妊活や不妊治療について調べていると、「子宮内フローラ」「腟内フローラ」「ラクトバチルス」「ラクトフェリン」「腸活」といった言葉を見かけることが増えました。
子宮内や腟内の細菌環境が、着床や妊娠の成立と関係する。
腸内環境を整えることで、妊娠しやすい体づくりにつながる。
こういった考え方は、決して根拠のない話ではありません。とはいえ、鵜呑みにはできない部分もあります。
たしかに、子宮内フローラや腟内フローラは、妊娠や胚移植成績との関連が研究されているテーマのひとつです。しかし現段階では、フローラ検査で示される菌の割合をそのまま妊娠しやすさ・着床しやすさの指標とするには限界があります。ましてや、市販のサプリメントによってフローラが整い、妊娠率・着床率・生児獲得率が上がると断定するには、さらに慎重にならざるを得ません。
今回は、ラクトバチルス、ラクトフェリン、食物繊維、発酵代謝物系サプリなどについて、なるべく新しい文献から情報を拾って解説します。なお、実際に楽天やAmazonなどで見かける製品名にも触れますが、そこに妊活サプリ販促の意図はありません。あくまで本記事の目的は「検索結果や製品説明に振り回されないための注意書き」であり、一部含まれるアフィリエイトリンク付きの画像は「挿絵」と捉えてください。
本記事は、医療機関での乳酸菌製剤やサプリメントに関する患者への提案を批判するものではありません。
子宮内フローラ・腟内フローラとは何か
腟内には、もともと多くの細菌が存在しています。健康な腟内環境では、ラクトバチルス属の細菌が優位である(多数を占める)ことが多く、乳酸を産生して腟内を酸性に保ちます。この酸性環境は、病原性のある細菌が増えにくい状態をつくると考えられています。
一方、子宮内は長い間「無菌」と考えられてきました。しかし近年、細菌のDNAをまとめて読み取る解析技術、いわゆる次世代シーケンサーによって、子宮内膜にもごく少量の微生物が存在する可能性が示されるようになりました。
以上のような、「多様な細菌の集まり」を指してフローラと呼びます。細菌叢(さいきんそう)と訳されることもあります。
子宮内フローラという言葉は、厳密には子宮内膜に存在する微生物集団そのもの(マイクロバイオータ)を指す場合もあれば、微生物集団の働きや周囲の環境まで含めた意味合い(マイクロバイオーム)に近い使われ方をする場合もあります。この記事では、一般的な読みやすさを優先して「子宮内フローラ」「腟内フローラ」という言葉を使いながら、必要に応じて「細菌の集まり」「細菌環境」と言い換えて説明しています。
2026年にHiratsukaらがFertility and Sterilityに発表した総説では、腟や子宮内などの細菌環境が、慢性子宮内膜炎、反復着床不全、PCOS、子宮内膜症、妊娠転帰などと関連する可能性が示されています。
つまり、子宮内フローラ検査で示される菌の割合が、妊娠や着床と関連する可能性があるというのです。
とはいえ、検査の数値だけで個々の妊娠しやすさを判断するには限界があります。子宮内は微生物の量が非常に少ないため、検体を採取するときに腟や頸管の菌が混じるだけでも、結果の解釈に影響することがあります。さらに、採取した箇所による違い、検査方法の違い、月経周期や治療周期による変動もさることながら、そもそもフローラの乱れそのものが着床しにくさの原因なのか、慢性子宮内膜炎など別の状態に伴う結果なのかも、まだ十分には分かっていません。(慢性子宮内膜炎自体が、着床不全の原因となり得る)
Lactobacillusが多いと妊娠しやすいのか
子宮内フローラや腟内フローラの研究でよく出てくるのが、Lactobacillus、いわゆるラクトバチルスです。
Buiらの2023年研究では、初回のIVF/ICSI周期が不成功だった141名を対象に、子宮内膜の細菌の集まり(子宮内膜マイクロバイオータ)と、その後12か月以内の生児出生との関連が調べられました。
その結果、生児出生に至った群では、Lactobacillus crispatus(ラクトバチルス・クリスパタス)の相対存在量が高い傾向が示されました。
これは大変興味深い結果ではあるのですが、

