不妊治療に鍼灸って本当に効果あるの?医学的にわかっていること

「鍼灸は効くって聞くけど、科学的な根拠はあるの?」
 そんな疑問を抱える方へ、この記事では、国内外の質の高い研究論文をもとに、不妊治療における鍼灸の有効性とその生理学的メカニズム、安全性、そして三重県内での事例を総合的に解説します。効果を謳う言葉に踊らされず、根拠に基づいた冷静な視点から、鍼灸の実際の可能性を一緒に見ていきましょう

世界で注目される「不妊鍼灸」 ~科学的評価の現状~

 不妊に対する鍼灸治療は、世界的に「補完代替療法(CAM)」の一環として注目されています。世界保健機関(WHO)も1999年の報告書「Guidelines on Basic Training and Safety in Acupuncture」において、生殖関連疾患を含めた複数の疾患に対する鍼灸の応用可能性を示唆しています。ここで重要なのは「単独の治療法」ではなく、既存の治療と組み合わせた“統合的ケア”としての位置づけであることです。
 鍼灸による妊娠率の向上については研究ごとに結論が分かれており、例えばSmithら(2018)の大規模RCTでは、鍼灸と偽鍼灸との間に生児出生率の有意差は認められず、「体外受精を受ける女性の生児出生率を改善するために鍼治療を用いることを支持しない」と結論づけられており、Cochrane Review(Cheong et al., 2013)においても、不妊に対する鍼灸はエビデンスの質が低く、鍼治療の全体的な有益性を示すエビデンスは示されなかったとされています。
 一方で、Andersenら(2010)は、移植当日の鍼灸施術において肯定的な結果が見られたと報告しており、さらに最新のメタアナリシス(Fu et al., 2025)では、不妊に対する鍼灸のポジティブな効果が報告されています。

 このように、効果の一貫性にはばらつきがあり、鍼灸の臨床応用に際しては、患者の状態やタイミング、手技の差異に十分留意する必要があります。

【研究デザインの種類とその意味】
■ ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)
「ランダム化比較試験」とは、ある治療法(たとえば鍼灸)が本当に効果があるかを調べるために、参加者を無作為(ランダム)に2つ以上のグループに分けて比較する方法です。一方は鍼灸を受け、もう一方は偽の治療(または標準治療)を受けます。このようにして、思い込みや個人差の影響を最小限にし、公平に効果を測ることができます。
■ システマティックレビュー(Systematic Review)
「システマティックレビュー」は、すでに行われた多数の研究を集めて、一定の基準に従って厳密に評価・分析し、全体としてどんな結論が導けるかを検討する研究手法です。信頼できる研究だけを選んで統合するため、個別の研究よりも全体像を把握するのに適しています。
■ メタアナリシス(Meta-Analysis)
「メタアナリシス」は、システマティックレビューの一種で、複数の研究結果を統計的にまとめて「どれくらい効果があるか」を数値で示す分析手法です。たとえば、「妊娠率が何%高くなるか」といった具体的な効果の大きさ(効果量)を明らかにできます。
■ トライアル・シーケンシャル解析(TSA:Trial Sequential Analysis)
「トライアル・シーケンシャル解析」は、メタアナリシスの信頼性をさらに高めるための方法で、「これ以上研究を増やしても結論は変わらない」と判断できるかを検討します。いわば、必要なデータが十分に集まったかどうかを確認する“安全確認”のようなものです。

鍼灸はなぜ「妊娠率を上げる」と言われるのか ~生理学的メカニズムの解明~

 鍼灸が不妊に効果を示すとされる理由には、主に以下の三つの生理学的メカニズムが挙げられます。

子宮・卵巣への血流改善

 Stener-Victorinら(1996)は、電気鍼によって子宮動脈の血管抵抗が有意に低下することを報告しました。日本では鈴木ら(2006, 2008)によって、鍼灸治療後の子宮動脈や卵巣放射状動脈における血管抵抗減少が報告されています。つまり、鍼によって子宮や卵巣の血流が改善されるということです。
 子宮内膜の血流が改善されることで受精卵の着床環境が整い、卵巣の血流が改善されることで卵子の質が向上すると考えられています。

