【最新】機能性ディスペプシアに鍼治療は有効か? ―Liらによる2026年のメタアナリシスを解説―

 胃もたれ、早期満腹感、みぞおちの痛みや灼けるような不快感が続く「機能性ディスペプシア(FD)」。薬で十分に改善しなかったり、症状をくり返したりなどして、生活の質(QOL)が下がっていると感じる方も少なくありません。

 Liらが2026年2月に発表した最新のメタアナリシスでは、23件のランダム化比較試験・2,454人の患者データをもとに、FDに対する鍼治療の有効性と安全性がGRADEアプローチで評価されました。
 その結果、鍼治療は偽鍼や無治療・通常ケアと比較してFD症状やQOLの改善に有望な結果を示し、プロキネティクス(胃腸の動きを促す薬)との比較でもQOL改善が示されました。一方で、不安や抑うつへの効果、薬物療法との使い分けについては、まだ慎重な解釈が必要とされました。

GRADEアプローチ
研究結果の「確かさ」を評価する国際的な方法。
単に「効果があったか」だけでなく、研究の質、結果のばらつき、対象者や治療内容が実際の臨床に合っているか、データの精度などを総合して判断する。
評価は「高」「中」「低」「非常に低」の4段階で示され、「高確実性」であれば、今後の研究で結論が大きく変わりにくい結果と考えられる。一方、「低」や「非常に低」の場合は、今後の研究によって結論が変わる可能性がある。今回のLiらの研究では、FD症状、生活の質、不安・抑うつ、安全性などについて、このGRADEアプローチでエビデンスの確実性が評価されている。

目次

鍼治療の効果は「偽鍼」と比べられた

 今回のLiらの研究で重要なのは、鍼治療を「シャム鍼」と呼ばれる偽の鍼治療と比較している点です。
 機能性ディスペプシアでは、症状がストレスや不安、生活環境の影響を受けやすいため、「鍼治療で改善したと感じるのは、単なる思い込みではないのか」と考える方もいるかもしれません。しかし、今回の解析では、シャム鍼と比較しても、本物の鍼治療はFD症状を改善していました。FD症状については高い確実性、生活の質については中等度の確実性で改善が示されています。
 ここでいうFD症状とは、食後のもたれ、早期満腹感、心窩部痛、心窩部灼熱感などを含みます。つまり、鍼治療は少なくとも「非特異的なプラセボ効果だけでは説明しにくい」結果を示したと考えられます。

無治療・通常ケアとの比較でも症状改善が示された

 鍼治療は、無治療または通常ケアのみの場合と比較しても、FD症状を改善することが中等度の確実性で示されました。
 これは、薬を飲むほどではないけれど胃の不快感が続く方、あるいは病院で検査を受けても明らかな異常が見つからず、経過観察になっている方にとって、鍼灸の受療が選択肢となり得る結果だと言えます。ただし、この比較ではQOLに関する結果の確実性は高くありませんでした。そのため、「無治療と比べて生活の質まで明確に改善する」とまでは言い切れません。
 今回の研究から読み取れるのは、まず「FD症状そのものの緩和」に関して、鍼治療には比較的確かな根拠があるという点です。

胃腸の動きをよくする薬との比較

 機能性ディスペプシアでは、胃の動きを助ける薬として、イトプリド、モサプリド、ドンペリドンなどのプロキネティクスが使われることがあります。これらは、胃の排出や運動機能を助ける目的で用いられる薬です。
 Liらの解析では、鍼治療とこれらのプロキネティクスとの比較も行われました。
 その結果、鍼治療はプロキネティクスと比べて、生活の質を改善する可能性が中等度の確実性で示されました。FD症状そのものについても、薬より改善する可能性が示されていますが、こちらは低確実性のエビデンスにとどまります。
 つまり、薬との比較では「症状改善」よりも、「生活の質の改善」の方が、より確かな結果として示されたと考えるのが適切です。

ここで示された結果は、病院の受診や投薬治療を否定するものではありません。
機能性ディスペプシアは、病院での診断(危険な病気との鑑別)が必須であり、薬物療法が必要な場合もあります。鍼治療は、薬が合わない方、薬だけでは十分に改善しない方、症状をくり返している方にとって、補完的な選択肢の一つとして検討できる可能性があると言えます。

