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「不妊鍼灸を受けるなら男性1人の鍼灸院は避けるべき」という言説に根拠なし!

 先日、我が目を疑う記事を見つけました。

 それは、東京にあるアキュラ鍼灸院の院長、徐 大兼(じょうたいけん)氏のブログ。

 徐氏は不妊鍼灸ネットワークの事務局長であり、情報ポータルサイト「All About」では不妊鍼灸の専門家(ガイド)として記事を発信し、著作も複数あるという、非常に影響力の大きい方です。
 件の記事は、徐氏が日本不妊カウンセリング学会の「不妊カウンセラー・IVFコーディネーター養成講座」において講演したことを報告するものでした。
 講座では「不妊鍼灸を受けたい場合、どうやって選んだら良いですか?」という質問が多く、このような場合、まずは“こういう鍼灸院は気を付けよう”という話をするとのことで、気を付けるべき鍼灸院に関する10項目のポイントが列記されていました。

 その項目の4番目に、私は強く反応してしまったのです。

4)男性1人の鍼灸院
やはり、男性鍼灸師一人はできれば避けたいですね。受付、若しくは女性の助手がいることが望ましいかもしれませんね。但し、男性1人でも、良い鍼灸院も沢山あります。

徐大兼. “不妊鍼灸院の選び方”. アキュラ鍼灸院ブログ. ameblo.jp/acuraclinic/entry-12168281570.html

 なんでしょう、これは。

 後半に取って付けたようなフォローが入ってはいますが、なぜ避けたいのか、なぜ女性の助手が必要なのか、一切の説明がありません。こういう表現だと、「男性1人でも、良い治療院があるかもしれないけれど、とりあえず第一選択からは外した方が無難だわね」ということになってしまいます。自律神経症状と不妊の改善に注力している弊院にとっては、翼の片方をもぎ取られかねない事態です。
 あっという間に頭に血が上り、「営業妨害無ないか。こっちは男一人で正直に商売して、妻と子供3人を養っとるんじゃ!」と某SNSに不満を投稿してしまいました。アキュラ鍼灸院への電凸も辞さない構えで。
 しかし良き先輩・友人たちからのコメントを読むうちに、少し考えを改めたのです。

 なぜ避けるべきという結論に至ったのか、その理由を考えてみよう、と。

 ただただ感情に任せてしまっては、そこいらのクレーマーやヤカラの類と変わりません。別の意味で「避けるべき鍼灸院」になってしまいます。確かに私の外見は “そっち系” かもしれませんが、中身まで “そっち系” ではありません。医療者としての論理的思考を多少なりとも身に付けているつもりでいます。

定番の免許証写真

 ですから冷静になった今は、「私のところは男一人だけど大丈夫だから!」と述べるだけでは不十分であることも分かりますし、反論するに足る根拠をお示しすることこそが医療者らしい行動であると考え、実行する気でいるのです。

 というわけで、反証して参ります。※この記事は、女性が読むことを想定して書いています

1.なぜ男性1人の鍼灸院は避けるべきなのか

 男性1人の鍼灸院を避けるべき理由は何か。

 性的な内容を告知したり、臀部や下腹部を露出したり触れられたりすることに抵抗がある女性が多いという考えからでしょうか。しかしそれならば、女性の受付や助手を雇うだけでは不十分です。結局鍼灸師である男性に聞かれたり触られたりしてしまうのですから。男性複数人の鍼灸院であってもその問題が解決されるとは思えません。“女性スタッフのみの鍼灸院にしましょう” とならなければ理屈が通らなくなってしまいます。
 おそらく徐氏は、「女性の患者と男性の施術者が完全に二人っきりとなることが望ましくない」と言いたいのでしょう。
 いや、回りくどい理論展開は止めましょう。
 端的に申し上げれば、男性1人の治療院だと性犯罪の被害に遭う可能性が高いという理由から、”避けるべき” だと述べているのです。男性2人ならばお互いが抑止力として働くと考えているのかもしれません。女性スタッフがいればそれがさらに強く働くと。

たしかに、いわゆる施術を装ったわいせつ行為が、女性スタッフや複数の男性スタッフが在籍する鍼灸院よりも男性1人の鍼灸院で明らかに多く行われているのであれば、男性1人の鍼灸院は避けるべきだと言えます

 果たしてそれは本当でしょうか?