視床下部-下垂体-卵巣(HPO)系の調整

 脳の中には、体全体のホルモンバランスをコントロールしている“司令塔”のような働きをする部分があります。それが「視床下部」や「下垂体」と呼ばれる場所で、ここからの指令によって卵巣が働き、排卵や月経が調整されています。Liら(2022)の研究では、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)をもつラットに対して電気鍼を行ったところ、この“司令塔”である視床下部の働きに関わる物質(神経ペプチドYやグレリンなど)のバランスが整い、ホルモンの調整がスムーズになったと報告されています。
 人間の体でも同じようなホルモン調整の仕組みがあると考えられており、鍼灸によって脳から卵巣へのホルモンの流れが整えられ、排卵のリズムが改善される可能性があります。

自律神経系の調整とストレス緩和

 ストレスは交感神経の過活動を引き起こし、子宮・卵巣の血流低下やホルモン分泌の乱れにつながります。Eshkevariら(2013)は、ラットモデルにおいて、鍼刺激がストレスに反応する体内の仕組みである「視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸」の過剰な活性化を抑制し、ストレス反応を軽減したと報告しています。これにより副交感神経の活性が高まり、内分泌系の安定に寄与すると考えられています。

 以上のような作用は複合的に働いており、「体質を整える」という表現の背後にある科学的根拠とも言えます。

臨床研究から見る効果 ~RCTとメタアナリシスの結果~

 不妊に対する鍼灸の有効性については、さまざまなランダム化比較試験(RCT)やシステマティックレビュー、メタアナリシスが行われてきました。
 最新のシステマティックレビューおよびトライアルシーケンシャル解析(Fu et al., 2025)では、体外受精(IVF)を受ける女性を対象に、29件のRCT(計6,619名)を統合解析しています。鍼灸群は偽鍼群や無治療群に比べて、臨床妊娠率、生児出生率のいずれも有意に高い改善が認められました。
 さらに、胚移植のタイミングに合わせて施術を行った群では特に効果が大きかったと報告されており、個々の治療戦略に合わせた介入が望まれると結論しています。
 ただし、同レビューではエビデンスの質についても慎重な評価が行われており、一部の研究にはバイアスのリスクが存在することも指摘されています。また、他の否定的な研究……たとえば前述のSmithら(2018)の報告や、Cochrane Review(Cheong et al., 2013)などの存在にも注意を払う必要があります。
 最新の知見を踏まえると、鍼灸はすべての不妊症例に万能ではない一方、適切なタイミングと個別の条件下では有効性が示されるケースもあり、補完的アプローチとして選択肢に含める意義があると言えます。

どのような人が鍼灸を受けるべき? ~体質や治療ステージ~

 鍼灸の効果はすべての人に均等に現れるわけではありません。臨床報告および研究データからは、以下のような傾向が「鍼灸治療の効果が出やすいケース」として挙げられます。

排卵障害(とくにPCOS)を有する女性

 Zhengら(2020)、Liら(2022)の動物・ヒト研究では、鍼灸が排卵率の改善やホルモンバランスの調整に寄与する可能性が報告されています。鈴木ら(2006)の報告にあるように、卵巣の血流が促されることで卵子の栄養状態が改善し、「良い卵」が採れる可能性が高まると考えられます。

慢性的なストレスを抱えている女性

「HPA軸」とは、ストレスに反応する体内の仕組み(視床下部-下垂体-副腎系)を指します。強いストレスを受け続けると、ストレスに反応する体内の仕組みであるHPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)が過剰に働くことでホルモンのバランスが乱れ、排卵がうまくいかなくなったり、生理周期が不安定になることがあります。Eshkevariら(2013)の報告に見られるように、鍼灸は、この“ストレス反応の暴走”を落ち着かせ、自律神経やホルモンのバランスを整える助けになると考えられています。

IVFの胚移植タイミングでの併用

 Fuら(2025)によるメタアナリシスでは、移植前後に鍼灸を受けた群で最も高い妊娠率が認められており、特定の治療フェーズとの併用に効果が期待されます。Stener-Victorinら(1996)や鈴木ら(2006)の報告にあるように、電気鍼によって子宮の血流が促されることで、子宮内膜が養生され、着床の環境が整うことが期待されます。

