円形脱毛症(Alopecia Areata: AA)は、突然髪が抜け落ちてしまう自己免疫性の疾患です。見た目の変化や再発への不安から、生活の質に大きな影響を与えることがあります。これまでの治療は、ステロイドや免疫抑制剤、ミノキシジル外用薬などが中心でしたが、効果には個人差があり、再発に悩む方も少なくありません。
近年、全国的に鍼灸治療が円形脱毛症の補完療法として注目され始めています。副作用が少なく、体の回復力を引き出すアプローチとして研究が進んでおり、国際的なレビュー論文(Liら, 2022)では、鍼灸が円形脱毛症を含む脱毛症で発毛促進に関連する可能性が報告されています。また、三重県でも「鍼灸で円形脱毛症に対応できる治療院を探したい」という方が増えているようで、津市の鍼灸院であるじねん堂にも、円形脱毛症の鍼灸治療に関する問い合わせをいただきます。
本記事では、三重県津市で鍼灸院を探している方に向けて、円形脱毛症に対する鍼灸治療の最新知見・作用メカニズム・安全性・実際の治療のポイントを、Liら(2022)のレビュー論文をもとに丁寧に解説します。
円形脱毛症(AA)と既存治療の課題
円形脱毛症は、毛包(髪の毛をつくる組織)が免疫によって攻撃されることで起こる非瘢痕性の脱毛症です。部分的な脱毛から始まり、時には頭全体や全身に及ぶこともあります。
この疾患は、本人にとって「命に関わる病気」ではありませんが、見た目の変化や再発の不安から心理的苦痛を引き起こすことが多く、生活の質に深刻な影響を与えます。うつ病や不安障害との関連も報告されており、単なる「髪の病気」にとどまらない側面を持っています。
現在行われている治療には、ステロイド外用や局所注射、免疫抑制薬、ミノキシジル外用、さらには近年ではJAK阻害薬の使用などがあります。しかし、こうした治療法にはいくつかの課題があります。
- 効果のばらつき:同じ治療を受けても再発毛する人もいれば、効果が得られない人もいる。
- 副作用の懸念:ステロイドの長期使用による皮膚萎縮、免疫抑制薬による感染リスクなど。
- 再発の頻度:改善したように見えても、時間が経つと再び脱毛が始まるケースも多い。
以上のような現状を背景に、副作用が少なく体全体のバランスを整えることを目的とした補完療法として、鍼灸治療が注目されています。
鍼灸治療の有効性に関するエビデンス
Liら(2022)は、鍼灸と脱毛症に関する既存の研究を整理し、その中で円形脱毛症を対象とした臨床報告とランダム化比較試験(RCT:信頼性の高い研究方法で、患者を無作為に振り分けて比較する研究)を紹介しています。ここではその内容を分かりやすく説明します。
鍼単独や梅花鍼などの併用による効果
- 症例報告(Wuら, 2020)
全頭脱毛症の患者が3か月間に36回の鍼治療を受けた結果、頭部全体に完全な再発毛が認められました。この効果は2か月後の追跡調査でも維持されていました。
単一の症例報告ですが、難治性とされる全頭脱毛症でも効果が出た点は注目に値します。 - RCT(Zhuら, 2011, n=78)
78人のAA患者を対象に、通常の鍼治療+梅花鍼と、経口シスチン+ビタミンB1+ミノキシジル外用を比較しました。
鍼灸群では治癒率58.1%、総有効率97.7%であり、薬物群の治癒率34.3%、総有効率77.1%を上回りました。ここでいう「治癒率」とは完全発毛を意味し、「総有効率」とは発毛が部分的でも改善が見られた割合を指します。 - RCT(Jinら, 2011, n=70)
電気鍼+メコバラミン(ビタミンB12製剤)経穴注射と、七星鍼+生姜摩擦を比較。
鍼+注射群では総有効率94.3%であり、対照群(77.1%)より有意に高い改善がみられました。
灸治療の症例
- 薬用糸灸
症例報告では、薬用糸灸を受けた患者で治療開始1週間後に軟毛の発毛がみられ、4週間後には脱毛部位全体に完全な再発毛が確認されました。この効果は3か月後の追跡調査でも維持されていました。
Liらのレビューで紹介された研究は、いずれも小規模であったり症例報告にとどまるものの、結果は一貫して鍼灸治療が発毛促進に役立つ可能性を示していました。
特に、従来の薬物治療と比較しても効果が高かったという報告は、患者さんにとって希望の持てる内容と思われます。
鍼灸の作用機序(どのように効くと考えられるか)
円形脱毛症に対して、鍼灸がどのように働くと考えられているかを研究で調べたところ、いくつかの仕組みが見えてきました。大きく分けると「免疫のバランスを整える」「ストレスをやわらげる」「血流をよくする」の3つです。
免疫のバランスを整える(炎症を抑える)
円形脱毛症では、本来は髪を守るはずの免疫が誤って毛根を攻撃してしまいます。これは「炎症性の免疫反応」が強く働きすぎるために起こると考えられています。
