機能性ディスペプシアの2026年最新ガイドライン ―ドイツDGNMのS1ガイドラインでは何が示されたのか―

 機能性ディスペプシア(FD)は、胃カメラなどの検査で明らかな異常が見つからないにもかかわらず、胃もたれ、早期満腹感、みぞおちの痛み、みぞおちの灼ける感じなどが続く病気です。

 以前、英国消化器病学会(BSG)ガイドラインをもとに、FDの標準的な診断と治療について解説しました。 
 今回は、それに続く2026年の最新ガイドライン記事として、ドイツ神経消化器病学会(DGNM)による「機能性ディスペプシア(FD)、腸脳相互作用障害(DGBI)に関するS1ガイドライン」を紹介します。

 このドイツDGNMガイドラインの特徴は、FDを「胃だけの病気」としてではなく、胃・十二指腸、神経、免疫、腸内細菌、ストレス、脳の感覚処理が関わる「腸脳相互作用障害(DGBI)」として捉えている点にあります。治療についても、胃酸を抑える薬や胃の動きを助ける薬だけではなく、患者さんへの説明、食事、生活習慣、植物療法、心身療法、心理療法、鍼治療などが幅広く扱われています。
 特に注目される(私が個人的に興味深かった)のは、植物療法、いわゆるハーブ治療がFDの第一選択治療として位置づけられていること、IBSで有名な低FODMAP食がFDでは推奨されていないこと、そして手技による鍼治療および電気鍼がFDの治療に有効である可能性があると記載されていることです。

◆ S1ガイドラインとは?
 ドイツの医学ガイドラインには、S1、S2e、S2k、S3という方法論上の分類があります。
 S1ガイドラインは、専門家の合意に基づいて、現在の知見や実臨床での対応をまとめたものです。一方でS3ガイドラインは、系統的レビューと構造化された合意形成を組み合わせた、最も厳密な形式とされています。そのため、今回紹介するドイツDGNMガイドラインは、「複数人の専門家による意見の一致をみた、現時点での実践的な指針」といった位置づけとなります。
 したがって、本文中で「第一選択治療」と記載されていても、それは国際的なGRADE分類でいう「強い推奨」と同じ水準の推奨を意味するものではありません。

本記事は、「一般的な医療に関する情報の提供」を目的としています。また、じねん堂では、個人の症状に対する診断や治療の指示といった医療行為は行っておりません。あらかじめご了承ください。

目次

ドイツDGNMガイドラインはFDをどう捉えているか

 機能性ディスペプシアは、現在でも「胃の動きが悪い」「胃酸が多い」「胃が弱い」といった言葉で説明されることがあります。こうした説明は、FDの一部を表している場合がありますが、それだけで病態全体を説明できるわけではありません。ドイツDGNMガイドラインでは、FDは胃・十二指腸の運動、知覚過敏、粘膜や免疫の変化、ストレス、脳での内臓感覚の処理などが関わる、より複雑な病態として扱われています。

 つまり、FDは「胃カメラで異常がないから、何も起きていない」という病気ではないのです。たとえ検査で潰瘍やがんなどが見つからなくても、胃・十二指腸の働き、粘膜の反応、神経の過敏性、ストレス反応、脳の感覚処理などが関係して、症状が続くと説明されています。ドイツDGNMガイドラインでは、こうしたFDの病態を「生物・心理・社会モデル」で捉え、身体の仕組み、心理的負荷、生活環境を切り離さず、相互に影響し合うものとして考えられています。

診断では、危険な病気を除外することが前提

 FDは、典型的な症状があり、その症状を説明できる器質的疾患が見つからない場合に診断されます。主な症状は、みぞおちの痛み、みぞおちの灼ける感じ、食後の胃もたれ、早期満腹感です。早期満腹感とは、少量を食べただけで満腹になり、通常の食事量を食べられなくなる状態を指します。

 ドイツDGNMガイドラインでは、診断において、まず他の病気を除外することが重視されています。特に、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、胃食道逆流症、胆のう・膵臓の病気、薬剤の副作用、胃不全麻痺などとの鑑別が必要です。体重減少、貧血、吐血・下血、繰り返す嘔吐、嚥下困難、発熱、腹部腫瘤、胃がんや食道がんの家族歴、高齢で新しく出てきた症状などがある場合は、FDとして自己判断せず、医療機関での評価が必要です。