じゃあ、ラクトバチルスを摂れば妊娠・出産できるんだ
と言えるほど単純な話でもありません。
それは、「Lactobacillus crispatusが多い人で生児出生が多かった」という関連と、「ラクトバチルスを補えば生児出生率が上がる」という介入効果とが、別の文脈の話だからです。
「関連」から「介入効果」に関する仮説は立ちますが、後者を科学的根拠に基づく事実として語るのであれば、ラクトバチルスを補う介入を行い、妊娠率、着床率、生児獲得率が改善するかを検証する必要があります。また、サプリメントの商品説明においては、しばしば「フローラを整える」「環境をサポートする」という表現が使われますが、そういった謳い文句も「妊娠率や生児獲得率が改善する」ことを担保するものではありません。
反復着床不全において、フローラ検査はどう扱われているか
反復着床不全とは、体外受精・顕微授精で良好な胚を複数回移植しても、妊娠判定陽性に至らない状態を指します。このような場合、胚側の要因だけでなく、子宮内膜側の要因も検査対象となります。子宮の形態、子宮内膜の厚さ、慢性子宮内膜炎の有無などと並んで、子宮内や腟内にどのような菌が、どのくらいの割合で検出されるかを調べる「フローラ検査」も検討されています。
そのようななか、ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)の2023年の反復着床不全に関する実践的提言(Good Practice Recommendations:GPR)では、子宮内や腟内のフローラ検査を日常的に行う検査として推奨していません。
提言では、フローラ検査が日常的に推奨されていない理由として、検査方法や採取方法が標準化されていないことや、月経周期やIVF治療中に菌の割合が変動する可能性があること。また、フローラの乱れそのものが着床しにくさの原因なのか、慢性子宮内膜炎など別の状態に伴う結果なのかが、まだ十分に分かっていないこと。そして、検査結果に基づいて抗菌薬やプロバイオティクスなどで介入した場合に、妊娠率や生児獲得率が改善するかどうかも、研究で十分には示されていないことなどの課題が挙げられています。
つまり、反復着床不全におけるフローラ検査は、研究上の重要なテーマではあるものの、現時点では日常的に行う検査として推奨されているわけではなく、検査結果を妊娠しやすさの判断や治療方針にそのまま結びつけるには、まだ課題が残されている領域であると言えます。
腟プロバイオティクスの研究では何が分かっているか
ラクトバチルスを補う腟プロバイオティクスではどのようなことが分かっているのでしょうか。
プロバイオティクスとは、乳酸菌など、体に有益に働くことを期待して摂る生きた菌のことです。妊活や不妊治療の分野では、腟内にラクトバチルスを補う製品や、口から摂取する乳酸菌製品などが話題になります。
Thanaboonyawatらの2023年のランダム化比較試験では、凍結融解胚移植を受ける女性を対象に、腟内ラクトバチルス補充群と通常治療群が比較されました。
この研究では、腟内ラクトバチルス製剤を6日間使用してから胚移植を行っています。研究全体では、生化学的妊娠率や臨床妊娠率に明確な差はありませんでした。一方で、流産率は腟内ラクトバチルス補充群で低い結果でした。
さらに、胚盤胞移植を受けた206名を対象としたサブグループ解析では、生児獲得率が腟内ラクトバチルス補充群で高く、流産率は低い結果でした。ここでいう胚盤胞移植サブグループは、グレード4BB以上の5日目胚盤胞を移植した人たちです。
ただし、この研究は反復着床不全の患者さんを対象にした研究ではありません。むしろ、良好胚を3回連続で移植しても着床しなかった女性は除外されています。
したがって、この結果をもとに「反復着床不全の方に、腟内ラクトバチルス補充をおこなうこと生児獲得率が上がる」と言うことはできません。また、胚盤胞移植サブグループの結果は、研究全体の主要評価項目ではなく、一部の条件に合う人だけを取り出した解析です。
また、Maleki-Hajiaghaらの2025年のシステマティックレビュー・メタ解析では、胚移植前の腟プロバイオティクスに関する6研究850名が解析されました。
