卵巣予備能低下(DOR)に鍼治療は有効? ―2026年最新RCTから見えたこと―

 AMHが低いと言われた。
 卵巣予備能が低下しているかもしれないと言われた。
 採卵に進んだとき、どのくらい卵が採れるか不安。
 病院での不妊治療を受けているかたが、こうした悩みをきっかけに鍼灸の受療を検討されることは珍しくありません。

 2026年4月、Wangらによって、卵巣予備能低下(DOR)の女性を対象に、本物の鍼治療と偽の鍼治療(シャム鍼)の効果を比較したランダム化比較試験が発表されました。この研究では、AFC(胞状卵胞数)の値では本物の鍼治療群がシャム鍼群より大きく改善した一方、AMHやFSHでは両群の差が明確ではありませんでした。

 今回は、Wangら(2026)の研究を紹介したうえで、前回紹介した Su ら(2026)の POR (卵巣反応不良)研究との興味深い共通点や違いについても触れてみたいと思います。

AFC(胞状卵胞数)
AFCは、月経初期の超音波検査で見える2〜9mm程度の卵胞数のことです。日本では AMH のほうが広く知られていますが、AFC も卵巣予備能をみる重要な指標です。Wang らの試験では、この AFC が主要評価項目に置かれました。

目次

卵巣予備能低下(DOR)とはどんな状態か

 卵巣予備能低下(DOR)とは、卵巣予備能が年齢相応に期待される平均的な値よりも低下している状態を指します。不妊治療では、AMH、AFC(胞状卵胞数)、FSHなどの検査によって評価され、妊孕性(妊娠のしやすさ)に影響するとされています。さらに、体外受精では卵巣刺激への反応が乏しくなる一因にもなります。Wang らの論文でも、DORは AMH 低値、AFC 低値、FSH 高値などの異常な卵巣予備能検査所見を示す状態として扱われており、妊娠率や生児獲得率の低下、周期中止や卵巣反応不良との関連が説明されています。

 とはいえ、DORだからといって妊娠できないわけではありません。卵巣予備能は大切な指標ですが、妊娠の成立には年齢、受精、胚の発育、子宮内環境など、ほかにも多くの要素が関わります。論文でも、AFCやAMHは残存卵胞数を反映しやすい一方、妊娠成立そのものを直接予測する指標ではないと述べられています。

今回の研究はどんな試験だったのか

 今回取り上げる Wang ら(2026)の試験は、卵巣予備能低下(DOR) の女性 120 人を、本物の鍼治療群と偽の鍼(シャム鍼)群に無作為に割り付けたランダム化比較試験です。
 対象年齢は 18〜40 歳で、治療は 12 週間、週 3 回、1 回 20 分、その後さらに 12 週間の追跡 が行われました。主要評価項目は、治療 12 週時点での AFC(胞状卵胞数) の変化です。副次評価項目として、AMH、FSH、LH、E2、月経周期長、自己評価式不安尺度(SAS)などが評価されています。

 この試験は、妊娠率や生児獲得率ではなく、 卵巣予備能の指標がどう変わるかをみています。したがって、この研究で示された結果は、「鍼治療によって採卵数が増えるか」「妊娠率が上がるか」を直接示したものではありません。採卵や妊娠転帰よりも一段手前にある卵巣予備能の変化をみた研究なのです。

本物の鍼治療はどのように行われたのか

 この研究では、使用するツボ、鍼を刺入する深さ、治療時間、治療頻度をあらかじめ決めたうえで施術が実施されています。仰向けで行うセットとうつ伏せで行うセットとを交互に用い、頭部、腹部、腰仙部、下肢の経穴が組み合わせれました。
 本物の鍼治療群では、直径0.25mmまたは0.30mmの鍼が用いられました。頭部のツボには10〜20mm、腹部や下肢のツボには30〜40mm、骨盤の仙骨部分にある中髎穴には、第3後仙骨孔(仙骨に開いている穴)方向へ50〜60mm刺入されています。そして、鍼を刺した部位に「得気(重い感じや突っ張った感じ、鈍痛、しびれ感)」を生じさせました。さらに、うつ伏せで行うセットでは、腰の腎兪穴と先ほどの中髎穴に1〜5mAの電気鍼が加えられました。
 治療頻度は、週3回を12週間です。数回だけの介入ではなく、一定期間、一定の頻度で、同じ系統の鍼治療を続けたときの変化をみた試験であり、治療量としても軽いものではありません。

シャム鍼は“何もしない対照”ではない

 シャム鍼群でも、本物の鍼治療群と同じ部位に1〜3mmの浅い刺入が行われ、さらに0.5mA未満のごく弱い通電が加えられました。本物の鍼治療のような手技や得気は与えていませんが、完全な無刺激ではありません。研究者らも、統計設計の段階で、シャム鍼によってAFCがある程度増える可能性を見込んでいました。