2.鍼灸師によるわいせつ事件の事実

 鍼灸師が治療院で引き起こすわいせつ事件は、どれくらいの頻度で起こっているのでしょう。
 インターネット検索にて、鍼灸師が引き起こしたわいせつ事件を調べてみました。新聞社等のニュースサイトは記事が消去されていることが多く、複数のまとめサイトや掲示板から引用しています。本来ならばいわゆる「新聞記事データベース」を検索すべきところですが、手軽な方法に逃げることをお許しください。
 手軽な方法で調べた結果、2012年~2015年まで毎年1件ずつ、計4件の事件を見つけることが出来ました。今年に起こった事件もありましたが、容疑者の実名が出ておらず、治療院を特定できませんでしたので記載を省きました。

2012年12月の事件

施術行為と女性客の下半身触る、鍼灸師 M容疑者(53)を逮捕 2012年12月1日
宮城県警仙台北署は1日、仙台市青葉区高松、鍼灸(しんきゅう)師 M容疑者(53)を準強制わいせつ容疑で逮捕した。発表によると、M容疑者は11月30日午後6時45分頃、経営する「○○○鍼灸治療院」で、施術行為と称して女性客(41)の下半身を触った疑い。M容疑者は「触ったのは間違いない」と供述しているという。

 男性鍼灸師2名、女性鍼灸師1名、女性スタッフ1名(現在)の鍼灸院。2017年に移転開業しています。
 女性鍼灸師は新卒で今年採用されたようです。事件当時の構成は不明ですが、施術所のホームページによれば男性鍼灸師は2010年から勤務しており、女性スタッフはM鍼灸師と同じ名字ですので家族である可能性があります。複数のスタッフが在籍した施設であることは間違いないでしょう。

2013年10月の事件

患者にわいせつ行為 準強制わいせつの疑いで整体・鍼灸師を逮捕
北九州市八幡西区の整骨院で、患者にわいせつな行為をしたとして、整体・鍼灸師の男が、警察に逮捕されました。事件があったのは、北九州市八幡西区折尾のN整骨院で、逮捕されたのは、院長の息子で整体・鍼灸師のNこと、韓国籍のI容疑者34歳です。警察によりますと、I容疑者は2013年6月、28歳の女性患者に対し、治療行為と信じさせながら、下着を脱がして、下半身を触るなどした、準強制わいせつの疑いが持たれています。事件当時、整骨院内には、従業員や患者が他におらず、変に思った女性が被害届を出し、逮捕に至ったということです。李容疑者は容疑を認めています。

 事件当時男性鍼灸師少なくとも2名、女性スタッフ不明の整骨院。現在整骨院HPには院長1人の紹介のみがなされています。“事件当時、整骨院内には、従業員や患者が他におらず” と、記事には書かれています。院長ではなく従業員となっていることから、他にもスタッフを雇用していたと推察されます。

2014年3月の事件

整骨院に訪れた女性客の胸などを触ったとして、準強制わいせつの罪で起訴されている福井県越前市中津山町、整骨院経営T被告(46)が、わいせつ行為をビデオ撮影して保存していたことが8日、分かった。福井地裁武生支部で8日に初公判があり、T被告は起訴内容を大筋で認めた。検察側は「女性の目をタオルで覆ってビデオ撮影した」と指摘した。同署はビデオカメラ内に保存されていた映像から別の女性への容疑を割り出し、準強制わいせつの疑いで追送検した。福井地検は8日、同罪で追起訴した。起訴状によると昨年9月7日、整骨院のベッド上であおむけの女性=当時(35)=が正当な施術と誤信して抗拒不能の状態にあることに乗じ、胸などを触ったとされる。今後は追起訴分も併合して審理される。為澤被告は国家資格のはり・きゅう師と柔道整復師の有資格者。

