妊活がもたらすセックスレスの原因と対策 ―性交頻度と妊孕性の関係から考える夫婦の選択―

 不妊治療に取り組む夫婦の中で少なくないのが「セックスレス」という現実。性交の頻度が下がることは妊娠率を大きく左右します。本記事では、セックスレスに陥る原因と性交頻度と妊孕性(妊娠する能力)の科学的な関係を整理し、その対策や支援のあり方を考えます。

三重県津市の鍼灸院「じねん堂はり灸治療院」では、不妊に対する鍼灸施術について【こちらのページ】で詳しくご案内しています。

目次

不妊治療とセックスレス問題:日本の現状

 日本の夫婦は性交頻度が国際的に見ても低く、不妊治療中の事例ではさらに顕著であると言われています。まずは国内の現状と国際比較から、この問題の輪郭を見てみましょう。

日本におけるセックスレス率と不妊治療中の夫婦における実情

 日本は世界的に見てもセックスレス率が高い国とされています。国立社会保障・人口問題研究所の「全国家庭動向調査」では、既婚カップルの約3分の1が「1か月以上性交がない」状態にあると報告されており、特に30~40代で高い割合を示しています。
 不妊治療に取り組む夫婦に目を向けると、状況はさらに複雑です。白井(2007)の質的調査では、不妊治療の過程で性生活の頻度が低下し、セックス自体が「苦痛」や「義務」として捉えられるようになる事例が多く報告されました。妊娠を望むからこそ始めた治療が、かえってセックスレスを加速させてしまうという逆説的な現実があります。

セックスレスの定義と国際的な比較

 日本性科学会は「カップルの合意した性的接触が1か月以上ない状態」をセックスレスと定義しています。これは国際的な基準と大きくは変わりませんが、日本ではこの割合が欧米諸国よりも顕著に高いことが特徴です。
小西(2020)の研究では、日本人カップルの性交頻度は中央値で月3回にとどまり、米国の同様の調査(中央値で月6回程度)と比較すると半分程度しかないことが示されました。つまり、日本の夫婦は世界的に見ても性交頻度が低く、その背景には社会的要因、働き方、性に対する文化的価値観が関与していると考えられます。不妊治療中の夫婦では、この傾向がさらに強まっている可能性があります。

不妊治療が夫婦の性生活に与える影響

 排卵日の指定や医療的介入は、性生活を「自然な営み」から「義務」へと変えてしまいます。この章では、ストレスや役割の違いが夫婦関係にどう影響するのかを整理します。

治療ストレスと心理的負担(排卵日へのプレッシャー・義務化の影響)

 不妊治療の第一歩として多くのカップルが取り組む「タイミング法」では、排卵検査薬や超音波診断によって排卵日が特定され、その日に性交を持つよう指示されます。これにより性生活が「自然な営み」ではなく「医療的に管理された行為」として受け止められやすくなります。

 白井(2007)の調査では、夫婦が口にした言葉の中に「セックスが楽しみではなく、義務のようになった」「失敗したときに責任を感じる」といったものがありました。これは性交を「生殖のためのタスク」として認識させ、親密さや喜びを奪ってしまう大きな要因です。

 Petersonら(2003)は、不妊関連ストレスの受け止め方が夫婦で一致しない場合に夫婦関係の満足度が下がると報告しています。妻が「失敗の原因は自分にある」と強く感じる一方で、夫は「妻のストレスを理解できない」といった構造が生まれ、性生活を避ける方向へ働いてしまいます。

医療介入(精液検査・人工授精・採卵手順)が男性心理に与える影響

 不妊治療は女性にとっては採卵やホルモン注射など身体的負担が大きいものですが、男性にとっても「性的行為が医療に組み込まれる」という心理的負担を伴います。精液検査や人工授精に伴う採精は、しばしば羞恥や屈辱感を伴い、「自分が“生殖機能だけの存在”にされたように感じる」という声が聞かれます。

 Boseら(2021)の研究では、インドの原発性不妊カップル100組を対象に調査を行い、女性の方が社会的・性的な不安を強く抱く一方で、男性も性的満足度の低下やプレッシャーを経験していることが明らかになりました。つまり、医療介入は夫婦双方に異なるストレスを与え、それが性生活の質に影響するのです。