臨床妊娠率は増加傾向でしたが、有意差はありませんでした。生化学的妊娠率、継続妊娠率にも有意差はなく、流産率は低下傾向でしたが、こちらも有意差はありませんでした。着床率や生児獲得率については、十分に解析できるデータが限られていました。つまり、すべての結果において、「偶然で片付けられないほどの差」は出てないか、そもそも解析できるほどのデータが足りないかだったわけです。
現時点で言えるのは、腟プロバイオティクスは有望な補助介入として研究されているものの、胚移植成績を明確に改善すると結論づけるには不十分ということです。特に、反復着床不全に対する効果や、生児獲得率への影響については、対象者を絞った質の高い研究が待たれる状況と言えます。
日本でも、子宮内フローラ検査の結果や治療経過に応じて、抗菌薬治療のあとに腟内プロバイオティクスや乳酸菌製剤を用いることがあります。また、市販されている腟剤のなかには、抗菌を目的とするものではなく、腟内にラクトバチルスを直接補うことを目的とした製品もあり、そうした製品を医療機関で取り扱っている例もあります。
一方で、徳島生殖医療研究室が公開している患者向けQ&Aでは、日本生殖医学会の「生殖医療ガイドライン」を参照し、子宮内細菌叢のラクトバチルス属が少ない場合に、抗菌薬や乳酸菌製剤などで改善を試みることはあるものの、明らかに有効とされる治療法はまだないと説明されています。
ここで重要なのは、製品そのものよりも、製品が選択される状況です。医師が検査結果、治療歴、慢性子宮内膜炎や細菌性腟症の有無、胚移植の経過などを踏まえて使用を提案する場合と、患者自身が販売ページや商品説明だけを見て選ぶ場合とでは、判断の重みが違います。
子宮内フローラの視点から見た妊活サプリ
ここからは、実際に市販されている腟剤や経口サプリメントをいくつか見ていきます。
ラクトバチルス、ラクトフェリン、食物繊維、発酵代謝物など、様々な言葉が出てきて、どれも「フローラ」「腸活」「妊活」と組み合わせて語られやすいものです。耳あたりが良くていかにも効きそうで、期待せずにはいられません。
しかし、すでに述べてきたとおり、この場で製品が紹介されていること・医療機関で扱われること・販売ページに「フローラを整える」「環境をサポートする」と書かれていることは、その製品で妊娠率・着床率・生児獲得率が改善することを示すものではありません。
ラクトバチルスを直接補う製品
例としては、ラクトフローラフォルテ、ユテラ、その他の女性用プロバイオティクス製品があります。
この商品群は、理論的には腟内フローラにもっとも近い介入です。ラクトバチルスを直接補うという考え方なので、説明としては分かりやすいでが、腟内にラクトバチルスを補ったからといって、子宮内膜の菌の状態が安定して変化するとは限りません。さらに、妊娠率や生児獲得率が上がるかどうかとなると、もう一段階先の問題です。
ラクトフェリン系製品
例としては、Varinos系のラクトフェリン製品、ラクトフェリンプレミアム、ラクトフローラシナジーなどがあります。
ラクトフェリンは菌そのものではありません。鉄と結合するタンパク質で、病原菌の増殖抑制や、乳酸菌が働きやすい環境づくりに関わる可能性が研究されています。つまり、ラクトフェリン系のサプリメントは、「乳酸菌優位の環境づくりに関わり得るもの」といった位置づけとなります。
プレバイオティクス・食物繊維系
例としては、PHGG、イヌリン、オリゴ糖などがあります。
プレバイオティクスとは、腸内細菌のエサになる成分のことです。食物繊維やオリゴ糖などが代表例で、主に腸内細菌叢を意識したものです。商品説明では、腸内環境、短鎖脂肪酸、腸管バリア、免疫調整といった言葉と一緒に語られることがあります。
腸内細菌叢と生殖機能を結びつけるものとして、「腸-子宮軸」「腸-卵巣軸」といった見方も研究されています。とくにPCOSでは、腸内環境と排卵、卵巣機能、インスリン抵抗性、慢性炎症との関わりが注目されています。