 男性鍼灸師1名、女性スタッフ1名(現在)の鍼灸整骨院。事件当時の構成は不明です。

2015年5月の事件

不妊治療と偽って、30代の女性にわいせつな行為をした疑いで、静岡・三島市の鍼灸師の57歳の男が逮捕された。準強制わいせつの疑いで逮捕されたのは、三島市の鍼灸師・S容疑者(57)。警察によると、S容疑者は4月21日、自身が経営する鍼灸院で、不妊治療に訪れた30代の主婦に、治療行為と偽って、わいせつな行為をした疑いが持たれている。S容疑者は調べに対し、「間違いありません」と容疑を認めているという。警察は、鍼灸院や榊容疑者の自宅から、カメラやビデオなどを押収していて、ほかの女性にも、わいせつ行為をした可能性があるとみて調べている。

 男性鍼灸師1名、女性鍼灸師1名の鍼灸院。事件当時も同じ構成です。施術所のホームページが有志によって保存されていました。


 いかがでしょうか。
 飯村ら*1 によると、鍼灸師が係るわいせつ事件は年平均1.64 件の頻度で報道されているそうです。私が見つけられたのは年1件ずつですので、幾らか取りこぼしがあるものと思われますが、少なくとも見つけられた範囲では男性1人の鍼灸院はありませんでした。
 男性1人の鍼灸院が、その他の人員構成の鍼灸院よりも圧倒的に少ないのであれば、「たまたま無かっただけ」とも考えられますが、小川ら*2によるアンケート調査では、院長・助手を含む治療従事者が1名の治療院は全体の39.7%とのこと。このアンケートにおける助手に受付が含まれているかどうかは不明です。求人を出す時に、「受付(施術補助)」と記述されることもあります。従事者が1名の治療院で、従事者とは別に1名専業の受付がいる場合もあるでしょうし、従事者が2名の施術所(20.1%)の中には、受付兼助手が含まれている可能性があります。したがって、男性1人の鍼灸院は、鍼灸院全体の39.7%よりもいくらか小さな割合であると考えられます。それでも、大幅に少ないということはありません。
 つまり、従業員数が多いことは性犯罪の抑止力とはなり得ないのです。

 それどころか、データのうえでは男性1人の鍼灸院よりも、男性院長と従業員とで構成される鍼灸院の方がわいせつ事件を起こしやすいことがわかります。もっと細かく申せば、男性を含む複数の従業員で構成される鍼灸院で、男性の施術者と2人きりになった時が危ないと、なります。

3.むしろ男性1人治療院の方が安全なのではないか

 男性1人の鍼灸院が安全な理由。それはずばり、世間の目を意識せざるを得ないからです。
 女性患者から警戒されているのは周知の事実です。にもかかわらず鍼灸の受療率は男性よりも女性の方が高く、ましてや不妊鍼灸を主に取り扱うのなら、女性患者に来院していただけないのは死活問題です。ですからその警戒を解くため、そして来院後もあらぬ疑いをかけられぬため、様々な施策を講じなければならないのです。
 ブログ等での情報発信もその手段のうちのひとつです。どうか男性1人の鍼灸院というだけで敬遠なさらず、ホームページやブログのなかで記述されていることに目を通してみてください。
 それでも信用ならないというのなら仕方がありません。私共の力量不足なのでしょう。どうぞ、他の施設をお選びください。良き施設に巡り合い、不妊が改善することを祈っております。

4.女性の鍼灸師ならば安全なのか

 女性の鍼灸師ならば安全かというと、必ずしもそうとは限りません。

「でも、女性鍼灸師がわいせつ事件を起こしただなんて聞いたことがない」

 確かにそうですね。事実、飯村らの報告では、わいせつ事件の加害者全員が男性でした。しかし、性犯罪は被害者からの告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪(刑法180 条)であることから、たとえ女性鍼灸師による性犯罪のアクションが起こされていたとしても、受け手の側が同性だからと安心してしまっていて気づくことが出来ず、事件になっていないだけかもしれないのです。アメリカのデータ*3によれば、18歳~44歳までの女性における同性愛者の割合は1.1%、両性愛者の割合は3.5%とのこと。民族、宗教、国民性の違いもあるかも知れませんが、日本でもある程度近い割合になるのではないかと思われます。あなたが掛った鍼灸院の女性鍼灸師が、同性に対して性的興奮を覚えるタイプの人間である可能性は否定できません。