 こうした傾向を踏まえると、鍼灸は「どのような体質の人にも同じように効く」というものではなく、個々の生理的背景やストレス状態、治療計画との相互作用を加味して導入すべき補完療法であることがわかります。また、重篤な器質的疾患(卵管閉塞や男性因子など)では、まず西洋医学的介入が必要な場合も多く、医師との連携のもとで鍼灸を併用することが望まれます。

安全性と副作用の少なさ ~鍼灸が選ばれるもう一つの理由~

 医療介入において、「効果」だけでなく「安全性」も非常に重要です。鍼灸はその点で比較的安全性が高く、重大な副作用はまれとされています。実際、Vickersらによる2012年の大規模メタアナリシス(Vickers et al., 2012)では、慢性疼痛を対象とした29件のRCT(17,922名)を個別患者データレベルで解析した結果、鍼灸はプラセボおよび通常治療よりも有意に効果的であり、かつ重篤な有害事象の発生は極めて稀であることが示されました。
 鍼灸において報告されている副作用(有害事象)の多くは、施術部位の軽微な出血、皮下出血、倦怠感などであり、いずれも一過性で重篤なものではありません。
 ただし、妊娠を希望する女性に対しては、禁忌穴や過度な刺激を避けるなど、専門的な知識と経験に基づいた施術が求められます。経験豊富な鍼灸師のもとで適切な治療を受けることで、安全性を確保しながら、補完療法としての恩恵を最大限に活かすことが可能になります。

三重県の鍼灸院でできること ~医学的知識に基づく“身体づくり”の支援~

 三重県内でも、鍼灸を不妊治療の補助として取り入れる動きは少しずつ広がりを見せており、鍼灸治療を提供しているクリニックがあるほか、たとえば、鈴鹿市にはクリニックと連携している鍼灸院も存在します。
 一方で、病院と直接の提携はないものの、不妊治療に必要な医学的知識を深く理解し、西洋医学との併用を前提とした鍼灸施術を提供している鍼灸院も存在します(たとえばじねん堂です)。このタイプの院では、患者が受けているホルモン療法や採卵スケジュールなどを正確に把握した上で、治療フェーズに応じた最適な刺激法や施術タイミングを提案しています。採卵前には卵巣への血流改善を目的とした施術、移植前には子宮内膜の血流や自律神経の安定を目指すアプローチなど、「妊娠率の向上」を明確な目標として取り組んでいるのです。
 とはいえ、これらの取り組みは、患者の協力や病院での治療が前提となります。鍼灸に期待されるのは、単独の治療法というよりも、補完的・統合的な視点での活用であることを忘れてはなりません。
 不妊に対する施術を提供する鍼灸師は、医師ではない立場ながらも、最新の研究やガイドラインを把握し、科学的根拠に基づいた説明や記録の管理を徹底することで、患者が安心して身体づくりを進められる環境を準備しています。

【結論】 “確率”だけでなく、“選択肢”としての鍼灸を捉える

 本記事で紹介したように、鍼灸が不妊治療に与える影響については、限定的ながら一定の科学的根拠があります。また、病院と連携していなくとも、適切な知識と経験をもって医療との併用を前提とした施術を行う鍼灸院は、患者にとって実質的な支えとなり得ます
 不妊治療は、身体だけでなく精神的にも大きな負荷がかかるプロセスです。鍼灸は、妊娠を目指す身体の調整をサポートするだけでなく、治療そのものに伴うストレスの軽減や自己管理感の回復といった側面でも有効な支援となります。
「西洋医学だけでは不安」
「自分に合う補完的な方法を探したい」
「できることは全て試したい」
 そんな思いを抱える方にとって、三重県の地域に根差した鍼灸院は、信頼できるもう一つの選択肢と言えるでしょう。
 科学的知見に基づき、そして患者一人ひとりの現実に即して。“結果”だけでなく“過程”に寄り添う鍼灸の力が、あなたの妊活の歩みを支えることを願っています。