手技鍼と電気鍼に大きな差はあるのか

 鍼治療には、鍼を刺したあとに手で刺激を加える手技鍼と、鍼に微弱な電流を流す電気鍼があります。臨床では、「FDには手技鍼がよいのか」「電気鍼の方が効果的なのか」という点が気になるところです。
 今回のLiらの解析では、手技鍼と電気鍼の間に明確な効果の差は検出されませんでした。これは、「どちらも完全に同じ効果である」と証明されたわけではありませんが、少なくとも今回のデータからは、どちらか一方だけが明らかに優れているとは言えません。
 そのため、実際の臨床では、患者さんの体質、刺激への敏感さ、症状の出方、鍼灸院の設備や施術方針に応じて選択してよいと考えられます。

実際の臨床試験で使われたツボと治療頻度

 今回の研究では、実際の臨床試験で用いられた鍼治療の特徴もまとめられています。
 中心となった経穴は、足三里穴、中脘穴、内関穴などです。いずれも、胃腸症状に対して伝統的に用いられてきた代表的な経穴です。治療頻度としては、週3〜5回、1回20〜30分程度の置鍼を、約4週間行う設定が多く採用されていました。
 日本の鍼灸臨床では、週3〜5回という頻度はやや高く感じられるかもしれません。実際には、患者さんの生活状況や症状の強さ、通院可能な頻度に合わせて調整する必要があります。
 とはいえ、「一定期間、ある程度まとまった頻度で継続する」ことが前提になっている点は、研究上も臨床的にも重要です。FDのように慢性的にくり返す症状では、1回ごとの変化だけでなく、数週間単位で症状の推移を見ていくことが必要になります。

不安や抑うつへの効果は、慎重な解釈が必要

 機能性ディスペプシアは、胃だけの問題ではありません。脳腸相関、自律神経、ストレス反応、睡眠、気分の落ち込みなどが複雑に関係することがあります。そのため、鍼治療が不安や抑うつにも効果を示すのかは、非常に関心の高いテーマです。
 しかし、Liらのメタアナリシスでは、不安や抑うつに対する鍼治療の効果については、データが少なく、結果も一貫していませんでした。エビデンスの確実性は非常に低いと評価されています。
 つまり、今回の研究からは、「鍼治療はFDに伴う不安や抑うつを改善する」と断定することはできません。

【補足】HPA軸に関する基礎研究について

 Liらのメタアナリシスでは、機能性ディスペプシアに伴う不安や抑うつに対する鍼治療の効果は、まだ十分に確かな結論には至っていません。研究数が少なく、結果にもばらつきがあるため、現時点では「胃の症状や生活の質への効果」と同じ強さで語ることができないのです。
 ただし、鍼刺激がストレス反応に関わる可能性を示した基礎研究はあります。Eshkevariらの2013年の研究では、ラットに慢性寒冷ストレスを与え、足三里への電気鍼が視床下部—下垂体—副腎系、いわゆるHPA軸に与える影響を検討しています。
 HPA軸とは、ストレスを受けたときに、脳の視床下部、下垂体、副腎が連動して反応する仕組みです。ストレスが続くと、視床下部からCRH、下垂体からACTHが分泌され、その刺激を受けた副腎から、ラットではコルチコステロン、人間ではコルチゾールに相当する、いわゆるストレスホルモンが分泌され、体を緊張状態に保とうとします。この反応は本来必要なものですが、長く続きすぎると、自律神経の乱れ、睡眠の不調、胃腸症状、気分の不安定さなどと関わることがあります。
 Eshkevariらの研究では、足三里への電気鍼を受けたラットでは、慢性寒冷ストレスによって上昇するACTH、コルチコステロン、CRHなどが抑えられていました。また、この変化は偽の電気鍼ではみられにくく、足三里への刺激に特異的な反応である可能性が示されています。
 もちろん、これはラットを対象にした基礎研究であり、機能性ディスペプシアの患者さんで不安や抑うつが改善することを直接示したものではありません。そのため、「鍼治療で不安や落ち込みが改善する」と断定する根拠にはなりません。しかし、機能性ディスペプシアが脳腸相関やストレス反応と関係する病態であることを考えると、鍼刺激がHPA軸の過剰な反応を鎮める可能性は、今後さらに検討する価値のあるテーマと言えます。

