体外受精で大切な「子宮内膜受容性」とは? ― 2026年レビュー論文からみる鍼灸の4つの可能性 ―

 体外受精では、受精卵の状態だけでなく、子宮内膜が受精卵を受け入れやすい状態になっているかどうかも大切です。2026年に発表されたGuoらのレビュー論文では、鍼灸やお灸がこの「子宮内膜受容性(着床に適した状態)」にどのように関わるのかが幅広く検討されていました。著者らは、鍼灸によって、子宮内膜の厚さや血流だけでなく、内膜の形態、ホルモン環境、さらには受精卵の受け入れに関わる因子に前向きな変化がみられたことを示した一方で、より質の高い研究も必要だとも述べています。

 この論文からは、大まかに4つの「鍼灸の可能性」を見ることができます。
 ひとつ目は、子宮内膜の厚さや血流に関わる可能性。ふたつ目は、受精卵を受け入れるための仕組みに関わる可能性。みっつ目は、子宮内膜の細胞環境を保つ仕組みに関わる可能性。よっつ目は、不妊治療中の不安や緊張を和らげる可能性です。
 今回は、この4つの可能性について、分かりやすく紹介したいと思います。

目次

この研究はどんな論文だったのか

 今回の論文は、体外受精・胚移植を受ける不妊女性に対して、鍼灸が子宮内膜受容性にどのような影響を与えるかをまとめたレビュー論文です。PubMed、Web of Science、CNKI、WanFangなどのデータベースを用いて文献が検索され、主に2020年1月から2025年6月までの研究を中心に、最終的に214件が採用されました。対象となった治療法も、一般的な鍼だけでなく、電気鍼、TEAS(電極をツボに貼り付けて通電する物理療法)、麦粒灸(麦の粒ほどの大きさのお灸)、薬餅灸(皮膚ともぐさの間に生薬を練り込んだ「薬餅」を挟んで行うお灸)、温鍼(日本では灸頭鍼) など幅広いものでした。

 この論文で見られていたのは、妊娠率だけではありません。子宮内膜の厚さ、血流、内膜のタイプ、エストラジオールやプロゲステロンといったホルモン値の変化も重視されていました。著者らは、鍼灸やお灸は子宮内膜受容性を高めるうえで有望な補助療法になりうると述べていますが、その一方で、研究の方法や質にはばらつきがあり、高品質で標準化されたランダム化比較試験がさらに必要だとも結論づけています。

※このレビュー論文の“分類”について
 この論文は、複数のデータベースを使って文献を系統的に検索し、採用基準に沿って研究を選び出したうえで、結果を主に文章でまとめた「系統的検索に基づくナラティブレビュー」です。いわゆるメタアナリシスのように数値を統合して結論を出す形式ではなく、集めた研究を幅広く見渡して、「現段階で何がどこまで分かっているか」をまとめた報告といえます。

研究で分かった4つのこと

1. 子宮内膜の厚みや血流に、良い方向の変化がみられていた

 着床するためには、子宮内膜にある程度の厚みがあり、そこへ十分に血液が流れていることが大切です。この論文でも、鍼灸やお灸によって、子宮内膜の厚さや血流に関わる指標が改善した研究が紹介されていました。特に、子宮に向かう血流の抵抗を示すPIやRIの値が下がったことや、子宮内膜の厚みが増えたこと。しかもただ厚みを増しただけでなく、超音波検査で3層構造に見える「木の葉状」の内膜が増えたことなどが報告されています。
 また、論文の中では、鍼灸によって子宮内膜でVEGFの発現が高まったとする研究も紹介されていました。VEGFは、新しい血管が作られる過程に関わるタンパク質です。このことから、鍼灸は子宮内膜における血管の発達に関わっている可能性があります。
 つまり鍼灸は、着床の場になる子宮内膜を、厚みと血流の両面から支える働きを持つ可能性がある、ということです。

