「免疫が強すぎる」と妊娠しにくいって本当?

「免疫が強すぎると、赤ちゃんを異物とみなして妊娠しづらいらしい」

 妊活をしていると、こうした言葉を目にすることがあります。
 しかし、免疫は「強い・弱い」だけで語れるほど単純なものではありません。実は、妊娠の成立と維持には、もっと繊細な調整が関わっているのです。

 今回は、妊娠と免疫の関係、免疫の偏りが問題になりやすい場面、そして鍼灸が関われる可能性を、分かりやすくご案内できればと思います。

この記事は一般的な情報提供を目的とした内容です。検査や治療の必要性は、必ず主治医(不妊治療・婦人科)と相談して判断してください。
じねん堂はり灸治療院における不妊に対する鍼灸施術については、【こちらのページ】で詳しくご案内しています。

目次

なぜ妊娠に「免疫」が関わるのか?

 赤ちゃん(受精卵・胎児)は、母体から見ると「自分の遺伝子」だけではなく、父親由来の成分も含む存在です。そのため免疫の視点では、完全に“自分の一部”とは言い切れません。
 それでも妊娠が成立し維持されるのは、赤ちゃんを排除するのではなく、受け入れて育てる方向へ免疫を調整する仕組みが身体に備わっているからです。こうした切り替えは、子宮内膜(着床のベッド)で起こるさまざまな反応とも深く関係します。
 免疫は本来、感染や異物から体を守るための仕組みですが、妊娠中は守りを弱めるというよりも、「必要な防御は維持しつつ、過剰な炎症は抑え、妊娠が進みやすい環境へ切り替える」ことが求められます。つまり「免疫が強い/弱い」より、妊娠に適した免疫の状態、いわゆる「整い方」に近いかどうかが重要となります。

免疫が妊娠に影響する具体的な例

攻撃と守りのバランス「Th1/Th2比」

 免疫細胞の司令塔であるヘルパーT細胞には、大きく分けて、炎症を起こして異物を排除する方向に働くTh1と、炎症を抑え、受け入れ(寛容さ)を助ける方向に働くTh2があります。
 この2つのバランスを見る指標のひとつが「Th1/Th2比」です。

 妊娠を成立・維持するためには、赤ちゃんを攻撃せずに受け入れる免疫調整が必要になるため、一般に「Th2寄りの状態が望ましい」と説明されることがあります。とはいえ、妊娠の過程は単純ではなく、時期によって必要な免疫反応も変化します。着床の前後には子宮内膜が整う(適度に厚くなり、血流が豊富な状態になっていく)過程で一定の炎症反応が必要になる一方、妊娠が成立した後は受け入れ方向への免疫調整が重要になります。そのため「Th1=悪」「Th2=善」といった単純な図式で語り切れるものではありません。

 Th1/Th2比は、反復流産や反復着床不全などにおいて、免疫の偏り(炎症寄りかどうか)を評価する目的で検査が行われています。現在よく行われているのは、Th1側の反応を示す IFN-γ と、Th2側の反応を示す IL-4 という物質(サイトカイン)を用いて比率を算出する方法です。
 国内の提言(不育症に関する専門家委員会の報告)では、測定上の難しさや解釈の不確実性があるため、Th1/Th2比の数字だけで妊娠の経過を見通したり、不育症の検査として結論を出したりするのは難しいとされています。とはいえそれでも、治療方針を検討する材料のひとつになることがあります。

子宮NK細胞(uNK細胞)