仕事・生活リズムの変化によるすれ違い

 不妊治療は多くの通院を必要とし、排卵日や採卵日には夫婦の生活スケジュールを医療に合わせなければなりません。これが仕事や生活リズムに干渉し、疲労感や「生活が治療に支配されている」という感覚を生みます。

 Schmidtら(2005)のデンマークにおける大規模調査では、不妊は確かに夫婦間の緊張を高めるが、一部のカップルでは逆に「共に困難を乗り越える経験」として結束を強めることもあると報告されています。すなわち、不妊治療が性生活にマイナスの影響を及ぼすかプラスに働くかは、夫婦のコミュニケーションと相互支援の度合いに依存しているのです。

性交頻度と妊孕性の科学的関係

 性交の回数と妊娠のしやすさには密接な関連があります。国内外の研究をもとに、「性交不足」がなぜ妊娠率を下げるのかを科学的に解説します。

性交頻度が妊娠可能性に直結するエビデンス

 性交頻度と妊娠率の関係は、多くの疫学研究で繰り返し検証されています。ASRM(2017)は「妊娠を希望するカップルは2~3日に1回の性交が最も効率的」と明記しています。性交が少なすぎると、排卵のタイミングを外す可能性が高まり、妊娠成立のチャンスが減ってしまうのです。

 Wilcoxら(1995, NEJM)は625の妊娠サイクルを分析し、妊娠率が最も高いのは排卵日の2日前と前日であることを示しました。逆に、排卵後に性交した場合の妊娠率は急激に低下します。さらにWilcoxら(1998, Hum Reprod)は、卵子が排卵後に急速に老化し、受精能を失うことを報告しました。
 つまり、性交頻度が低いと、「限られた受精可能な期間」を逃すリスクが高まり、妊孕性を大きく低下させてしまうと言えるのです。

日本人カップルにおける性交頻度と妊娠成立率の研究

 小西(2020)は、日本人カップル80組を対象に、性交頻度と妊娠確率に関する前向きコホート研究を行いました。その結果は、次のようなものでした。

  • 参加者の性交頻度は、中央値で月3回にとどまった。
  • 319周期のうち、18%の周期では排卵期に性交が一度もなかった
  • 排卵期の性交回数が多いカップルは、少ないカップルに比べて妊娠できる確率がおよそ1.7倍高かった(性交頻度が高いほど妊娠率が上昇し、性交回数が妊孕性に直接影響する)

 この結果は、日本の低い出生率の背景の一つに「性交頻度の低さ」がある可能性を示唆しています。

セックスレス・性交不足が不妊原因となるメカニズム

 性交不足は単なる心理的・文化的問題ではなく、生物学的に妊娠成立を阻害します。卵子の寿命が短いこと(Wilcox 1998)や、精子の受精能にも時間的制約があることからも、性交頻度が少ないほど「妊娠可能なタイミング」を逃しやすいことは明らかです。
 加えて、性交不足は「治療のために性交をする」というプレッシャーを強め、心理的ストレスを増幅させます。こうして「性交が減る→妊娠できない→さらに性交が減る」という悪循環が形成されやすいのです。

夫婦でできる対策と支援

 セックスレスを改善するには、ただ回数を増やすのではなく、夫婦の関係を再構築する工夫が必要です。コミュニケーションや専門家の支援方法を紹介します。

セックスレス改善のための夫婦間コミュニケーション

 Petersonら(2003)は、夫婦が不妊ストレスをどう認識するかが一致している場合、夫婦関係の満足度が高いと報告しました。逆に認識がズレると、性生活の回復が難しくなります。互いの気持ちを言葉にして共有することが、性生活改善の第一歩です。

性生活以外での親密さを回復する方法

 白井(2007)のインタビューでは「性交自体が苦痛」という声が少なくありませんでした。この場合、スキンシップや共通の趣味、旅行など「性交以外の親密さ」を大切にすることが有効です。性生活の回復は段階的に行うべきであり、親密さを取り戻すことが結果的に性生活改善につながります。

専門家(カウンセラー・性機能外来・不妊カウンセリング)への相談

 Bose(2021)は、不妊関連ストレスが生活の質(QoL)を著しく低下させることを報告しました。心理的サポートや性機能外来での相談は、性交回数を増やすだけでなく、性生活を「楽しめるもの」として取り戻すために重要です。不妊カウンセラーや精神科・心理士が関与することも有効と考えられています。

