一般的に、「反り腰は腰痛になりやすい」と言われています。たしかに、腰が反っていると、いかにも腰の筋肉に負担がかかっていそうな印象を受けます。
その一方で、「反り腰と腰痛とは無関係である」という意見も存在します。この見解は、Hanssonらによる1985年の研究を根拠とすることが多いようです(※出典が異なる場合はご容赦ください)。この研究では、腰痛のある人と腰痛のない人それぞれ200人ずつを対象に腰椎前弯の角度(いわゆる腰の反り具合)を計測した結果、各グループ間に有意な差は見られなかったと報告されています。つまり、データ上は「腰が反っている=腰痛になる」とは言えないということなのです。
しかし、本当に「反り腰と腰痛はまったく無関係」と言い切ってしまってよいのでしょうか。
母集団の構成に注目してみる
例えば、Fujiiらが日本全国の20~79歳・65,496名を対象に行った調査によれば、「過去4週間で腰痛があった人」の割合(有病率)は36%とのこと。つまり、ここ4週間で腰痛を感じた人は23,579名である一方、腰痛のない人は、腰痛がある人の倍近く存在していることになります。
Hanssonらの研究では、腰痛の有無にかかわらず200人ずつを抽出して比較していますが、元の母集団では「腰痛なし」の人数のほうが圧倒的に多いいう背景が推察できます。もちろん、標準的な研究設計であれば、サンプル抽出にバイアス(調べ方や対象の選び方が偏ってしまい、結果がゆがんでしまうこと)がないように調整されていると考えるべきですが、同時に次のような疑問も浮かんできます。

腰痛のある人が腰痛を発症する前の腰の反り具合はどうだったの?
時系列に着目した仮説──反りの変化と腰痛の出現
Hanssonらの研究は横断的な設計(cross-sectional study)であり、腰痛と腰椎前弯角の“同時点”での関連性を評価したものです。しかし、「腰痛の発症前に腰の反りに変化があったかどうか」という時間的な因果関係を評価するには、縦断研究(longitudinal study)のアプローチが必要になります。
たとえば、腰に反りのなかった人が何らかの要因で反り腰気味になったときに腰痛を発症しやすいのか、あるいは、もともと腰椎前弯(腰の反り)が大きい人がさらに反ることで腰痛を起こすのか。このような変化を追跡していく研究が求められます。
以下の模式図(※あくまで仮想です)は、そのような視点からの「仮説」を視覚的に表現したものです。


上の2本の棒グラフは、大勢いる“腰痛なし”の集団と、それよりも少ない“腰痛あり”の集団から同数(各200人)を抽出して比較した構成を示しています。灰色が母集団、色付き部分(茶:反りなし、緑:反りあり)は抽出されたサンプルです。ここでは、「反りなしと反りありの割合は腰痛の有無にかかわらずほぼ同じ」というHanssonらの研究結果を再現しています。
ここで注目したいのは一番下の棒グラフです。これは“腰痛あり”とされた人々が、腰痛を発症する前にどのような腰椎前弯状態だったかを仮定したものであり、仮にこの段階(腰痛なし)で“反りなし”だったものが、“腰痛あり”となった際に“反りあり”に変化していたとすれば、腰椎前弯と腰痛との関連が浮かび上がる可能性もあるのでは……ということを表しています。いわゆる思考実験です。
もちろんこの図は、実際のデータに基づくものではなく、完全に仮説(仮想)です。しかし、こうした可能性をまったく検証しないまま「反り腰と腰痛は無関係」と断定するのは、やや早計ではないかと感じます。
臨床から見える“反り”と“腰痛”との関係
実際、私自身の臨床経験でも、腰の“反り”と“痛み”の間に関連があると思われる事例にたびたび遭遇します。
たとえば、足の付け根に伸縮性のあるベルトを内側から外側に向かって強く巻いた場合、ベルトの戻る力で太腿が内旋(内また)方向に引っ張られ、結果、腰椎前弯(=反り)が増強することがあります。このとき、腰部に鈍痛や張りを訴えるケースがあるのです。さらにここで、ベルトの巻き方を逆向き(外側から内側)に巻くと、骨盤の前弯が少なくなり、腰痛も軽減するという現象が起きます。
以下に実際の写真をお示します(「下肢への加圧ベルト装着により発生する腰部愁訴について(2007)」の画像)。真ん中が内から外に向かった巻いた場合で、左側は外から内に向かって巻いた場合です。
同じ人物であっても、力の加わり方や支持方向によって腰椎前弯が明確に変化することが分かります。


このような例を見ると、「腰が“構造的に反っているか”」ではなく、“反るような力が加わっているか”や“反る方向への緊張が持続しているか”といった“機能的な反り”が、腰痛に影響している可能性も考慮すべきだと感じます。
まとめ:反り腰と腰痛の関係は“無関係”とは言い切れない
私の臨床経験上、「反り腰」(=腰椎前弯の増強、あるいは反る方向への持続的なストレス)と腰痛との間には、少なくとも無関係とは言い切れない関連があるように感じられます。
腰が反ることによって腰痛や腰部の違和感が引き起こされる現象は、「事例紹介」のページにある「ぎっくり腰(腰痛、お腹の奥の方の痛み)」も該当します。さらに、過去には同様の現象に対する施術についての学会発表も行っています(「不適切な運動療法が症状を長引かせた2症例(2014)」)。
たとえ「反り腰」が“原因”とは断言できなくても、“発症に関与する因子”としての可能性を、あらためて縦断的に検証する価値は十分にあるのではないかと、じねん堂は考えています。
【参考文献】
Hansson T, Bigos S, Beecher P, Wortley M. The lumbar lordosis in acute and chronic low-back pain. Spine (Phila Pa 1976). 1985 Mar;10(2) 154-155.
Fujii T, Matsudaira K. Prevalence of low back pain and factors associated with chronic disabling back pain in Japan. European Spine Journal. 2013;22(2):432-438.




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