とはいえ、①特定の成分を摂取することで腸内環境に変化が起き、子宮内フローラも改善すること。②子宮内フローラが改善することで、着床率や生児獲得率が上昇すること。さらに、③特定の成分が含まれた「製品」を飲むことで、①と②の変化が実際に起こること。これら三つの現象は、それぞれ別の段階の話です。製品固有に「子宮内フローラ改善」「着床率改善」「生児獲得率改善」を示した臨床試験があるかどうかは、“いかにも良さげな”商品説明とは、はっきりと分けて考える必要があります。
発酵由来成分・乳酸菌生産物質系
例としては、クロノーブ、アルベックス、ラクティス、智通、ビオネ、MREビオスなどがあります。
この系統の製品では、「乳酸菌生成エキス」「乳酸菌生産物質」「発酵代謝物」「発酵分解物」など、少しずつ違う言葉が使われます。菌そのものを摂るというより、菌が作った成分や、発酵によって生じた成分を利用する考え方です。
発酵代謝物系の製品では、「体に良さそう」「腸によさそう」という印象が先行しやすいですが、プレバイオティクス・食物繊維系と同様に、腸内環境に関わる可能性があることと、子宮内フローラが改善すること、さらに着床率や生児獲得率が上昇することとは別の問題です。これらの製品の摂取が、妊娠率や生児獲得率を高める方法として確立しているわけではありません。
まとめ
子宮内フローラや腟内フローラは、妊娠や胚移植成績との関連が研究されている重要なテーマです。
Lactobacillus、とくにLactobacillus crispatus(ラクトバチルス・クリスパタス)が多い細菌環境と、良好な生殖成績との関連を示す研究もありますが、現時点では、フローラ検査の結果に基づいて介入すれば、妊娠率・着床率・生児獲得率が改善すると明言できる段階ではありません。
反復着床不全の領域でも、子宮内や腟内のフローラ検査は日常的に行う検査として推奨されているわけではなく、ラクトバチルス製剤、ラクトフェリン、食物繊維、発酵由来成分なども、標準治療として確立しているものではないというのが現状です。
一方で、子宮内フローラの問題に対して、医療機関で乳酸菌製剤やラクトフェリンなどが提案されることもあります。しかしそれは、妊娠率を改善する標準治療として確立しているからではありません。検査結果や治療歴から、細菌環境や炎症が関与している可能性を考え、標準的な不妊治療を妨げない範囲で、補助的に試す余地があると判断されるためです。
市販されている妊活サプリには様々な種類があり、なかには医療機関で取り扱っているものもあります。ただし、医療機関で検査結果や治療経過を踏まえて提案される場合と、販売ページの商品説明だけを見て自己判断で摂取する場合とを、同じ重みでは扱うことはできません。
自己タイミング中の方が、「子宮内フローラが悪いかも」「慢性子宮内膜炎かも」「反復着床不全かも」などと自己判断してサプリメントに手を出すことはお勧めしません。それらの状況を判断するのは医療機関の役割です。一般的に、避妊せずに性交をして1年、35歳以上では半年たっても妊娠しなかった場合が、医療機関を受診する目安です。月経不順や強い生理痛など体に不安がある場合は、この期間を待たず、妊娠を望んだ時点で早めに婦人科や生殖医療を専門とする医療機関に相談してください。
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Bui BN, van Hoogenhuijze N, Viveen M, Mol F, Teklenburg G, de Bruin JP, Besselink D, Stevens Brentjens L, Mackens S, Rogers MRC, Steba GS, Broekmans F, Paganelli FL, van de Wijgert JHHM. The endometrial microbiota of women with or without a live birth within 12 months after a first failed IVF/ICSI cycle. Sci Rep. 2023;13:3444.
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