鍼刺激の実験(マウスを使った前臨床研究)では、髪の毛の根元(毛包)のまわりにいる肥満細胞(炎症を引き起こす細胞)が、過剰に炎症物質を放出するのを抑える効果が確認されました。
さらに、Th1型免疫応答と呼ばれる「炎症を強く引き起こす免疫の働き」も弱まりました。Th1反応そのものは体を守る仕組みですが、円形脱毛症ではこれが毛根を攻撃してしまいます。
加えて、TNF-αやIL-1といった「炎症性サイトカイン(炎症を起こす化学物質)」の量も減っていました。これらの物質は毛根の中心(毛乳頭や毛母細胞)を壊し、髪の成長を妨げる原因になるため、その量が減ることは「毛根を守る」ことにつながります。
つまり鍼灸には、毛根で起こる炎症を静め、髪が生えやすい環境をつくる可能性があるのです。
ストレスをやわらげる
円形脱毛症は、精神的なストレスをきっかけに悪化・再発することが少なくありません。研究では、鍼刺激によって感情やストレスを調整する脳の働きが変化することが示されています。
特に太衝というツボは、「感情のコントロール」に関わる脳のネットワークを調整する可能性があると報告されています。ストレスが強いと免疫も乱れやすいため、鍼によるストレス軽減は間接的に髪の改善につながると考えられます。
血流をよくする
髪の毛は血液から栄養を受け取って成長します。そのため、頭皮の血流が悪いと髪が弱くなったり抜けやすくなったりします。
鍼灸でよく使われる頭頂部の百会というツボは、一酸化窒素(NO)の産生を増やし、局所の血流を改善する働きがあるとされています。血流が良くなることで毛根に酸素や栄養が届きやすくなり、発毛の助けになると考えられます。
- 髪の毛の根元で起こる炎症を抑える
- 精神的なストレスをやわらげる
- 頭皮の血流をよくする
この3つのはたらきが組み合わさり、円形脱毛症における髪の再生を後押しする可能性があると考えられています。
また、Liらのレビューでは次の3つの経穴が頻繁に使われていました。
- 足三里穴:
炎症抑制と免疫調整に関与。自己免疫性疾患に広く使われる代表的なツボ。 - 百会:
頭皮血流を改善し、発毛を助ける可能性がある。 - 太衝穴:
感情やストレスを調整する経穴として、ストレス関連の脱毛に応用される。
これらは、研究ごとに組み合わせが異なるものの、円形脱毛症治療の「中心的なツボ」として繰り返し報告されています。
鍼灸の特徴と受療への障壁
Liら(2022)では、鍼灸の特徴や受療への障壁ついて、次のようにまとめられています。日本の現状や用語の補足を加えて紹介します。
利点
鍼灸は適切に施術されれば比較的安全な治療法です。Liらによれば、軽度の副作用(吐き気、失神、刺鍼部の痛みやあざなど)は1,000回の治療あたり約1.3件と推定されており、深刻な有害事象は非常に稀です。
また、従来薬で見られるような性機能障害や情緒不安定といった副作用はほとんど報告されていません。副作用が少ないことは大きな利点です。
受療への障壁
- 費用の負担
Liら(2022)によれば、海外の報告では鍼灸の費用は初回15〜400ドル、フォローアップ15〜300ドルと幅があります。為替レート(1ドル=約150円換算)で計算すると、初回は約2,200〜60,000円、再診は約2,200〜45,000円に相当します。さらに、治療回数が数十回に及ぶケースもあり、経済的な負担になる可能性があります。
一方、実際の日本における円形脱毛症への鍼治療は、多くが保険適用外の自費診療で行われます。1回あたり5,000〜7,000円程度が相場とされていますが、特色のある施術を謳って10,000円を超える施術料を請求する施設も少なくありません。週1〜2回の施術を数か月続けることが一般的で、総額では数万円から数十万円に及ぶ場合があります。 - 時間の制約
経口薬や外用薬に比べ、鍼灸は施術時間や通院が必要です。仕事や家庭の事情で定期的に通院することが難しい方にとっては障壁となります。 - 針への恐怖感
針に対して恐怖感のある方にとっては心理的なハードルとなり得ます。この点についてLiらは、非侵襲的な代替手段としてレーザー鍼を紹介しています。レーザー鍼では軽度のチクチク感や一時的な疲労感などが見られることもありますが、いずれも24時間以内に解消したと報告されています。
レーザー鍼とLLLTの違い
レーザー鍼(laser acupuncture):
鍼を刺す代わりに、レーザー光をツボ(経穴)に照射する手法を指します。使用する光源にはさまざまな種類(半導体レーザー、He-Neレーザーなど)がありますが、「どのレーザーか」は重要でなく、「東洋医学的な発想で、レーザーをツボに照射する」という操作そのものがレーザー鍼なのです。