 診断では、問診、身体診察、基本的な血液検査、上部消化管内視鏡検査、ヘリコバクター・ピロリ検査などが中心になります。一方で、胃排出能検査や24時間pHインピーダンス検査(胃酸の逆流を調べる精密検査)などは、FDの一般的な診療で最初から行われる検査ではありません。胃不全麻痺や胃食道逆流症などが疑われる場合に、追加で検討される検査です。
 また、胃カメラで「胃炎」と言われた場合でも、FDが否定されるわけではありません。内視鏡検査で軽い胃炎を指摘されたり、胃の粘膜を一部採取して顕微鏡で確認する組織検査で胃炎と判断されたりすることがあります。しかし、その所見だけで、胃もたれや早期満腹感、みぞおちの痛みを説明できるとは限らないからです。ドイツDGNMガイドラインでも、内視鏡や組織検査で得られた胃炎の所見が症状と一致しない場合には、FDとして捉えることが重視されています。

第一選択治療として位置づけられる植物療法

 ドイツDGNMガイドラインでは、STW-5、STW-5-II、ペパーミント油とキャラウェイ油の組み合わせが、FD症状を軽減する治療選択肢として扱われています。さらに、これらの植物療法は、FDに対する第一選択治療として位置づけられています。
 ここでいう植物療法とは、単に「ハーブティーを飲む」「民間療法を試す」という意味ではありません。ドイツ語圏では、植物由来成分を用いた製剤が、医療の中で一定の位置を持って使用されてきた背景があります。
 STW-5は、イベロガスト(Iberogast)として知られる複合植物製剤です。イベリス・アマラ、ペパーミント、カモミール、キャラウェイ、レモンバーム、甘草、アンジェリカ根、ミルクシスル、クサノオウなどを組み合わせた製剤です。STW-5-IIは、そこから一部の成分を減らした製剤で、イベリス・アマラ、カモミール、キャラウェイ、レモンバーム、ペパーミント、甘草を含みます。
 ガイドラインでは、STW-5およびSTW-5-IIについて、FD症状の改善、特に胃もたれ、早期満腹感、上腹部痛などに関する研究が紹介されています。また、ペパーミント油とキャラウェイ油の組み合わせについても、FDの全般的な症状や痛みの改善に関する研究が取り上げられています。
 ハーブなら何でもよいわけではなく、一定の臨床研究に基づく植物療法がFD治療の重要な選択肢として扱われているということです。

STW-5は、ドイツではイベロガストとして知られる植物製剤です。一方、日本では一般診療で処方される薬ではありません。インターネット上では、ハーブ製品やサプリメントのように扱われて販売されている場合がありますが、ガイドラインで取り上げられているからといって、自己判断で使用することはお勧めできません。植物由来であっても、副作用や薬との相互作用に注意が必要だからです。特に肝機能に不安がある方、妊娠中・授乳中の方、持病がある方、薬を服用している方は、医師や薬剤師に相談することが大切です。

低FODMAP食はIBSでは有名だが、FDでは推奨されていない

 食事は、FDの患者さんにとって重要なテーマです。多くの方が、「食べると胃もたれする」「特定の食品で悪化する」「外食のあとにつらくなる」と感じています。
 ドイツDGNMガイドラインでも、FDの症状が食事と関連していると感じる患者さんが多いことは認めています。高脂肪食、アルコール、コーヒー、炭酸飲料、香辛料、柑橘類、乳製品、野菜、小麦などが、症状のきっかけとして挙げられることがあります。
 とはいえ、患者さんが「この食品で悪化する」と感じていることと、その食品がFD症状の原因であると研究で確認されることは同じではありません。ガイドラインでは、食事とFD症状の関係について、研究結果は必ずしも一貫していないとされています。

 ここで問題となるのが、低FODMAP食です。低FODMAP食は、発酵性の糖質を制限する食事法で、過敏性腸症候群(IBS)では有効性が示されています。そのため、IBSの治療として聞いたことがある方も多いと思います。しかし、ドイツDGNMガイドラインでは、FDに対する低FODMAP食について、再現性のある有効性は確認されておらず、FDでは役割がないと明示されています。IBSで有効だからといって、FDにも同じように有効とは言えないということです。
 IBSは主に下部消化管、つまり腸の痛みや便通異常が中心になります。一方、FDは胃・十二指腸を中心とする上部消化管症状です。両者は腸脳相互作用障害という点で重なりますが、症状の出方も、関わる消化管の部位も同じではないので、このような結論が出ても不思議ではありません。