【参考文献】
World Health Organization. Guidelines on Basic Training and Safety in Acupuncture. 1999. https://apps.who.int/iris/handle/10665/66007
Smith CA, de Lacey S, Chapman M, Ratcliffe J, Norman RJ, Johnson NP, Boothroyd C, Fahey P. Effect of Acupuncture vs Sham Acupuncture on Live Births Among Women Undergoing In Vitro Fertilization: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018 May 15;319(19):1990-1998.
Cheong YC, Dix S, Hung Yu Ng E, Ledger WL, Farquhar C. Acupuncture and assisted reproductive technology. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jul 26;2013(7):CD006920. doi: 10.1002/14651858.CD006920.pub3. PMID: 23888428; PMCID: PMC11285306.
Andersen D, Løssl K, Nyboe Andersen A, Fürbringer J, Bach H, Simonsen J, Larsen EC. Acupuncture on the day of embryo transfer: a randomized controlled trial of 635 patients. Reprod Biomed Online. 2010 Sep;21(3):366-72.
Stener-Victorin E, Waldenström U, Andersson SA, Wikland M. Reduction of blood flow impedance in the uterine arteries of infertile women with electro-acupuncture. Hum Reprod. 1996 Jun;11(6):1314-7.
鈴木裕明, 高橋順子, 片岡泰弘, 青木美鈴, 木津正義, 村中友香, 俵史子, 金山尚裕, 本城久司, 北小路博司. 仙骨部鍼治療が不妊症患者の子宮動脈循環に及ぼす影響. 日本生殖医学会雑誌. 2006;51(4):340
鈴木裕明, 木津正義, 村中友香, 深谷悠平, 森誠一郎, 南昌枝, 渡邊由香, 辰巳千之, 俵史子, 本城久司 , 北小路博司. 中りょう穴刺鍼が不妊症患者の卵巣血流に及ぼす影響. 全日本鍼灸学会雑誌. 2008 Apr 28;58(3):463.
Li Y, Zhi W, Haoxu D, Qing W, Ling C, Ping Y, Dongmei H. Effects of electroacupuncture on the expression of hypothalamic neuropeptide Y and ghrelin in pubertal rats with polycystic ovary syndrome. PLoS One. 2022 Jun 15;17(6):e0259609.
Eshkevari L, Permaul E, Mulroney SE. Acupuncture blocks cold stress-induced increases in the hypothalamus-pituitary-adrenal axis in the rat. J Endocrinol. 2013 Mar 15;217(1):95-104.
Fu QW, Zhu SM, Chen J, Liu YQ, Liang CH, Song LJ, Zhuang J, Tan X, Liu LZ, Luo L, Yin HY, Yeung WF, Chen SC, Liu WT, Zhang QX, Tang Y. Acupuncture for women undergoing in vitro fertilization: An updated systematic review and meta-analysis with trial sequential analysis. Int J Nurs Stud. 2025 Apr 24;168:105097.
Vickers AJ, Cronin AM, Maschino AC, Lewith G, MacPherson H, Foster NE, Sherman KJ, Witt CM, Linde K; Acupuncture Trialists’ Collaboration. Acupuncture for chronic pain: individual patient data meta-analysis. Arch Intern Med. 2012 Oct 22;172(19):1444-53.


費用

会員施術料 4,950円
一般施術料 6,600円
初回料別途 2,200円

その他オプション・割引あり
初回60~90分程度
2回目以降45分程度

さらに詳しく

予約

059-256-5110
営業電話は固くお断りします

月~金 9時~21時
 土  9時~15時
日曜休業・祝祭日不定休

ウェブ予約
予約ページは新しいタブで開きます
免責事項にご同意のうえ、ご予約ください

同業者(療術業)の予約はお受けできかねます

免責事項

 鍼による施術は痛みや出血を伴う場合があります。また、以下のような場合、施術による変化が現れにくかったり、症状の“もどり”が早かったり、施術期間が⻑期に及んだり、施術することをお断りしたりすることがあります。鍼にはネガティブな側⾯があり、万能でもないことをご承知おきください。

構造上の問題による痛み
重篤な疾患による痛み
強⼒なあるいは多種の薬剤服⽤
⾼齢・衰弱による⽣理機能の低下
取り除けない物理的刺激要因
各種⼼理的要因

さらに詳しく

アクセス

〒514-1105 三重県津市久居北口町15-7
近鉄久居駅より徒歩15分/伊勢自動車道久居ICより車で5分
駐車スペース場常2台分あり
※看板がありませんのでご注意ください

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次