LLLT(Low Level Laser Therapy:低出力レーザー治療):
低出力レーザーや近赤外線を、皮膚や神経節・筋肉などに照射し、血流改善・炎症抑制・細胞活性化といった生理作用を狙う治療法です。東洋医学的な「経穴」には限らず、西洋医学的な理学療法や再生医療の領域でも広く使われています。
特に、円形脱毛症に対しても毛根周囲の血流や細胞環境を改善する可能性が示唆されており、国内外の研究で一定の有効性が報告されています。
スーパーライザーの位置づけ:
スーパーライザーはLLLT機器のひとつで、本来は神経や血流の改善を目的としています。ただし、臨床現場ではツボに照射する使い方も行われており、その場合は「LLLT機器を用いたレーザー鍼」と言える位置づけになります。
三重県津市のじねん堂では、円形脱毛症に対して鍼灸とLLLT(スーパーライザー)とを組み合わせた施術を提供しています。
まとめ
Liら(2022)の結論は、次のように整理できます。
- 現在までの症例報告や小規模RCTは、鍼灸が円形脱毛症の改善に役立つ可能性を示している。
- 鍼灸の作用は免疫調整やストレス軽減を介して説明できる可能性がある。
- しかし、多くの研究が「鍼+他の療法(梅花鍼、注射、灸など)」であり、鍼単独の効果はまだ十分に検証されていない。
- 今後は、第一選択治療(ステロイドなど)と比較した大規模RCTが必要である。
つまり、鍼灸は安全性が高く有望な補完療法ではあるものの、現時点では「標準治療に取って代わる」段階には至っていないというのが研究者の見解です。言い方を変えれば、鍼灸は標準治療に取って代わるものではないが、併用することで標準治療を補うことができるということです。
三重県津市で鍼灸院を探している方にとって、鍼灸は「副作用が少ない補完療法」として検討に値する選択肢です。標準治療と併用しつつ、信頼できる鍼灸院で施術を受けることで、安心して治療に取り組むことができるでしょう。
【参考文献】
Li AR, Andrews L, Hilts A, Valdebran M. Efficacy of Acupuncture and Moxibustion in Alopecia: A Narrative Review. Front Med (Lausanne). 2022 Jun 9;9:868079. doi: 10.3389/fmed.2022.868079. PMID: 35755043; PMCID: PMC9219404.
Zhang YM, Liu CH, Wang YC, Teng HL, Meng XL, Han XJ. Medicated thread moxibustion for alopecia areata: A case report. Medicine (Baltimore). 2019 Nov;98(44):e17793. doi: 10.1097/MD.0000000000017793. PMID: 31689855; PMCID: PMC6946491.
Sitong X, Chenglong W, Caiyue L, Deyuan Q, Zujie Q, Chen L. Medicated Thread Moxibustion Therapy of Zhuang Medicine and its Application in a Rat Model of Cold-Congealing Syndrome of Primary Dysmenorrhea. J Vis Exp. 2024 Jan 19;(203). doi: 10.3791/65669. PMID: 38314806.
予約
059-256-5110
営業電話は固くお断りします
月~金 9時~21時
土 9時~15時
日曜休業・祝祭日不定休
ウェブ予約
予約ページは新しいタブで開きます
免責事項にご同意のうえ、ご予約ください
同業者(療術業)の予約はお受けできかねます
免責事項
鍼による施術は痛みや出血を伴う場合があります。また、以下のような場合、施術による変化が現れにくかったり、症状の“もどり”が早かったり、施術期間が⻑期に及んだり、施術することをお断りしたりすることがあります。鍼にはネガティブな側⾯があり、万能でもないことをご承知おきください。
構造上の問題による痛み
重篤な疾患による痛み
強⼒なあるいは多種の薬剤服⽤
⾼齢・衰弱による⽣理機能の低下
取り除けない物理的刺激要因
各種⼼理的要因
アクセス
〒514-1105 三重県津市久居北口町15-7
近鉄久居駅より徒歩15分/伊勢自動車道久居ICより車で5分
駐車スペース場常2台分あり
※看板がありませんのでご注意ください