 また、巷にある「盗撮系」の動画。女性のロッカールーム等に隠しカメラが設置されているものがあります。いったい誰がカメラを配置しているのでしょう。メーカーが製作したアダルトコンテンツならすべてがヤラセ・仕込みの類だと思われますが、素人が作成しているものとなれば話は別です。男性が忍び込むにはリスクが高いですから、女性の協力者がいると考えるのが自然ではないでしょうか。ずいぶん前になりますが、事件として報道もされていました。鍼灸院の女性スタッフが、変質者に協力しているかもしれません。

 とはいえ、女性スタッフのみの鍼灸院で性的被害を受ける可能性は極めて低いと言えます。鍼灸師全体の中で女性の占める割合は20%以下。ただでさえ少ない女性鍼灸師の中で同性愛もしくは両性愛者で、さらに性的衝動を抑えきれず犯行に及ぶ者がどれほどの割合で存在するでしょう。あるいは変質者に協力して活動する者がどれほどの確率で潜んでいるでしょう。
 ゼロではないが、無視できるほど低い確率かと存じます。

 受療するなら女性スタッフのみの鍼灸院が最も安全なのです。

5.まとめ

  • 男性1人の鍼灸院は避けるべきという意見がある
  • それは男性1人の鍼灸院だとわいせつ行為の被害者になりやすいという考えに根差していると思われる
  • データ上、わいせつ事件を起こすのは男性院長と従業員という構成の鍼灸院が多い
  • データ上、男性1人の鍼灸院はわいせつ事件を起こしていない
  • 男性1人の鍼灸院は世間からの“いわれなき”疑いの目に晒され続けている
  • 女性スタッフのみの鍼灸院でわいせつ事件の被害者になる確率は極めて低い
  • わいせつ事件の被害者にならないためには女性スタッフのみの鍼灸院が第一選択となる

6.さいごに

 日本不妊カウンセリング学会の「不妊カウンセラー・IVFコーディネーター養成講座」における徐氏の発言は、明確な根拠が無く、女性が抱きがちな「男性と1対1になるのは嫌だな……」という不安を徒に煽っているにすぎません。

 まさに風説の流布です。

「不妊カウンセラー・IVFコーディネーター養成講座」における参加者は主に看護師、薬剤師、培養士、医師などで、多くは鍼灸を利用したことがないとのこと。その様な者たち(特に医師!)が口をそろえて、「男性一人の鍼灸院は避けた方が良いよ」と発言することにもなれば、一般の方はそれが正しいと信じてしまいます。いくら私のような地方の一鍼灸師が否定したところで、覆ろうはずもありません。
 徐氏のように影響力の大きい人間は、自分の発言に細心の注意を払っていただきたいと心から願います。

 そしてさいごに、徐氏の言い回しを借りてあなたにお伝えします。

不妊鍼灸を受けたい場合、やはり男性院長と従業員とで構成される鍼灸院は避けたいですね。女性のみの施設が望ましいかもしれませんね。但し、男性院長と従業員という構成でも、良い鍼灸院も沢山あります。

【引用・参考】
「不妊鍼灸院の選び方」アキュラ鍼灸院ブログ
【参考文献】
*1 飯村佳織 宮崎彰吾ら, はり師きゅう師が関与したわいせつ行為に関する新聞記事の分析, 社会鍼灸研学 (7), 51-62, 2012
*2 小川卓良 形井秀一ら, 第5回現代鍼灸業態アンケート集計結果速報, 医道の日本 70(8), 191-224, 2011-08
*3 National Center for Health Statistics, National Health Statistics Reports, No. 36. Sexual Behavior, Sexual Attraction, and Sexual Identity in the United States: Data from the 2006-2008 National Survey of Family Growth. 36 pp. (PHS) 2011-1250. March 3, 2011.


徐氏とは不妊鍼灸ネットワーク入会時にこの件についてお話ししました。
かつて不妊鍼灸ネットワークは男性1人院では入会できませんでしたが、現在は入会できます。

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