PCOSのあるかたが体外受精・顕微授精を受けている場合、鍼をしても大丈夫?:2026年メタアナリシスから考える

 PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とは、卵巣の中に小さな卵胞が多くみられる一方で、その中から成熟卵胞が選ばれ、排卵に至る過程が滞りやすい状態です。月経不順や排卵障害の背景となり、不妊治療の中で問題になることがあります。
 PCOSのかたが採卵に向けて排卵誘発剤を使う場合、卵巣が刺激に強く反応してしまうことがあります。そのため、多数の卵胞発育や卵巣の腫れを伴うOHSS(卵巣過剰刺激症候群)に注意が必要とされています。

 このような背景があるため、体外受精・顕微授精を受けているPCOSのかたが鍼灸治療を検討するときには、「鍼で卵巣がさらに刺激されないか」「PCOSが悪化しないか」「OHSSのリスクが高まらないか」と心配されることがあります。

 もちろん、体外受精・顕微授精を受けているPCOSのかたが鍼灸を受療することに問題はありません

 では、その根拠はどこにあるのでしょうか。
 今回は、2026年5月に発表された最新の研究を基に、体外受精・顕微授精を受けるPCOS女性に鍼治療を併用した場合の安全性と治療成績について紹介できればと思います。

目次

この論文は何を調べたのか

 今回紹介するのは、Guoらによる2026年のメタアナリシスです。

 対象となったのは、PCOSと診断され、体外受精または顕微授精を受ける女性です。研究では、鍼治療を併用した場合と、通常治療のみ、または対照群とを比較したランダム化比較試験が集められました。
 最終的に解析に含まれたのは、22件のランダム化比較試験、合計2,299名の女性です。
 この論文で調べられた主な項目は、臨床妊娠率、生児獲得率、採卵数、周期キャンセル率、早期流産率、良好胚数、hCG投与日のE2値、OHSS発生率、ゴナドトロピン使用量、ゴナドトロピン使用期間などです。

 つまり、この研究は、PCOSが鍼で治るかどうかを調べたものではありません。PCOSの方が体外受精・顕微授精を受ける周期に鍼治療を併用した場合、妊娠成績や安全性にどのような影響があるかを評価したものです。

メタアナリシス(統合解析)とは、複数の研究結果を集め、統計的にまとめて評価する方法です。1つの研究だけを見るよりも、全体としてどのような傾向があるかを確認しやすくなります。
ランダム化比較試験(RCT)とは、対象者を無作為(ランダム)にグループ分けし、治療を受けた群と受けていない群、または別の治療を受けた群を比較する研究方法です。治療の効果を検討するうえで、信頼性の高い研究形式とされています。
今回のようなランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスは、介入効果を評価する研究形式としては最も信頼性が高いものの一つです。ただし、その結論の確かさは、含まれているRCTの質に大きく左右されます。

OHSS発生率の増加は示されなかった

 OHSSとは、排卵誘発や卵巣刺激によって卵巣が過剰に反応し、卵巣の腫れ、腹部膨満感、腹水、血液濃縮などが起こる状態です。胚移植が延期になったり、重症化すると入院管理が必要になったりすることもあるため、体外受精では大きなリスクの一つとされています。

今回のメタアナリシスでは、鍼治療を併用した群でOHSSが増える結果は示されませんでした。これは、PCOSで体外受精・顕微授精を受けている方にとって、重要な意味を持ちます。

この結果は「鍼治療がOHSSを予防する」と示したものではありません。今回の結果から言えるのは、鍼治療を併用してもOHSSが増える結果は示されなかった、という点までです。

臨床妊娠率と生児獲得率には前向きな結果

 今回の研究で、比較的はっきり前向きな結果が示されたのは、臨床妊娠率と生児獲得率です。

 臨床妊娠率とは、妊娠反応だけでなく、超音波検査などで妊娠が確認された割合を指します。生児獲得率は、実際に赤ちゃんが生まれるところまで到達した割合です。

 Guoらの解析では、鍼治療を併用した群で臨床妊娠率が高く、生児獲得率も高い結果が示されました。

 研究結果をどれくらい信頼できるかを評価するGRADE評価では、臨床妊娠率と生児獲得率はいずれも「中等度」とされており、今回のメタアナリシスで示された前向きな結果の中心といえます。

採卵数や流産率に明確な変化はなかった

 今回のメタアナリシスでは、採卵数について、鍼治療を併用した群と対照群との間に明確な差は示されませんでした。また、早期流産率についても、両群の間に明確な差は示されていません。
 つまり、今回の結果からは、鍼治療によって採卵数が増えたり早期流産率が下がったりするとは言えません。

 なお、良好胚数、hCG投与日のE2値、排卵誘発剤の使用量や使用期間などには前向きな変化も報告されています。ただし、これらは研究ごとの差が大きかったり、結果の確実性が低かったりする項目も含まれます。

注意点

 今回のメタアナリシスは、ランダム化比較試験をまとめた研究であり、鍼治療の併用を考えるうえで重要な参考になります。一方で、結論の確かさは、含まれている研究の質や研究ごとのばらつきにも左右されます。

 まず、解析に含まれた22件の研究のうち、21件は中国で行われた研究でした。日本の不妊治療の進め方や医療環境とは異なる部分もあるため、結果をそのまま日本の治療環境に当てはめることはできません。
 また、鍼治療の方法も研究によって異なっていました。手技鍼か電気鍼か、使用するツボの数、治療の頻度、治療を行う時期などが統一されていないため、この論文だけで「どの方法が最もよい」と決めることはできません。
 さらに、この研究はPCOSそのものの長期的な改善や悪化を調べたものではありません。月経周期、排卵のしやすさ、インスリン抵抗性、アンドロゲン値、体重変化などを長期的に確認した研究ではなく、あくまで体外受精・顕微授精の周期に鍼治療を併用した場合の成績を検討した研究です。

鍼治療はどのように位置づけられるか

 体外受精・顕微授精を受けているPCOSのかたにとって、鍼治療は、病院で進めている治療計画と並行して検討できる補助的な選択肢と位置づけられます。
 なぜなら、今回の研究では、鍼治療を行った群でOHSSが増える結果は示されていないからです。さらに、臨床妊娠率と生児獲得率には前向きな結果も示されています。
 したがって、「PCOSが悪化するのではないか」「OHSSのリスクが高まるのではないか」という理由だけで、鍼治療を避ける必要はないと言えます。

まとめ

 PCOSの方が体外受精・顕微授精を受ける際、「鍼治療でPCOSが悪化しないか」「OHSSのリスクが高まらないか」と心配されることがあります。
 Guoらの2026年メタアナリシスでは、鍼治療を行った群でOHSSが増える結果は示されず、臨床妊娠率と生児獲得率には前向きな結果がみられました。一方で、鍼治療がOHSSを予防する、採卵数を増やす、PCOSそのものを長期的に改善する、とまでは言えませんでした。
 現時点では、体外受精・顕微授精を受けているPCOSの方にとって、鍼治療は、病院で進めている治療計画と並行して検討できる補助的な選択肢と考えるのが妥当です。

【参考文献】
Guo S, Xia H, Yang W, Lin G, Tang Q and Xu L. Clinical efficacy of acupuncture for women with PCOS undergoing IVF/ICSI: a meta-analysis of randomized controlled trials. Front Endocrinol. 2026;17:1845255.


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