「妊娠はできるのに、なぜか流産を繰り返してしまう」──そのつらさを抱える方は少なくありません。
日本では、妊娠を望む女性のうち 約5%が「不育症」 にあたるとされています。
当院にも「原因が分からないまま不安」「できることは全部試したい」という声が多く寄せられます。
こうした声に応えるように、近年、不育症の研究は大きく進み、新たな原因候補として「ネオセルフ抗体」という自己抗体が注目されています。
今回は、ネオセルフ抗体と鍼灸の可能性についてお伝えします。
ネオセルフ抗体とは?
ネオセルフ抗体とはどのようなものなのでしょう。
自己抗体
通常、免疫は体外から侵入する細菌やウイルスを「異物」と認識して排除します。ところが、時に誤作動を起こし、自分自身の構造を敵とみなして攻撃してしまうことがあります。これが 自己抗体 と呼ばれるもので、膠原病や抗リン脂質抗体症候群など、さまざまな病気の原因になります。ネオセルフ抗体は自己抗体の一種です。
ネオセルフ抗体の発見
ネオセルフ抗体は、2015年に神戸大学大学院医学研究科の谷村憲司氏、手稲渓仁会病院不育症センターの山田秀人氏、大阪大学微生物病研究所の荒瀬尚教授らの研究グループによって報告されました。
研究の中で、β2グリコプロテインI(β2GPI) というタンパク質が HLA-クラス II 分子 と結合し、通常は存在しない「新しい複合体」ができることが分かりました。この「β2GPI/HLA-DR複合体」が自己抗原となり、そこに対して産生される抗体が ネオセルフ抗体 です。
つまり、単独のβ2GPIに対する抗体(従来の抗リン脂質抗体)ではなく、「β2GPIとHLAが組み合わさった特殊な構造」を標的とする点が大きな特徴です。
本来は別々に存在している2つの部品(β2GPIとHLA-DR)が、積み木のように偶然組み合わさって新しい形になった結果、免疫が「見慣れない異物」と勘違いして、抗体を作って攻撃してしまうのです。この“誤解”が妊娠の継続を妨げる原因になるとされています。
不育症との関係
ネオセルフ抗体が陽性であると、血管に血栓ができやすくなる(血流障害)、着床や胎盤の形成に悪影響を与えるなど、妊娠継続に不利な要因となると考えられています。
実際に、不育症の女性227人を対象とした臨床研究では、23%がネオセルフ抗体陽性 でした。さらに、既存の検査では原因が分からなかった不育症患者の中でも、約20%がネオセルフ抗体のみ陽性だったことが示されています。これは、これまで「原因不明」とされてきた不育症の一部を説明できる可能性がある重要な知見です。
また、ネオセルフ抗体陽性の患者では、低用量アスピリンやヘパリンの投与により生児獲得率が改善することが報告されています。
こうした研究成果を受けて、2025年にはネオセルフ抗体検査が先進医療Aとして承認され、保険診療となることを前提に有効性と安全性が検証されています。
これらの成果は神戸大学からもプレスリリースとして発表され、一般向けに紹介されています:
Discovery of novel autoantibody that is a major risk factor for recurrent pregnancy loss(2020年・英語)
新規自己抗体であるネオセルフ抗体が、不妊症のメカニズムに関与することを初めて証明(2023年・日本語)
ネオセルフ抗体が原因不明の不育症の治療に新たな可能性をもたらす(2024年・日本語)
鍼灸がサポートできる領域
鍼灸で直接的にネオセルフ抗体を消すことはできません。とはいえ、不育症や不妊治療では、「原因を特定する検査や薬物療法」と同時に、体の状態を整える補完的アプローチも重要です。
鍼灸には以下のような報告があります:
- 自律神経の調整:ストレスや緊張で乱れやすい交感神経・副交感神経のバランスを整える。
- 血流の改善:骨盤内や子宮・卵巣への血流を促し、着床環境をサポート。
- 免疫系への作用:炎症や自己抗体反応に関わる免疫バランスを調整する作用が示されています。(ネオセルフ抗体への影響は未解明)
鍼灸は、妊娠の継続に必要な体の環境を整える後押しになると考えられます。
鍼灸に加える漢方やサプリメント
不育症の背景には「血流不全」や「瘀血(おけつ)」が関与すると考えられるため、東洋医学的なアプローチとしては活血化瘀(血の巡りを整える)を目的とした施術や処方が選ばれます。
漢方薬であれば、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などが体質に応じて用いられ、妊活中のサポートに取り入れられるケースがあります。
また、サプリメントの分野では、漢方系のサプリメントである松康泉(しょうこうせん)に、活血作用のある成分が含まれていると言われています。
これらは直接的な治療効果を発揮するものではありませんが、補助的に体調を整える一助として期待されています。松康泉は当院でも取り扱っておりますので、ご興味がありましたら相談ください。
じねん堂の考え方
三重県津市のじねん堂はり灸治療院では、体外受精や人工授精など 医療機関での治療と並行しやすい鍼灸施術 をご提供しています。
- 不妊症や不育症の背景にある 体質(自律神経・血流・免疫)へのアプローチ
- 最新の研究(ネオセルフ抗体など)を踏まえた エビデンスベースの説明
- 必要に応じて、松康泉などのサプリメントをご案内
「検査や治療を受けながら、少しでも安心して妊娠を継続したい」
そんな想いに寄り添いながら、鍼灸を通じてお手伝いしています。
まとめ
- 不育症は妊活世代の約5%にみられる課題。
- 最新研究で「ネオセルフ抗体」という新しい原因が見つかり、先進医療Aとして検査が始まっている。
- 鍼灸は不育症・不妊治療を支える補完的手段として、自律神経・血流・免疫のバランスを整えるサポートが可能。
- 活血作用があるとされる松康泉などのサプリメントを補助的に取り入れることで、体全体を整える選択肢が広がる。
「原因が分からない流産を繰り返している」
そんな時は、一度ご相談ください。
最新の検査や治療にプラスして、鍼灸による体づくりが未来への一歩になるかもしれません。
【参考文献】
不育症管理に関する提言改訂委員会. 不育症管理に関する提言2025. 2025 May 13.
H, Yamada H. Low-dose aspirin and heparin treatment improves pregnancy outcome in recurrent pregnancy loss women with anti-β2-glycoprotein I/HLA-DR autoantibodies: a prospective, multicenter, observational study. Front Immunol. 2024 Sep 26;15:1445852.
Ono Y, Wada S, Ota H, Fukushi Y, Tanimura K, Yoshino O, Arase H, Yamada H. Anti-β2-glycoprotein I/HLA-DR antibody in infertility. J Reprod Immunol. 2023 Aug;158:103955.

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