 FDでは、脂肪の多い食事を避けること、少量を複数回に分けて食べること、早食いを避けることなどが役立つ場合があります。一方で、食事制限を広げすぎると、栄養不足や食事への不安につながります。
 ドイツDGNMガイドラインでは、重い体重減少、強い症状、治療抵抗性(治療が効きにくい)の経過がある場合には、栄養指導を受けることが勧められています。また、FDと診断された人の中に、回避・制限性食物摂取症(ARFID)が隠れている可能性にも注意を促しています。そのため、FDの食事療法では、「これを食べてはいけない」と一律に制限するのではなく、症状、体重、栄養状態、生活背景を踏まえた個別化した栄養指導を、包括的な治療の一部として組み込む必要があります。

薬物療法・心身医学的治療は症状に応じて選択される

 ドイツDGNMガイドラインでは、FDの治療は、症状のタイプや経過に応じて選択されるものとして扱われています。FDは、胃酸だけで説明できる病気ではありませんし、胃の動きだけで説明できる病気でもありません。そのため、薬物療法についても、すべての患者さんに同じ薬を使うというより、症状の出方を見ながら選択されます。
 ヘリコバクター・ピロリ感染が確認された場合には、除菌療法が行われます。ピロリ菌は胃炎や胃がんリスクとも関係するため、感染がある場合には除菌が基本になります。とはいえ、ピロリ菌が陽性であっても、すべてのFD症状がピロリ菌によって起きているとは限りません。そのため、除菌後も症状が続く場合には、FDとしての治療を継続する必要があります。
 胸やけや酸逆流など、酸に関連する症状が目立つ場合には、PPIやH2受容体拮抗薬など、胃酸を抑える薬が選択肢になります。一方で、酸関連症状が目立たないFDでは、PPIの効果は限定的とされています。
 胃もたれや早期満腹感が中心の場合には、消化管運動改善薬が選択肢になります。ガイドラインでは、メトクロプラミドやドンペリドンなどにも触れられていますが、これらの薬は副作用や長期使用の問題があるため、慎重に扱われます。
 症状が長引く場合や、通常の治療に反応しにくい場合には、神経調整薬が選択肢になります。アミトリプチリン、ミルタザピン、スルピリドなどについての臨床研究が紹介されています。神経調整薬は、FDにおける「胃腸と脳をつなぐ神経系の過敏性」に対して、痛みや不快感の伝わり方を調整する目的で使われます。

 また、ドイツDGNMガイドラインでは、ストレスマネジメント、マインドフルネス、横隔膜呼吸(いわゆる腹式呼吸に近い呼吸訓練)などの心身医学的治療も取り上げられています。これらについては有望な研究がある一方で、効果や長期的な有効性については、まだ十分に確立しているとはされていません。
 加えて、認知行動療法、催眠療法、精神力動的治療などの心理療法も選択肢として扱われています。これは、胃腸症状と不安、緊張、ストレス反応が相互に影響し合うという、腸脳相互作用障害としてのFDの理解に基づくものです。ストレスや不安が症状を悪化させる場合がある一方で、症状が続くことによって心理的負荷が強くなることもあります。

 このように、ドイツDGNMガイドラインでは、薬物療法だけでなく、食事、生活習慣、心身医学的治療を含め、症状や経過に応じて治療を考える方針が示されています。

鍼灸治療はFDに有効である可能性があると記載されている

 ドイツDGNMガイドラインでは、鍼治療についても具体的に扱われています。特に、手技による鍼治療および電気鍼は、FD治療に有効である可能性があると記載されています。これは、FDに対する鍼治療が、ガイドライン内で臨床研究とともに取り上げられていることを意味します。

