重度の脱毛症（全頭型脱毛症）に対する電気鍼療法の可能性 ―最新の症例報告より―

　円形脱毛症（AA）は、自分の免疫が毛包（髪の毛を作る組織）を攻撃してしまう自己免疫性の病気です。小さな円形の脱毛斑から始まることもあれば、広がって重症化することもあります。

　その中でも最も重度で治療が難しいのが全頭脱毛症（AT）であると言われています。ATは頭皮の毛がすべて抜け落ちた状態を指し、これまでにステロイドや免疫抑制薬など様々な治療法が試されてきましたが、「決定的に効果がある」と言える治療法はまだ存在していません。

　今回ご紹介するのは、そんなATに対して電気鍼療法を行い、毛髪の再生が確認された22歳女性の症例報告です。

症例の概要

　患者は中国人女性（22歳）。10年間にわたりATを患っており、頭皮の毛髪は完全に失われていました。ただし、眉毛や体毛など他の部位に脱毛はありませんでした。

　発症に関わる要因（薬剤、遺伝、持病）は否定されており、以前に受けた薬物治療でも効果が得られなかったため、治療を中止して鍼治療を試すことになりました。

実施された電気鍼治療

　治療は週1回、経験豊富な鍼灸師によって行われました。特徴は以下の通りです。

1. 刺入部位と方法
   • 横刺（皮膚に沿って浅く刺す方法）：風府穴、百会穴、率谷穴、風池穴。
   • 直刺（皮膚に対して真っ直ぐ刺す方法）：大杼穴、肺兪穴、腎兪穴、関元兪穴。
2. 電気刺激（EA）
   • 腎兪穴と関元兪穴以外の経穴に刺した鍼には電極を接続し、患者が耐えられる最大の強度で通電しました。
3. 温熱刺激（お灸）
   • 腎兪穴と関元兪穴に刺入した鍼の柄にお灸を置き（灸頭鍼）ました。
4. 治療時間
   • 鍼は毎回30分間留置されました。

治療効果の経過

　効果の判定には、国際的に用いられるSALTスコア（Severity of Alopecia Tool）が使われました。これは頭皮の脱毛範囲を数値化して評価する方法です。

治療回数・期間	毛髪の再成長率	特記事項
3回セッション後	約25%（SALT 75）
8回セッション後	約55%（SALT 45）	より色素のある終毛が増加。
4ヶ月後	約70%（SALT 30）	終毛の範囲と密度が増加。

　患者の実感としては、毛髪は後頭部の生え際から生え始め、次第に側頭部、頭頂部へと広がったとのことでした。

SALTスコアとは？
SALTスコア（Severity of Alopecia Tool）は、円形脱毛症の重症度を数値で表す国際的な評価法です。頭皮を次の4つの領域に分け、それぞれの面積比に応じて脱毛の割合を計算します。
・ 前頭部：40％
・ 側頭部（左右）：各18％（合計36％）
・ 後頭部：24％
たとえば前頭部の半分が脱毛していれば「40％×0.5＝20％」と計算します。これを全体で合計し、0～100のスコアにします。SALT 0＝脱毛なし（正常）、SALT 100＝頭皮全体が脱毛（全頭脱毛症）となります。
今回の症例では、初診時にSALT 100だった患者が、4か月後にはSALT 30まで改善しました。
ただし、SALTスコアは「毛の質（細い毛か太い毛か）」までは反映しないため、写真や患者さん自身の報告とあわせて評価することが一般的です。

なぜ鍼治療が効いたのか？

ATの原因はまだ完全には分かっていませんが、免疫の異常による毛包周囲の炎症が重要と考えられています。

1. 電気鍼による炎症抑制作用
   • 過去の動物研究では、電気鍼が毛包周囲の肥満細胞（炎症を起こす細胞）の過剰な活性化（脱顆粒）を抑えることが示されました。これにより炎症物質が減少し、毛包の破壊が防がれる可能性があります。
2. 横刺の意義についての考察
   • 本症例では、風府穴や風池穴を含む経穴に横刺が行われ、毛髪は風府穴や風池穴の部位にあたる後頭部の生え際から再生し始めました。
   • 著者らはこの観察を踏まえ、横刺は直刺よりも頭皮レベルに刺激が集中しやすく、毛包の修復や発毛を促す可能性があると考察しています。

まとめと今後の展望

　今回の症例は、長年改善がみられなかった全頭脱毛症に対して電気鍼治療が毛髪再生を促す可能性を示しました。特に後頭部の生え際からの発毛は、横刺であることや脱毛辺縁部（免疫反応の前線）への刺激が関与した可能性を示唆しています。
　一方で、梅花鍼や九星鍼を用いて脱毛部全体を広範囲に刺激した場合にも毛髮の再生が報告されており、必ずしも特定の経穴や脱毛辺縁部への刺激が鍵とは限りません。どの刺激法が最も有効かはまだ分からず、今後の症例蓄積と臨床試験による検証が不可欠です。

　とはいえ、従来の治療で効果が得られなかった方にとって、鍼灸、特に電気鍼は円形脱毛症改善の新しい選択肢となる可能性があります。三重県津市で円形脱毛症への鍼灸が可能な鍼灸院をお探しでしたら、じねん堂にお問い合わせください。

【参考文献】
Deng C, Zhuo X, Mai J, Chen Z, Lao J. Alopecia totalis treated with electroacupuncture incorporating transverse needle insertion at GB20 and GV16: a case report. Acupunct Med. 2022 Apr;40(2):205-207. doi: 10.1177/09645284211055752. Epub 2021 Dec 9. PMID: 34886693.

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円形脱毛症に対して、三重県津市のじねん堂では、脱毛辺縁部への横刺鍼通電と、脱毛部へのスーパーライザーによる近赤外線照射および散鍼（ちょんちょんと鍼を刺しては抜くを繰り返す手法）を行っています。