原因で引き起こされた妊娠力の低下を改善できるという科学的な根拠はありません。染色体異常があった場合、それを鍼で改善することは不可能です。
 東洋医学では過ぎ去った時間を巻き戻すことはできませんし、人体の理を超えて変化を引き起こすこともできないのです。

不妊鍼灸を受けていて妊娠に至った最高年齢は?

 件のホームページの記述では、43歳で妊娠した事例もあるとのことでした。
 じねん堂の場合、胎嚢か心拍の確認を妊娠とすると、不妊鍼灸を受けながら妊娠された方の最高年齢は、自前の卵子だと43歳(妊娠経験なし、体外受精)、卵子提供を受けた事例では50歳です。(2019年1月現在)

まとめ

  • 40歳を超えても妊娠はできますが、妊娠できる可能性は若いころよりも低くなります。妊娠経験が無ければより顕著となります。
  • 東洋医学(鍼灸)で妊孕性を高めることはできると思われます。ただし、人体の理や自然の法則を超えるような効果を出すことはできません。

 昔の日本で、40歳まで妊娠経験のない女性のその後の妊娠率はどれくらいだったのでしょう。高度生殖医療の無い時代に、それでも現在の40歳以上よりも妊娠率が高いのであれば、確かに昔の女性は高い妊娠力が備わっていたと納得できます。しかしそのようなデータはどこにもありません。
 正直申し上げて、初産年齢が低く多産だった昔の日本の40歳以上(出産経験あり)と、不妊治療が必要な現代の40歳以上(出産経験なし)とを同列にして “妊娠しやすい体質を取り戻しましょう” などと語っている時点で、件の施術所は受療候補から外して差し支えないと思います。私が発信者の意図を取り違えているのなら申し訳ないですが、ミスリードを誘う悪意ある文章か、論理的思考を欠いた人物が書いた文章かのどちらかだと感じました。

 
 
 

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