 つまり、この試験は「鍼治療」と「まったく何もしない群」を比べたものではないのです。

 日本の鍼灸臨床の感覚で見ると、この「刺激の強弱」はさらに重要さを増します。
 日本では、直径0.18〜0.20mm前後の鍼が一般的に使われます。また、接触鍼や鍉鍼のように刺さない鍼、ごく浅い刺入を中心とする流派もあります。そのため、この研究のシャム鍼は、単なる「偽治療」ではなく、日本国内で行われる浅刺・低刺激の鍼治療に近い側面を持っています。

 一方、本物の鍼治療群では、直径0.25mmまたは0.30mmの鍼が用いられ、腰仙部では中髎穴には50〜60mm刺入し、腎兪穴と中髎穴とには1〜5mAの電気鍼が加えられています。日本の一般的な鍼灸院でよく使われる鍼よりもやや太く、腰仙部ではしっかりした刺激量です。
 なお、じねん堂を含むJISRAM所属院では、子宮内膜の養生を目的に、中髎穴への施鍼として、直径0.30mmの鍼で仙骨表面の結合組織、特に密に張った靱帯へ手動刺激を行うことがあります。また、手足や腰に行う鍼の深さは浅いものですが、そこに通電を行い、「痛い手前」まで出力を上げます。目的や刺激方法は本研究と同一ではありませんが、少なくとも「ごく弱い鍼」ではなく、ツボに一定の物理的な刺激を加える点では、本研究の本物の鍼治療群のプロトコルに近い臨床的な刺激量と考えられます。

【結果】鍼治療でAFC(胞状卵胞数)はどう変わったか

 この試験における評価の中心となるのは、超音波で見える2〜9mm程度の胞状卵胞を数えた値、AFCです。

 本物の鍼治療群では、治療前から12週後までのAFC変化量の中央値が2.00でした。これに対し、シャム鍼群では0でした。この差は、統計学的にも偶然とは考えにくい差(有意差あり)と判定されています。つまり、治療12週時点では、本物の鍼治療群のほうがシャム鍼群よりAFCの改善が大きいという結果でした。

 24週時点でも、AFCそのものは本物の鍼治療群のほうが高く示されていました。ただし、治療前からどれだけ変化したかで比べると、24週時点では両群の差は統計学的に明確とは判定されませんでした。
 なお、24週時点は、12週間の治療を終えた後の追跡評価です。12週時点でみられた本物の鍼治療群の優位性は、治療終了後には変化量として明確に維持されたとは言えませんでした。一方で、AFCそのものは24週時点でも本物の鍼治療群のほうが高く、治療による変化が一部残っていた可能性はあります。

 この結果から言えるのは、DORの女性に対して12週間の鍼治療を行った場合、AFCに短期的な改善がみられたということです。しかも比較対象は、浅い刺入と微弱通電を含むシャム鍼でした。つまり、完全な無刺激との比較ではなく、低刺激の鍼に近い対照群と比べても、本物の鍼治療群(ある意味、刺激量の多い群)ではAFCの改善が大きいということが分かりました。

この研究で評価された中心はAFCであり、妊娠率や生児獲得率までを直接示したものではありません。

AMHやFSHはどうだったのか

 日本の不妊患者にとって、最も気になるのはAMHかもしれません。「AMHが低い」と言われたことをきっかけに、卵巣予備能について調べ始める方は多いと思います。
 今回の試験では、AMHは本物の鍼治療群でもシャム鍼群でも上昇方向に動いています。FSHは両群で低下方向に動いています。しかし、群間比較では、本物の鍼治療群がシャム鍼群より有意に優れていたとは言えませんでした。LH、E2、月経周期長についても、明確な群間差は出ていません。
 著者らも考察の中で、AMHを改善すると言えるだけの強い証拠はまだ足りないと慎重に述べています。

刺激量と卵巣血流という今後の論点

 AMHやFSHの変化は、今後の研究における論点となるかもしれません。
 というのも、Wangらの試験では、AFCに12週時点で群間差が出た一方、AMHやFSHでは本物の鍼治療群とシャム鍼群のあいだに明確な差が示されなかったからです。
 AMHは、主に前胞状卵胞から小さな胞状卵胞の段階を反映する指標です。一方、AFCは超音波で確認できる胞状卵胞を数えたものであり、AMHよりも成長が進んだ段階の卵胞を見ています。この違いを踏まえると、本物の鍼治療とシャム鍼の刺激量の差が、卵巣局所の血流や神経反射を介して、胞状卵胞として確認されるまでの成長に影響した可能性を考えることができます。
 とはいえ、Wangらの試験では、卵巣血流、採卵数、成熟卵数、胚発育は評価されていません。そのため、「刺激量の多さが卵胞の成長に寄与した」「卵巣血流が改善したからAFCが増えた」とは現時点では言えません。これはあくまでも私(この記事の筆者)の仮説です。