 ガイドラインでは、Maらによるランダム化比較試験が紹介されています。この研究では、FD患者712人を対象に、鍼治療、シャム鍼、消化管運動改善薬であるイトプリドを用いた薬物対照群が比較されました。治療期間は4週間でした。その結果は、全体奏効率が鍼治療群で70.7%と、比較群より有意に高いものでした。最も効果が小さかったのはシャム鍼群で、34.8%でした。この研究は、FDに対する鍼治療の有効性を示す研究として位置づけられています。
 また、ガイドラインでは、鍼治療による脳活動の変化を調べた研究も紹介されています。その研究では、鍼治療群で脳活動の広範な低下が見られ、その変化が症状改善と相関していたとされています。これは、FDが腸脳相互作用障害であるという考え方とつながります。鍼治療の作用についても、胃の動きだけでなく、内臓感覚の過敏性、脳での感覚処理、自律神経系などとの関係から検討されています。

 一方で、ドイツDGNMガイドラインは、鍼灸研究の限界にも触れています。メタアナリシスでは、手技鍼や電気鍼がFD症状や健康関連QOLを改善する可能性が示されています。しかし、含まれる研究には、症例数の少なさ、鍼治療プロトコルの違い、研究結果に偏りが生じる可能性、盲検化の問題などがあるとしています。また、西洋諸国で行われた研究は少なく、明確な陽性結果が十分に得られていないことから、Cochraneレビューを引用し、手技鍼や電気鍼が他の治療より有効または安全であるかは確実ではないとしています。

 したがって、FDに対する鍼灸治療は、「標準治療に置き換わる治療」としてではなく、「FDの多面的な病態に対する補完的な治療選択肢」として考えるのが適切です。

まとめ

 ドイツDGNMのS1ガイドラインは、機能性ディスペプシアを、胃腸の働き、神経の過敏性、心理的負荷、生活背景が相互に影響し合う「腸脳相互作用障害」として捉えています。そのうえで、薬物療法だけでなく、植物療法、食事、生活習慣、心身医学的治療、鍼治療などを含めて幅広く扱っています。

 特に注目されるのは、STW-5、STW-5-II、ペパーミント油とキャラウェイ油の組み合わせなどの植物療法が、FDに対する第一選択治療として位置づけられていることです。
 また、IBSで知られる低FODMAP食は、FDでは推奨されていません。FDでは、一律の食事制限ではなく、症状、体重、栄養状態、生活背景を踏まえた個別化した栄養指導を、包括的な治療の一部として組み込むことが勧められています。
 さらに、ストレスマネジメント、マインドフルネス、呼吸法、心理療法などを含む心身医学的治療も、FD治療の一部として扱われています。
 鍼治療については、手技による鍼治療および電気鍼が、FD治療に有効である可能性があると記載されています。一方で、研究には症例数の少なさ、鍼治療プロトコルの違い、研究結果に偏りが生じる可能性、盲検化の問題などがあるとされています。

 今回のドイツDGNMガイドラインはS1ガイドラインであり、GRADEに基づく推奨強度を示すものではありません。それでも、FD治療を「胃酸を抑える」「胃を動かす」といった単純な発想にとどめず、腸脳相互作用、食事、植物療法、心身医学的治療、鍼灸を含めて多面的に考えるための実践的な資料といえます。

【参考文献】
Storr M, Andresen V, Frieling T, Gschossmann JM, Keller J, Langhorst J, Pehl C, Stengel A, Tebbe J, Wiemer K, Madisch A, Stengel M. S1 Guideline of the German Society for Neurogastroenterology and Motility (DGNM) on Functional Dyspepsia (FD), a Disorder of Gut-Brain Interaction (DGBI) [English Language Edition]. Gastroenterol Res Pract. 2026 May 5;2026:2610765.

記事カテゴリーについて
過敏性腸症候群(IBS)と機能性ディスペプシア(FD)は別の病気です。どちらも検査で異常が見つからないのに腹部の不快な症状が続く「機能性消化管障害」ではありますが、症状の現れる場所に違いがあり、IBSは大腸を中心とした異常、FDは胃を中心とした異常が特徴となっています。したがって、厳密にはIBSの記事カテゴリーにFDの記事を入れるべきではありません。しかしながら、両疾患は密接に関連しており、お互いに合併しやすい(胃も腸も調子が悪い)傾向があるため、FDの記事をIBSのカテゴリーに入れています。FDについての記事のみをご覧になりたい場合、機能性ディスペプシアのタグページをご参照ください。


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