2. 受精卵を受け入れる準備に関わる分子にも変化がみられていた

 子宮内膜は、いつでも受精卵を受け入れられるわけではありません。排卵後の限られた時期だけ、受精卵が着床しやすい状態になります。この論文では、その時期に関わるものとして、ピノポード、LIF、インテグリン αvβ3 などが取り上げられていました。ピノポードは子宮内膜の表面に現れる小さな突起で、LIFやインテグリン αvβ3 は着床に関わる物質です。これらは、受精卵が子宮内膜に近づき、くっつき、根を下ろしていく過程に関わると考えられています。
 レビューの中では、鍼灸やTEASによって、こうした着床に関わる物質の発現が高まった研究や、内膜表面の変化がより良好だった研究が紹介されていました。つまり、鍼灸は子宮内膜をただ厚くするだけではなく、受精卵を受け入れるタイミングに向けた準備にも関わっている可能性がある、ということです。もっとも、こうした変化がそのまま着床成功を直接決めるとまでは言えず、この論文でも慎重に論じられていました。

3. 子宮内膜の細胞環境を保つ仕組みに関わっている可能性がある

 この論文では、オートファジーも重要な仕組みとして取り上げられていました。オートファジーは、細胞の中で不要になったものを分解し、再利用する働きです。子宮内膜が着床しやすい状態を保つためには、この働きが強すぎても弱すぎてもよくなく、適度なバランスが必要だと考えられています。
 論文では、鍼灸がオートファジーの働きを調整する可能性があると紹介されていました。つまり、子宮内膜の細胞で不要なものを片づける働きが弱すぎたり、逆に強すぎたりするのではなく、着床に向いた“ちょうど良い”状態を保ちやすくするかもしれないということです。
 この部分は基礎研究の要素も強く、まだはっきり断定できる段階ではありませんが、鍼灸が子宮内膜の内側の環境にも関わっている可能性を示す内容として興味深いところです。

4. 不安や緊張を和らげることが、結果として子宮環境にも関わる可能性がある

 不妊治療では、検査や移植だけでなく、結果を待つ時間や先の見えない不安などが大きな負担になることがあります。この論文でも、反復着床不全の患者さんでは不安や抑うつがみられやすいこと、そして精神的ストレスが子宮内膜受容性に悪影響を与える可能性があることが述べられていました。
 さらに、鍼灸が不安や緊張を和らげ、心身のストレス反応を軽くすることで、結果として子宮内膜の状態にも良い方向に働く可能性があるとも述べられています。これは「気の持ちよう」という意味ではありません。心と体は切り離せず、強いストレスが続けば自律神経やホルモンの働きにも影響します。鍼灸には、そのような負の影響を和らげる役割も期待されているのです。

まとめ

 Guoらの2026年レビュー論文では、鍼灸が、子宮内膜の厚さや血流、着床に関わる内膜表面の構造や物質、細胞内の調整機構、そして不安や緊張といった複数の面から、子宮内膜受容性に関わる可能性が示されていました。体外受精の結果は、胚の状態だけで決まるものではなく、受け入れる側の子宮内膜の準備も大切です。鍼灸は、子宮内膜の環境に働きかける補助療法として注目されているといえます。
 一方で、この論文の著者らは、研究の質にばらつきがあり、研究ごとに治療法や評価項目が異なるため、強い結論には慎重であるべきだとも述べています。
 鍼灸は、「それだけで妊娠率が上がる」と考えるよりも、病院での不妊治療を支える補助療法のひとつとして、特に今回の論文の文脈においては、「子宮内膜の環境や心身の状態に働きかける選択肢」として捉えることができます。

【参考文献】
Guo XZ, Qin Z, Wu DH, Han H, Han YH, Wu XK, Zhang YH. Effects of acupuncture and moxibustion therapy on endometrial receptivity of infertile women with in vitro fertilization-embryo transfer: status quo and countermeasures. Front Med (Lausanne). 2026 Feb 10;12:1702214.


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