 妊活の情報を見ていると、「NK細胞」という言葉を目にすることがあります。
 NK細胞(ナチュラルキラー細胞)は、ウイルスに感染した細胞やがん細胞などを見つけて攻撃する免疫細胞の一種です。なかでも妊娠との関係で特に話題になるのは、主に子宮内膜に存在する子宮NK細胞(uNK細胞)です。
 uNK細胞は妊娠初期に、胎盤形成を支える環境づくりや、子宮の血管の作り替え(胎盤への血流確保)に関わるとされています。つまりuNK細胞は、「攻撃する細胞」というより、妊娠を支える働きが中心の細胞と考えられています。
 一方で、反復流産(RM)や反復着床不全(RIF)の患者では、子宮内膜にいるuNK細胞の数(量)が多い傾向を示したという系統的レビュー/メタアナリシスも報告されています。妊娠を支える働きをするはずの細胞がRMやRIFの患者で増えているという結果は、一見すると逆の働きとも思える現象です。とはいえ現時点では、uNK細胞の数(量)だけで妊娠転帰を説明できる段階ではなく、測定方法や「数(量)が多い」と判断する基準も研究で統一されていないため、結果は慎重に受け止める必要があります。もしかしたら、RMやRIFだからこそ、身体がuNKを増やして対処しようとしているのかもしれません(※全くの当て推量です)。
 ここで混同されやすいのが、「血液中のNK細胞」と「子宮内膜のuNK細胞」を同じものとして考えてしまうことです。uNK細胞は血液中のNK細胞とは性質や役割が異なる可能性があり、血液検査の結果だけで子宮内の状態を決めつけることはできません。実際、不育症の領域で血液(末梢血)NK細胞を評価する検査は、日常診療で一般的に広く行われているというより、研究的な扱いとして位置づけられています。

自己抗体

 免疫の誤作動によって、本来守るべき自分自身を標的にする「自己抗体」が作られることがあります。妊娠に影響する免疫の話題で「免疫が強すぎる」と言われるときには、自己抗体の存在を指している場合もあります。
 その代表的なものが抗リン脂質抗体です。これが関わる病態は「抗リン脂質抗体症候群(APS)」と呼ばれます。APSでは血液が固まりやすく(血栓ができやすく)なり、胎盤への血流が十分に保てなくなることで、流産や妊娠経過に影響することが知られています。
 さらに最近では、従来の検査では見つからなかったβ2GPIネオセルフ抗体(ネオセルフ抗体)という新しい自己抗体が報告されています。原因不明の反復流産の患者さんの約2割でこの抗体が検出されたという報告もあり、見逃されてきた要因のひとつとして注目されています。つまり、抗リン脂質抗体(APS)が陰性でも、免疫と血栓の関わりが疑われるケースがあるというわけです。

「免疫が強い」という表現が誤解を生む

 妊活の情報を見ていると、「免疫が強すぎると妊娠しにくい」という言葉に出会うことがあります。
 しかしこの言い方は誤解を招きやすく、妊娠と免疫の関係を捉えるうえでは適切とは言えません。妊娠に必要なのは、免疫が“強い”ことでも“弱い”ことでもなく、必要な防御は保ちながら、着床や妊娠維持を妨げるほどの炎症反応が続かない状態に整っていくことだからです。
 免疫は本来、感染や異物から体を守るための仕組みで、「強い=良い」というイメージがつきやすい分野です。ところが妊娠の免疫は、そのイメージだけでは説明できません。「免疫が強い/弱い」という言い方は、何が問題なのか(炎症の偏りなのか、抗体なのか)をぼかしてしまい、かえって混乱を招きます。

 妊活でよく話題になるTh1/Th2比やNK細胞は、免疫の偏りや子宮内膜の環境に関係するテーマとして研究が積み重ねられてきました。反復着床不全や妊娠喪失が続く一部のケースでは、炎症寄りの免疫バランスが関連する可能性が報告されています。ただ、こうした指標は「妊娠できる/できない」を判定する検査ではなく、数値だけで結論を出せる性質のものでもありません。
 一方、免疫が関係するケースの中には、臨床的な意味合いがより明確なものもあります。たとえば抗リン脂質抗体症候群(APS)のように、自己抗体と血栓傾向が胎盤の血流に影響し得る場面においてです。「免疫が強い」という言葉よりも、「どの抗体が妊娠経過に影響する可能性があるのか」という、より直接的な形での理解が望ましいと思われます。

鍼灸は妊活における免疫の問題にどう関われるのか

 妊娠に関わる免疫は、子宮内膜の状態だけでなく、自律神経の緊張、睡眠、血流などの影響も受けます。鍼灸は免疫を単純に「強くする/弱くする」治療ではありませんが、自律神経に働きかけて全身のコンディションを整えることを通じて、妊活のサポートとして用いられています。

炎症状態への介入

 免疫は免疫細胞だけで完結しているわけではなく、神経系とも連動しています。迷走神経が炎症反応を調節する仕組みは「炎症反射」として知られています。
 妊活中は、治療の負担や生活の変化が重なり、交感神経の緊張が高い状態が続きやすくなります。すると、睡眠が浅くなったり、手足が冷えやすくなったり、疲れが抜けにくく感じたりすることがあります。こうした「身体が休息・回復のモードに切り替わりにくい状態」が続くと、炎症が落ち着くまでに時間がかかることがあります。
 鍼灸では、交感神経の高ぶりを和らげ、副交感神経が働きやすい状態を目指すことで、「休息・回復モード」への切り替えを図ります