安全性について

 今回の解析では、鍼治療による重篤な有害事象は報告されていませんでした。また、シャム鍼と比較して、有害事象が明確に増える傾向も示されていません。
 この点は、薬の副作用が気になる方や、長期的に薬を続けることに不安がある方にとって、鍼治療を検討する理由の一つになるかもしれません。ただし、鍼治療にも内出血、だるさ、一時的な症状変化、まれな感染リスクなどはあります。安全に受けるためには、衛生管理や説明をきちんと行っている鍼灸院を選ぶことが大切です。
 また、体重減少、吐血、黒色便、強い腹痛、嚥下困難、貧血、発熱などがある場合は、機能性ディスペプシアではなく、別の病気が隠れている可能性もあります。そのような症状がある場合は、まず医療機関での検査が必要です。

まとめ

 Liらの2026年メタアナリシスでは、機能性ディスペプシアに対する鍼治療について、23件のランダム化比較試験・2,454人のデータが検討されました。
 その結果、鍼治療はシャム鍼と比較してFD症状とQOLを改善し、無治療・通常ケアと比較してもFD症状を改善することが示されました。また、プロキネティクスとの比較では、QOLの改善において前向きな結果が示されています。
 一方で、不安や抑うつへの効果はまだ不確実であり、薬物療法との明確な使い分けについても、今後さらに質の高い研究が必要です。

 機能性ディスペプシアは、検査で異常が見つかりにくい一方で、日常生活の質を大きく下げることがあります。薬だけで十分に改善しない方、症状をくり返している方、胃の不調とストレス反応が重なって辛さを感じている方にとって、鍼治療は病院での治療と並行して検討できる補完的な選択肢の一つといえるでしょう。

【参考文献】
Li XX, Hu ZY, Li ZC, Tang J, Liu YY, Zeng DH, Zhou QQ, Ma WB, Lan L, Wang L. Efficacy and safety of acupuncture for functional dyspepsia: an updated meta-analysis of randomized controlled trials. Front Med (Lausanne). 2026 Feb 9;13:1718632.
Eshkevari L, Permaul E, Mulroney SE. Acupuncture blocks cold stress-induced increases in the hypothalamus-pituitary-adrenal axis in the rat. J Endocrinol. 2013 Mar 15;217(1):95-104.

記事カテゴリーについて
過敏性腸症候群(IBS)と機能性ディスペプシア(FD)は別の病気です。どちらも検査で異常が見つからないのに腹部の不快な症状が続く「機能性消化管障害」ではありますが、症状の現れる場所に違いがあり、IBSは大腸を中心とした異常、FDは胃を中心とした異常が特徴となっています。したがって、厳密にはIBSの記事カテゴリーにFDの記事を入れるべきではありません。しかしながら、両疾患は密接に関連しており、お互いに合併しやすい(胃も腸も調子が悪い)傾向があるため、FDの記事をIBSのカテゴリーに入れています。FDについての記事のみをご覧になりたい場合、機能性ディスペプシアのタグページをご参照ください。


費用

会員施術料 4,950円
一般施術料 6,600円
初回料別途 2,200円

その他オプション・割引あり
初回60~90分程度
2回目以降45分程度

さらに詳しく

予約

059-256-5110
営業電話は固くお断りします

月~金 9時ー21時
 土  9時ー15時
日曜休業・祝祭日不定休

ウェブ予約
予約ページは新しいタブで開きます
免責事項にご同意のうえ、ご予約ください

同業者(療術業を含む)の予約はお受けできかねます

免責事項

 鍼による施術は痛みや出血を伴う場合があります。また、以下のような場合、施術による変化が現れにくかったり、症状の“もどり”が早かったり、施術期間が⻑期に及んだり、施術することをお断りしたりすることがあります。鍼にはネガティブな側⾯があり、万能でもないことをご承知おきください。

構造上の問題による痛み
重篤な疾患による痛み
強⼒なあるいは多種の薬剤服⽤
⾼齢・衰弱による⽣理機能の低下
取り除けない物理的刺激要因
各種⼼理的要因

さらに詳しく

アクセス

〒514-1105 三重県津市久居北口町15-7
近鉄久居駅より徒歩15分/伊勢自動車道久居ICより車で5分
駐車スペース常時2台分あり
※看板がありませんのでご注意ください

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次