 今後、これらの指標を連続して評価する研究が出てくれば、鍼治療が不妊治療のどの段階に関与するのかを、より具体的に考えやすくなるでしょう。鍼治療と卵巣血流・骨盤内循環の関係については、あらためて別の記事で詳しく取り上げたいと思います。

Suら(2026)のPOR研究と並べて読むと……

 この論文は、すでに当院の記事で紹介したSuら(2026)の研究と並べて読むと、興味深い共通点と違いが見えてきます。

 Suらの試験は、卵巣反応不良(POR)の女性140人を対象にした多施設ランダム化比較試験です。鍼治療を行う群と、行わない群とを比較し、主要評価項目は採卵数でした。結果は、採卵数、臨床妊娠率、生児獲得率のいずれにも有意差はありませんでした。しかし、胚の卵割率は鍼群で高く、基礎FSHは鍼群で低く示されました。

卵巣反応不良(POR)
体外受精の排卵誘発において、薬剤を使用しても卵胞が十分に発育せず、採卵数が少ない状態を指します。一般に、採卵数が3個以下の場合などがPORに含まれます。

 一方で、Wangら(2026)は、対象がDOR、主要評価項目がAFC、対照がシャム鍼でした。つまり、2つの研究は、対象集団、評価項目、比較対照がそれぞれ異なるわけです。
 それでも、両試験を並べて読む価値があるのは、用いられた鍼治療のプロトコルがかなり似ているからです。どちらも12週間、週3回、1回20分で、仰向けとうつ伏せのセットを交互に用い、腰仙部では中髎穴への深刺と、腎兪穴および中髎穴への電気鍼を組み込んでいます。著者グループも重複しており、同じ研究チームが近いプロトコルをDORとPORの両集団に展開した連続研究とみることができます。

 そのうえで結果を比べると、差が出た場所が異なっていることが分かります。
 Wangらでは、採卵数より手前の指標であるAFCに差が出ました。Suらでは、採卵数や生児獲得率といった最終的な治療結果までは明確な差として示されませんでした。一方で、FSHや胚の卵割率には変化がみられ、鍼治療の影響が一部の段階で観察されています。
 このように、同じ系統の鍼治療でも、対象となる患者さんや評価する指標によって、結果の出方は変わります。この2本の研究を並べて読むと、鍼治療で変化が示された部分と、さらなる確認が必要な部分とが浮き彫りになってくるのです。

まとめ

 Wangら(2026)のランダム化比較試験では、DORの女性に12週間の鍼治療を行ったところ、シャム鍼群と比べてAFCの改善が有意に大きいことが示されました。一方、AMHやFSHでは群間差は明確ではなく、妊娠率や生児獲得率はこの研究では評価されていません。
 したがって、この論文は「鍼治療でDORの妊娠転帰まで改善する」と示したものではなく、卵巣予備能の一部指標に変化が生じうることを示した試験です。
 これをSuら(2026)のPOR研究と並べると、DORではAFCに差が出た一方で、PORでは採卵数や生児獲得率まで一貫した改善は示されなかった、という違いが見えてきます。ただし、Suらの研究でも、基礎FSHの低下や胚の卵割率の改善といった、卵胞や胚の成長に関わる部分ではプラスの変化がみられています。つまり、鍼治療の影響は、妊娠・出産という最終結果に直ちに表れるというより、その手前にある卵巣反応や胚発育の一部に現れている可能性があります。不妊治療に鍼灸を併用したい方は、こうした研究内容を理解している鍼灸師に相談することをおすすめします。

【参考文献】
Wang X, Du P, Yang L, Li J, Hang T, Qi L, Su C, Liu X, Li W, Zhu Y, Lu G, Xu H, Fang Y. Effect of Acupuncture for Diminished Ovarian Reserve: A Randomized Sham-Controlled Trial. Int J Womens Health. 2026 Apr 8;18:580821.
Su C, Wang X, Liu X, Yang L, Su T, Wang H, Li Y, Zhao C, Zhang C, Xiang W, Tong G, Chen L, Zhao F, Xu H, Fang Y. Effect of acupuncture for poor ovarian response: a multicenter randomized controlled trial. Front Endocrinol (Lausanne). 2026 Feb 26;17:1765527.


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