子宮内膜への働きかけ

 薬を使って“着床が継続しにくい状態”を作った妊娠初期のラットに鍼刺激を行ったところ、子宮内膜の中で、炎症や免疫細胞の動きに関わる物質(CCL2、CXCL8など)の作られる量(産生量)が正常に近い方向へ変化したという報告があります。あわせて、子宮NK細胞(uNK細胞)の内訳にも、着床や妊娠維持にとって好ましい方向の変化がみられたとされています。
 また、子宮内膜が薄くなった状態を作ったラットにお灸を用いた研究では、子宮内膜の厚さや組織の状態が改善し、脱落膜化(妊娠を維持するための変化)に関係する反応も整う方向へ変化したと報告されています。
 もちろん、動物で得られた結果をそのままヒトに当てはめることはできません。ただ、こうした報告は、「子宮内膜の環境は鍼灸の刺激に反応しうる」こと、そしてその反応が着床や妊娠維持にとって好ましい方向へ動く可能性があることを示唆するものです。

IVFとの併用

 臨床研究としては、体外受精(胚移植)の前後に鍼治療を組み合わせた報告があります。たとえば胚移植の前後に鍼治療を行った群で、行わなかった群より臨床妊娠率が高かったという報告もあります(鍼治療群42.5% vs 対照群26.3%)。それぞれの研究ごとに条件が異なるため結果には幅があるものの、鍼灸を行うタイミングが妊娠の結果に関わる可能性が示されています。
 このような研究を踏まえ、当院では病院での不妊治療を軸にしながら、採卵・移植の時期に合わせて、卵巣や子宮の血流、子宮内膜の状態、免疫の働きに着目した鍼灸の併用をお勧めしています。

妊活の結果に関わり得る要因

 妊活における免疫の話題は、検査や治療だけで完結するものではなく、睡眠やストレス、栄養状態など、全身の影響も受けます。ここでは、妊活の結果に関わり得る要因として、よく話題に挙がる事柄を簡単に紹介します。

ビタミンD

 ビタミンDは骨の健康に関わる栄養素で、不足が続くと骨が弱くなったり、骨の痛みや筋力低下につながったりすることがあります。妊活の領域でも、免疫や炎症反応との関係が注目されており、必要に応じて血液検査で不足の有無を確認する場合があります。
 一方で、サプリメントは「多いほど良い」ではありません。摂りすぎると吐き気・嘔吐、強いだるさ、頻尿などの不調につながることがあり、体に負担がかかる場合があります。日光からビタミンDを得る方法もありますが、長時間の無防備な日光浴は日焼けなど皮膚への負担になるため注意が必要です。
 補充が必要かどうか、どの程度の量をどれくらい続けるかは個人差があるため、自己判断で増やさず、主治医の指示に従うことが肝要です。

精子の状態

 妊活は女性側だけでなく、男性側の要因も重要です。近年は、精子の状態を「数」だけでなく、酸化ストレスや精子DNAの損傷(断片化)といった観点で捉える話題も出てきています。
 精子の状態には、喫煙、睡眠不足、過度の飲酒、肥満、慢性的なストレスなど、生活要因が影響することがあります。こうした負担を減らすことは、妊活の結果に関わり得る要因として軽視できません。

まとめ

 妊活で「免疫が強すぎる」という言葉を目にすることがありますが、妊娠の免疫は強弱では説明できません。実際問題として重要なのは、「必要な防御を保ちながら、妊娠の妨げになり得る炎症が続かない状態へ移行できるか」という点です。Th1/Th2比やNK細胞は研究が積み重ねられているテーマですが、数値だけで妊娠の可否を決めることはできず、一方で、抗リン脂質抗体症候群(APS)のように、臨床の中で検査や治療が組まれることが多い領域もあります。
 妊活における免疫の話題は、「免疫が強い/弱い」のように単純化してではなく、炎症の偏りなのか、自己抗体なのかなど、実情に即した捉え方を心掛けたいところです。

【参考文献】
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