 もっとも、すべての不妊クリニックにカウンセラーが常駐しているわけではありません。そのような場合には、外部の公的・民間の相談窓口を活用することも一つの手段です。たとえば、三重県が設けている「三重県不妊専門相談センター」では、助産師・看護師・不妊カウンセラー(女性)による電話相談や面接相談のほか、「おしゃべり会(当事者交流会)」も行われています。全国的には「NPO法人Fine」がピア・カウンセリング(当事者同士の相談)を電話やオンラインで提供しており、匿名・無料で利用できる窓口も用意されています。
 こうした窓口を活用することで、通院先に相談制度がなくても安心して悩みを共有でき、心理的負担を軽減することができます。

未来を見据える ― 治療と夫婦関係の両立

 不妊治療は夫婦の人生に大きな選択を迫ります。子どもを持つか否かにかかわらず、セックスレスを乗り越えることの意味と夫婦の未来について考えます。

子どもを持つ選択と、持たない選択

 不妊治療を続けるかどうかは夫婦にとって大きな決断です。Schmidtら(2005)は、不妊が夫婦にストレスを与える一方で、共同で困難に立ち向かう経験として関係を強化することもあると報告しました。子どもを持つ選択だけが夫婦の価値を決めるものではなく、「持たない選択」もまた尊重されるべきです。

セックスレスを乗り越えることの意味

 性交の回数を増やすことは妊娠のためだけではありません。夫婦としての親密さを回復し、人生の質を高めるためにも重要です。性交の頻度と妊孕性の関係は科学的に明らかですが、それ以上に大切なのは「夫婦がともに納得できる関係性を築けるかどうか」であると思われます。

結論:性交の回数だけでなく「夫婦の関係性」を大切に

 性交頻度の低下が妊孕性を確実に下げることは、多くの研究で証明されています。ASRM(2017)のガイドライン、小西(2020)の日本人カップル調査、Wilcoxらの古典的研究は、その事実を強固に裏付けています。
 一方で、不妊治療に伴うストレスや医療介入が性生活を奪い、セックスレスを引き起こす現実もあります。重要なのは性交回数を「義務」として増やすのではなく、夫婦としての関係性を大切にしながら、必要に応じて専門家の支援を受けることです。

「妊娠」という目標と「夫婦の生活の質」を両立させることこそが、妊活を続けるうえでの鍵と言えるでしょう。

【参考文献】
Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine in collaboration with the Society for Reproductive Endocrinology and Infertility.. Optimizing natural fertility: a committee opinion. Fertil Steril. 2017 Jan;107(1):52-58.
Wilcox AJ, Weinberg CR, Baird DD. Timing of sexual intercourse in relation to ovulation. Effects on the probability of conception, survival of the pregnancy, and sex of the baby. N Engl J Med. 1995 Dec 7;333(23):1517-21.
Wilcox AJ, Weinberg CR, Baird DD. Post-ovulatory ageing of the human oocyte and embryo failure. Hum Reprod. 1998 Feb;13(2):394-7.
Konishi S, Saotome TT, Shimizu K, Oba MS, O’Connor KA. Coital Frequency and the Probability of Pregnancy in Couples Trying to Conceive Their First Child: A Prospective Cohort Study in Japan. Int J Environ Res Public Health. 2020 Jul 10;17(14):4985.
白井千晶. 不妊当事者が抱えるセクシュアリティの問題. ジェンダー研究: お茶の水女子大学ジェンダー研究センター年報. 2007;10:75–90.
Bose S, Roy B, Umesh S. Marital Duration, and Fertility-Related Stress as Predictors of Quality of life: Gender Differences among Primary Infertile Couples. J Hum Reprod Sci. 2021 Apr-Jun;14(2):184-190.
Peterson BD, Newton CR, Rosen KH. Examining congruence between partners’ perceived infertility-related stress and its relationship to marital adjustment and depression in infertile couples. Fam Process. 2003 Spring;42(1):59-70.
Schmidt L, Holstein B, Christensen U, Boivin J. Does infertility cause marital benefit? An epidemiological study of 2250 women and men in fertility treatment. Patient Educ Couns. 2005 Dec;59(3):244-51.


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